助の活躍


西上野の箕輪城改築は順調に進んでいる事を見届け、後は城主の長野業盛を中心に工夫達で作業を仕上げる事になり正太郎一行は烏山に戻り田植えとなった、堺の油屋から文が届き確認するも良い内容が書かれておらず堺の状況だけ判明した。



「やはり堺は織田信長殿に矢銭を払ったそうよ、それも2万貫という大金だそうだ、それと堺が織田の支配下に置かれ商いは出来るようだが、どこの大名に何をどれだけ売ったとかの報告をすることになったと、特に鉄砲については一丁単位で報告するそうだ」



「堺を支配するという事は当然そのようにしなければなりません、堺は日ノ本一の商人の町です、悪事を考える者達も堺からいろいろと仕入れを致します、まあー当の本人もその可能性がありますが」



「当の本人とは織田殿の事か?」



「ええ、その通りです、悪事を働く者は他に悪事を働く者にとって勝手知ったるなんとかという事になりますから抑え方も上手かと思われます」



「今の半兵衛の意見どう思うか十兵衛も同じか?」



「そうですね、私も似た意見です、ただ織田は武田とは違うかと、織田の場合は歯向かう者に対して厳しく、その厳しさは武田よりも上でしょう、頭を下げて来る者の使い方も上手かも知れませぬ、とぢらにしても我らは油断は禁物になります、まだ織田の目がこの東国に向いておらぬ内に国力を上げる事が一番かと思われます」



「前にもその様な事を言っておったな、油屋からの文では今回の織田と堺の会合衆で争った事で港を一時封鎖したので南蛮船の数が少し減った事で砂糖が入っておらぬとの事だ、九州の長崎に南蛮が行っているそうよ、それと小田原と安房に知り合いの南蛮船の船長には貿易で向かう様に紹介状を渡しておいたと書かれている」



「なるほど、その南蛮が小田原か安房の港に来るようであれば大助かりで御座いますな」



「まあー先の見えない話じゃからどうなるか、それより来月ぞ、一豊に任せておるが大丈夫であるかな、一豊が時々予想外の動きをするから少し心配じゃ!」



「まだあの蛇行綱引きの件を気にしておられますのか?」



「あれは一豊殿の責任では御座らん、飯富殿と・・・・殿が変な入れ知恵を、そのまま実行したので失格になっただけで御座る」



「あっははは、あの場面を思い出す度に笑えてならん、綱引きを相手にさせない為に綱を左右に振って邪魔をする技とは、あれは妨害だ、よくもあんな手を思い付いたものよ、それをそのまま実行するとは、一豊は何処か抜けておるとおもう心配なのじゃ、そこで此度はあの蛇行綱引きの件もあるから、悪知恵を授けた張本人の半兵衛にも蝦夷に行ってもらう、どうじゃ半兵衛」



「飯富殿は行かぬのですか?」



「それがのう、ちと耳を貸せ、まだ誰にも言ってはならんぞ、太郎の話だと・・・・・という話なのだ、連日昔話の相手に呼ばれておって・・・・・だそうなのだ、太郎が焼餅を焼いており儂に言い付けたのよ」



「なんと・・・あのお方様が・・・あの強面の飯富殿の事が・・・・で御座るか?」



「誰にも言うてはならんぞ、違うかも知れんし、間違って話を漏らし飯富殿に知れたら蛇行突撃を喰らって殺されるぞ!」



「そんな訳で飯富殿は連れて行けぬのよ、それにあの地の今後を見据えた場合半兵衛か十兵衛に一度は行って来てもらわねばなるまい、何しろ広大な土地なので、それとその土地の人々を知る機会は多い方が良いであろう」



「解り申した、某行って参ります、蝦夷の地と島々の大きさは若様の地図で知り驚きました、この下野の国が数十個入る大きさです、あれをみすみす何もせずはこの半兵衛も心残りになります、此度は色々と調査を兼ねて行って参ります、出来ましたら福原殿も是非お願いします」



