包囲網


京で起きた将軍足利義輝が殺された永禄の1565年5月19日より日ノ本の中心である京には将軍不在の状態となる、しかし、三好による新たな傀儡将軍を擁立すべく足利義栄を担ぎ出し、亡くなった先の将軍義輝の弟義昭の勢力と争いとなり京が揺れていた。



甲斐国武田信玄も上杉と戦っていた第五次川中島合戦は両軍ともに布陣するも戦闘を行わず睨み合いの状態で終結した、これにより信玄は明年1556年上野国長野が治める箕輪城攻略に動き出す。



那須正太郎は武田太郎が率いる騎馬隊を引き入れた事とは別に上野国長野業盛と対武田に対する計略を順調に進め、箕輪城周辺の農民を翌年の春前、田植え前に那須へ避難させる為に徐々に農民の移動を行っていた、箕輪城を占拠してもその年の米の収穫は与えない為である。



避難する農民の数は約2000名であり既に那須の各村で向かい入れの準備を整え農民を向かい入れていた、箕輪城の兵2000名も受け入れる為に烏山城近くにある使用されていない廃城を整備し向かい入れる事にした。



避難する農民及び城兵を養って行くだけの兵糧の米は新しい田植えによって石高が増した那須には充分に備蓄されており何も問題が無かった、兵糧が武器となる時代である。



史実では武田信玄が上野国箕輪城を攻略した事で周辺の国人領主達が武田側に付き、勢力を拡大し駿河侵攻を開始する、それとは別にほぼ同時期に織田信長が美濃を攻略し朝倉の庇護を受けていた将軍候補の足利義昭を祭り上げ京に上り一気に京周辺を勢力下に入れようとする動きと並行しており、これまで以上の大きな流れが始まった時であると言えよう。



武田信玄側の大きい渦と、織田信長の大きい渦に、那須、小田、北条がどの様な渦を作るかによって史実とは大きく違う流れとなる、但し、那須と小田はその渦を作る前に佐竹が敷いた包囲網を破らなければならない。




── 常陸佐竹 ──




佐竹は結城白河家、常陸結城家、宇都宮家、小山家に頻繁に使者を遣わし那須、小田に対する包囲網を完成させるべく動いていた、その中で結城白河家の反応が弱く包囲網が完成していなかった、その理由は佐竹に対する不信であった、前年まで散々結城白河家に侵略を繰り返し、矢祭、塙、棚倉領半分を侵略しており、那須が勝った事で銭で棚倉の半分の領地を取り戻し、矢祭と塙は那須の領地となっている、そもそもその様に領地が減った原因は佐竹が起こした侵略が原因ではないかという感情が強かった。



そこで佐竹は仲介に本家の結城家を間に入れなんとか陣営に引込もうとした、結城白河家は結城家の庶子の家であり分家である、本家に遠慮して結城白河家と名乗っていた。



佐竹が結城白河家に提示した条件は宇都宮と小山が那須と合戦を開始し、手薄となった芦野と伊王野を攻めて欲しい、芦野と伊王野であれば両方で残っている兵も500もいないであろう、であれば結城白河家も楽に戦が行える、勝った時には、矢祭りと塙を結城白河家の領地とする話であった。



その条件を聞き、矢祭と塙を返すのは同然な事であり、芦野と伊王野の地も我ら白河が攻めるのであれば芦野と伊王野の地も領地となるのが当然であり、それでなければ参加はしないとの回答であった。



佐竹側も仕方なく、此度はこちらの要請であるため、勝利した際に芦野、伊王野の地も結城白河家に渡すと言う証文を書いて陣営に引き込んだ。



それにより各家との条件も整い包囲網が完成した、証文を交わす事となり、那須、小田に勝利した場合は両家の石高40万石を以下の様に取り決めた。



常陸結城家には、土浦周辺の5万石

宇都宮家には、大田原周辺4万石

小山家には、烏山城西側の一帯と大田原手前周辺4万石

結城白河家には、芦野伊王野と矢祭、塙5万石

佐竹が得る領地は、23万石(那須小田との戦いで減った領地の回復と烏山東側と小田の残地3万石)



佐竹の執念が実り年の暮れに那須、小田包囲網がここに完成した、侵攻開始時期は田植えを終えた年明け5月中旬とし、日時は後日決定する事にした。



那須に対しては結城白河が北より芦野と伊王野を攻め、宇都宮と小山が共同で烏山城を攻め、那須側を降伏させる、常陸結城は佐竹と共同で土浦の小田城を攻め降伏させる。



前回の反省から佐竹は鉄砲の数を400に増やし、盾兵の足軽数をしっかり整える事にした、土浦の小田とも何度も合戦をしており小田は野戦での合戦を行わず籠城戦を得意としていた、今回もその様になるであろうと考えるも念の為に盾兵の数を揃えるのであった。



