第51話 異体同心


4月下旬、正太郎の私室に鞍馬天狗と一党を代表する者、芦野忠義、千本義孝、福原資宏、山内一豊が集結していた、正太郎へ、天狗から配下40名についての報告を受けていた。  



「うむ、では予定通り既に道々に配置し、後は敵が動くのを待つだけじゃな」



「はいその通りです」



「芦野、伊王野別動隊には5名の者が付いております」



「うむ、では忠義、この後、山内騎馬隊を率いて芦野城に向かってくれ、芦野伊王野騎馬隊が100と足軽50で、全部で150名になるはずじゃ、佐竹が、太田城から進軍したと飛風から報告を受けたら、一気に攻め込むのじゃ」




「よいな、忠義、お主達の働きで那須家は大きな一歩となる、止めを刺す様なもんじゃ、一豊そちの武勇を示す時が来たぞ、頼むぞ」




「はい、見事ご期待にお応えいたします、吉報をお待ちください」



「千本は、佐竹追撃となった時に、父上の別動隊をお借りする手はずになっているので、その者達を率いてあの場所を押さえるのじゃ、既に抑える場所は鞍馬の者が知っている、敵がいたら蹴散らし押さえるのじゃ、よいな」



「はっ、某も見事若様に吉報をお届け致します」



「我らの心は一つぞ! 必ず勝つのじゃ、福原は儂の側に居て動いてくれ、では皆の者頼むぞ」





── 菓子職人 ──




いつの間にか、料理人から菓子職人になってしまった飯之介、職人村で新たに雇った料理人4名と、農家の婦人達にも手伝ってもらい、こちらも戦争状態となっていた、竈を10台作り、麦菓子を最低5万枚作る様に正太郎から命を受け、こちらも大騒ぎであったのだ。




石臼を何台も用意し、麦を粉にし、砂糖と油を混ぜ、焼いては作り、焼いては作りと、延々と作業を行い、そんな中、追加で2万枚という寝る暇を惜しんで作る飯之介であった、備蓄していた砂糖も底をつき、あ~これでもう作れないと安心していると、那須家お抱え商人、茶臼屋が砂糖50貫(187.5キロ)を納品したのである、追撃の手を緩めない若様にもう勘弁してくれ~と、心の中で叫ぶ飯之介であった。






── 母上と侍女他百合 ──





避難して来る農民達を受け入れ、炊き出しを手伝う正太郎の母上、当主の妻である藤、避難して来る農民の数に圧倒されるも、これが戦であると覚悟を決め、陣頭指揮を取る藤であった、元気な農民の婦人達から100人程炊き出し隊に加入させ、150名の者達を炊き出し隊として指揮を取っていた。



即席の竈を10台を1グループとし、5グループ作り、城の二曲、三の曲輪に避難民を入れ、二の曲輪の責任者に百合に、三の曲輪の責任者に藤の筆頭侍女がそれぞれ侍女と農民の婦人を従えて3000人を超える避難した者達へ炊き出しを行っていた。



当主の妻、藤は、日頃の穏やかな顔から、第二形態の顔である、自分の顔を般若の顔に変え、戦闘能力を上げ炊き出しに取り組んでだ、藤にはあと二回、戦闘能力を上げる顔を持っている。



城とは籠城戦も含め、数千人は収容できる機能が備わっている、水、食事、厠、休息所など曲輪に備わっているのが城である、烏山城は山城であるが、山一つが要塞となっており、これまでに一度も陥落した事は無い。



戦国の妻達も戦の中で生まれ育った女性達、現代の女性とは生きる上での覚悟がそもそも違う、戦いに負けるという事は全てを失い、自分は元より家族も失うという覚悟の中で生きているのである。





── 異体同心 ──




殷の紂王は 七十万騎 なれども 同体異心 なれば いくさに まけぬ


 周の武王は 八百人 なれども 異体同心 なれば かちぬ



紂王は名君の素質があったが、臣下が自分より劣る為、政にやる気を無くし、王として政治をお疎かにしていた、そんな中、一人の美女と出会う、名を妲己だっきといいます、紂王は彼女が望んだ事をなんでも叶えていきます、この妲己こそ九尾の狐妖狐です。 



妲己に骨抜きにされた紂王の政治は荒れに荒れ酒池肉林と化します、忠勤な者は諫言すれば殺されて行きます、殷の国はとても大きい大国です。



そこへ小国であった周の武王との戦いになります、周の兵士は800人、殷の兵士は70万という恐ろしい程の差があります、しかし、いざ戦いとなると、70万の兵士たちが、一斉に両側に広がり中央に道を作ります、周の800人の兵士達が通れる道を作り、紂王へ攻撃が出来る様にしたのです。