「え~と今回は、前回と同じ300石の船だから米と芋とか食料で80石分が減るから残り220石の重さまで大丈夫なので、伝馬船の小舟の帆船二隻で50石分、残りが170石だが全部積載したら危険だから100石分(1.5t)を余裕分として残りが70石だから、一豊隊15名と鞍馬3名、侍女2名(くノ一)、医師1名、通訳に梅の1名これで何名じゃ・・・22名か、他に船大工幸地達5名、小者4名、船長他操船で12名で、全部で43名、それと色々な品を乗せて50石~60石分か、食料100石分は乗せすぎかもし知れん、60石程度で良いか、あとは澄酒、空樽、大釜、前回より人が減った分駒15頭で行けるか?」



「馬は多く持って来て欲しいと言っておったから出来れば20頭と行きたいが・・・いやまてよ士官学校を卒業した者も増えており、操船出来る者が今は50名はおるから帆船二隻で行くか? そうなれば、馬を40頭にして米も、もっと持って行ける、うん、それが良い、それで良いな半兵衛!?」



「此度も一カ月程滞在して宜しいのですか?」



「当分何も無いから秋までに帰れば良いであろう、その辺りは半兵衛に任す」



「船が二隻になるのであれば現地調査をする時にもう少し人がおった方が良いかもな、あと10名程半兵衛の家からでも補充しても良いぞ」



「今回は現地を良く調査し知る事じゃ、それと所々に石碑に那須家の領地としての目印を記すのじゃ、さすれば那須が先に手を付けたとの証拠になる」



「ではそのように手配り致します、福原殿には若から伝えて下され」



「では出向は5月10日と致します」



「うん、それで良い」




このような経緯ほ経て第二回蝦夷遠征に一豊と半兵衛達を乗せ出港したのである。






── 浅井長政 ──




「長政よ、この信長の態度をどう感じているのだ、あのような上からの物言いで朝倉に京に上れとは、既に天下人にでもなった物言いでは無いか、将軍が辛い時に助け庇護していたのは朝倉ぞ、あれでは朝倉の面目が立たぬであろう、お主も信長と同じ意見なのか?」



「何度も上京するように義昭様が依頼しても京に上らず見事応えたのが義兄であります、今は天下の副将軍で御座ります、その義兄の織田様が京に上り将軍家を襲う者供を共に退治しようとの話でありませぬか、それのどこが間違いと言うのでしょうか?」



「確かにその点は認めよう、しかし、その事と他家を見下して良いという事では無いぞ、他家の力を借りるという事であればそれなりの礼儀と言う物があろう、儂が言っている事はその事ぞ、お主の信頼している義兄の織田殿の所にどれだけ集まったか? 力で従えた者達だけでは無いか、力で抑え抗えない者達だけでは無いか、そこに大義があり、礼があればもっと多くの者が来る筈では無いか、儂の言っている事は間違いか?」



「父上は理想を語っているだけで御座る、義兄が義昭様を京に上らせ三好を払い将軍に成れたは義兄の功績であり、皆それに嫉妬しているだけです、父上も、もう少し大きい目で物事を見て下され」



「判ったそこまで言うのであれば、お主から信長に言うが良い、朝倉にも朝倉の意地があるのでしょう、ここは礼を持って京に上がるよう某が朝倉に使者として参りますと」



「そうすれば朝倉がどのように考え何故応じぬのかお主にも理解出来よう、義兄の為に人肌脱いで見るが良い、お主が朝倉に使者となって無事に朝倉が京に上がれば、儂は城から出て庵を結び浅井の家の事から全て手を引こうでは無いか、どうだ行って見るか?」



「判り申した、では、その時は今後一切口出し無用で御座いますぞ、では某より義兄に文を書き許しを得ます」



浅井親子の問答から長政が使者として朝倉に赴く文を書いた所、信長からの返事は実に容赦ない事が書かれた返事であった。


そこに書かれていた内容は、将軍の政を行う事を任された信長の命は将軍の命であり、それに逆らうは逆賊に等しい事である、仮に長政が使者として話し京に上る事を朝倉が行ったとしてもそれは将軍の命に応えた事にならない、もう一度温情を持って朝倉に京に上るよう命じる、二度命じても上らぬ場合は反逆の意志ありと見なす、という事が書かれていた、この信長の返書を何度も何度も繰り返し読むも長政はスッキリ出来ずにいた、父が言う事も理に適っており、義兄が言う事も理に適っている、そもそも朝倉が上がらぬ理由は果たして嫉妬だけであろうか、他にも理由があるのでは無いかとの思案に行き着いた。