結城白河、宇都宮、小山にも那須は騎馬隊が中心の野戦を好み弓での攻撃が主体であるため盾兵を用意すれば、数で押し切れると伝えていた、兵数を比較すれば次の様になる。



佐竹20万石、兵数6000、結城10万石、兵数2600、計8600名、対する小田家全兵数6000名



結城白河塙、矢祭を除く10万石、兵数2600、宇都宮15万石、兵数4000、小山8万石、兵数1800、計8400名、対する那須家全兵数6000名。



那須軍はこの年石高が増えた事により那須軍騎馬隊は増員を行い全体の兵数足軽含め6000名の陣容となる。



攻撃の主力である騎馬隊の那須七騎を、那須本家2000名、大関家、800名、大田原600名、福原400名、千本、芦野、伊王野にて各350名、計4850名を目指す事になった、この数字に正太郎の騎馬隊は含まれていない。




── 那須正太郎 ──



火薬試験場にて鞍馬天狗より。



「この兵器が元寇の際に蒙古兵が弓とは違う、火薬を用いた武器『てつはう』で御座います、再現が出来ましたので御覧下さい」



「この陶器の中に火薬と礫つぶてを多数入れます、この紐を持ち、この導火線に火を付け敵側に放り投げるのです、いま見せまする、御下がり下さい、では」



「この様に、導火線に火を付け、振り回し敵に向かって投げます」



とお~りゃ~! ドカーン と鳴り響き陶器が割れ火花とともに礫が飛び出す・・・・



「お~~危ない武器であるな、炸裂音も大きく、肝が冷えたわ、よくこんな武器を考えたのう、蒙古は300年前からこの様な武器があったのか」



「これは手で『てつはう』を投げる武器ですが、届く距離が人が投げますので良くて35間程63.7mになります、そこで鞍馬に伝わる武器であります石火矢を作りました」



「この五峰弓を大きくした大五峰弓の矢に先程の陶器の『てつはう』と同じ物を竹筒の中に火薬と礫が入った筒を矢に取付け、この大きい弓にて放ちます、見ていて下され、では」



バシュートと音を立て飛び出す、150間程先で矢が落下し先程と同じ爆発が起きた。



「これはまた凄い事を考えたのう、凄いぞ天狗殿」



「はい、鞍馬にはもともと竹筒に油を入れ弓で打つ石火矢という武器があるのです、それを『てつはう』で利用出来る様に応用したのです、礫を入れた竹筒は重くなるのでそれで大きい五峰弓も作りました」



「これは両方あった方が良いのう、火薬を用いるので危険ではあるが調練すれば大丈夫そうであるな」



「石火矢の方が騎馬隊の方であれば弓に慣れておりますので問題ありません、大五峰弓も和弓とほぼ同じ大きさなので馬上から撃てます、手で投げる『てつはう』は足軽が行えばよろしいかと思われます」



「これは強力な武器である、五峰弓の矢も弓之坊が新しい矢にしたので敵の鎧を撃ち抜ける矢に成った、次の戦も油断さえしなければまず勝てるであろう、この『てつはう』を多数作り小田殿にも与えねばなるまい、天狗殿よ多数作る様に手配を頼む、火薬は小田殿にも調達して頂こう、先ずは見本を10組小田殿に渡し、弓之坊が作った新しい矢も送ろう」



「はっ、わかりました、新しい矢の数に多少不安がありますので各村から手先が器用な者を集めて頂きたいのですが?」



「わかったでは城近くの村々に通達を出し、儂の館に来てもらおう、増産する手配を頼む、後、佐竹、結城白河、結城、宇都宮、小山に配下を忍ばせ注意深く見張ってくれ、洋一から来春田植えが終われば侵攻してくると伝えられた、今から半年後じゃ、長野殿の件もあるので風魔と連携を密にして図って欲しい」



「今の内に油屋に大量の火薬を用意させ年が明けたら船を出し、調達して来よう、大量の兵糧丸も必要になろう、よしその手配は儂が行うので天狗殿よろしくお願いする、それと奥方の伴殿の具合はどうであるか、無理してはおらぬであろうな?」



「はい、まさか、やや子が出来ておりまして嬉しいやら驚きやらで、今は城近くの鞍馬の宿にて安静にしております」



「それは楽しみだ、百合と半兵衛の式も年明け3月だし、同じくアウンとウインも三月じゃ、目出度い年になるぞ、賑やかな年になりそうだのう」



「某はもう忙しい事に慣れ申した、若様の側にいれば暇は御座いません、わっはははー」


「あっははは、儂は本当は暇が欲しいのじゃ、戦を勝ち、天狗殿のお子が生まれたら暫く温泉に浸かろうでは無いか、武田殿の話では板室の温泉は相当効果があると申しておった、飯富殿が膝を悪くしていたのだが、膝が治り今ではピンピンしており走れるとの話じゃ、戦に勝ったら温泉に皆で行こう」



「お~それは良いですな目標が出来ました、若様楽しみにしております」





三つの大きな渦、包囲網を突破しないと渦に飲まれてしまいます。

次章「軍師玲子の包囲網」になります。

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