味方に見捨てられた殷の紂王は戦に負けます、勝った武王はこれより周王朝を築きます、少ない人数でも、同心の心なれば、大きい敵にも勝つという故事である。



那須家の置かれている状況はまさに周の武王と同じである。




※ 余談として、負けた紂王の側室、妲己はその後、日本に来て、平安時代末期、鳥羽上皇の寵姫、玉藻前たまものまえに化けて妖怪の狐(妖狐)として、多くの人々の命を奪います、その妖狐は陰陽師の安倍泰成に見破られて東国に逃れ、上総介広常と三浦介義純が狐を追いつめ退治します、退治された狐は石に姿を変えたという伝説がある、これが今もある、那須殺生石の伝説である。




現代でも妖怪の中で最も最強とされているのが九尾の狐である、尾の数が多いものほど位が高く、強いとされている、アニメ『NARUTO』主人公に人柱力として九尾の狐が封印されている。





── 佐竹親子 ──





そもそも敵側の佐竹とは、常陸の国は太平洋に面し、大きい霞ヶ浦をほぼ手中に収め、気候も温暖で大変豊かな国である、佐竹が支配する地域は常陸国の中心地域から北側全ての地と、背を海に守られている、石高は40万石という関東の中では一つ抜き出た大国である。



史実ではこの戦いの翌年、佐竹義昭は1565年11月に35才で亡くなっている、その生涯は休む暇なく、戦いの連続であり、特に関東管領上杉家が越後長尾家に身を寄せてから、近隣諸国に対して好戦的となり、那須家、小田家、白河結城家、宇都宮家等と合戦が繰り広げられる。



調略も行うなど、敵であった勢力とも時には合力し、戦を起こして勢力拡大に努めた、義昭は35才で亡くなるが、嫡子、佐竹義重が16才で、前年に父、義昭より家督を譲られている。(やや諸説あり)



この義重の代でより一回り大きい大国となる、特に有名なのが、佐竹の鉄砲隊、関東で一番の数を揃えた鉄砲隊である、その数8000という強力な鉄砲隊である。 (やや諸説あり)




つまり佐竹と言う家は、戦国の世にあって戦に次ぐ戦の中を勝ち上がり家を大きくしてきた家であり、当主は絶大な権力志向が強く、カリスマ性の強い強権的な当主である。



時には関東管領の指示にも従わず、上杉謙信とも反目し、戦線を離脱し北条に有する動きを見せるなど、中々どうしてやっかいな家という見方も出来る、義重の代で、戦国期終焉には勝ち残り佐竹54万石を作り上げてしまう、近隣諸国から見れば恐ろしい家が佐竹なのである。





── 陣振れ ──




佐竹陣営は5月1日中に集結する様に陣振れを発し、騎馬隊150、鉄砲隊150、足軽他3200、合計3500という陣容、居城には700程の兵を残しての万全の態勢で那須家侵攻とした、佐竹の石高を考えれば全兵力12000である、その内の約30%の精鋭を揃え、短期決戦で那須を陥落させる絵図を推し進めた、出陣の日は5月3日早朝とした。




那須陣営も佐竹が5月3日に侵攻開始という事を事前に情報を得ており、同じく5月1日に陣振れとし、騎馬隊は5月2日に佐竹が侵攻して来る道中に伏せる為、各隊が出発する事となった。



佐竹に対する騎馬隊は、20名を1組とし、15組が編成され300名が組まれ、それとは別に用意された芦野伊王野別動隊は、騎馬隊100名、足軽他50名の150名が別動隊として5月1日に出動し、佐竹本体を攻撃する本軍とは別の動きを行う事になる。



那須家が用意した兵力は、騎馬隊400名、足軽他1000名、合計1400名となった、那須家総動員の兵力である。



那須家の総動員した兵力とは別に、正太郎は、鞍馬一党40名、福原資宏を初め10名程を用意し、鞍馬一党40名は本軍と別動隊へ、佐竹の動きと、最新の情報を伝えるべく潜伏し既に動いていた。



小田陣営はこれまで佐竹による卑怯な調略により何度も領内の村がかすめ取られ、本来10万石あった領地が減り、7万石という劣勢の中で那須家との軍事同盟が結ばれた事により、一気に跳ね返し、佐竹に強烈な反撃を行うべく、小田家総力をあげて取り組んでいた、騎馬隊の補充と強化、足軽動員数の増員を行った。



その結果、騎馬隊120、鉄砲隊20、足軽他2000、合計2120という最大兵力を揃え、又、那須家嫡男、正太郎より、兵糧丸麦菓子2万個が届き、心憎い手配がされていた。



小田家は5月2日陣振れ、佐竹が那須本軍と激突する前日に太田城に向け進軍する事とした、これにより、いよいよ佐竹家、那須家、小田家、による1564年5月決戦目前の時を迎えた。






どんな展開になるのか、興味が沸きます。(いつもの他人事です。)

次章「・・時は今成・・・五月哉」になります。

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