「誰かおるか片桐直貞を呼んでくれ」


「殿、お呼びでしょうか?」



「これから話す事誰にも言うてはならぬ、その方朝倉に縁戚がおったな、その縁を頼り、何故朝倉が織田の義兄からの京に上る要請を断っているのか、その本音を探って来て欲しい、何か特別な理由があるような気がして来た、この話、誰にもしてはならぬぞ、父にも内緒の事ぞ、そち一人で動くのじゃ、良いな」


「判り申した」






── 蝦夷根室 ──




「お~あれが蝦夷の根室で御座いますな、無事に着きそうですね、某このように船で遠くまで来るは初めての事で御座る」



「某とて二度目になります、蝦夷の根室の人達は良い方達で御座った、此度も喜ばれると思います、何といっても馬を40頭お持ちしましたので、これだけでひと財産ですぞ、若様も剛毅な方である」



「え~本当です、来年辺り元服かと思われます、既に背丈は大人と変わりませぬ立派な殿になるでしょう」



「しかし半兵衛殿、儂もそうですが、あのまま美濃におったら蝦夷など絶対に来なかったでしょうな、あの地図を見た時に世とはこんなにも広い物なのかと、早く蝦夷でも良いから遠くの世界を見てみたいと心が躍りました」



「某も同じです、那須に来て若様に出会い、身体が少々弱かったのですが、今はどこ吹く風です、今は果てしなく夢が広がっております」



「十兵衛殿も供したいと言っておられました、あのお方も夢想家で御座います」



「夢想家で御座いますか、若様のお陰で皆夢想家で御座いますな、あっはははは」



「あの岬を曲がれば安全な湾があります、後半刻程でしょう」




── 助の活躍 ──




「おっ、あれは助ではないか、助だ助がいる、お~い、助殿、お~い お~い!」



「どんどん人が集まって来ておりますぞ! 銅鑼を鳴らせ、皆に聞こえる様に鳴らすのじゃ!」



「暫く振りじゃ助殿、元気そうであるな、こちらは覚えておるかのう、竹中半兵衛殿じゃ」



「え~覚えております、よう来て下さいました、皆喜んでおります、それと報告があります、某結婚致しました、今やや子が腹におります」



「なんとそれはお目出度い、よう御座ったな、蝦夷の奥方であるな」



「はい、あの村長である酋長の娘と結婚致しました」



「そうでしたか、今酋長と呼ばれましたが村長とは違うのですか?」



「似ておりますが、長の上に長がいて酋長と呼ぶようです」



「そうでしたか、先ずは元気そうでなりよりです、馬も沢山持って来ましたぞ、若様から必要な方へと、先ずに酋長に挨拶をさせて下さい、案内をお願い申す」



「お~兄のアエトヨ、弟のアエハシでは無いか、逞しくなったのう、また会えて嬉しいぞ、これから酋長の所に挨拶に行く所じゃ、一緒に行こう」



一豊は前回一カ月程滞在していたので顔見知りが多く、向こうも笑顔で挨拶を次から次と現れた、村では既に多くの者が集まり酋長と広場で一豊達を待っていた。



「イソンノアシ様お久しぶりです一豊です暫くお世話になります、こちらは半兵衛と申します」



「イソンノアシ様半兵衛と申します、どうかよろしくお願い致します」



早速二人は酋長の家に招かれお茶を出された、エント茶と呼ばれる薬草の茶であり、疲れを癒す心地よいお茶である。


酋長の座る後ろには前回訪問時に与えた大小の太刀一組が立派に飾られており威厳を放ちより立派な酋長の雰囲気に一役買っていた、そこへ今度は今回は鎧兜と武具を一式プレゼントした。


今回の一豊達一行を迎える歓迎の宴は助が酋長の娘と結婚した事とマタギとしてこの半年間でヒグマを6匹倒しており、英雄としての立ち位置になっており、周辺の7村からも貿易を行いたいと希望も一豊達が来た時に呼んで欲しいと言われており、7村と酋長の村8つでの大規模な歓迎の宴を行う事になった。


明日はこの村だけで行い二回に分けて宴を行う事になった、酋長の部屋で話した後、助の家に移動し、半年間の出来事を再度聞く事にした。



「助殿半年間で7つの村と誼を深めたのか、凄い事で御座る、大活躍で御座るな、この地図でどのあたりの村か判るかのう?」



「はい、一番遠くはこの島、色丹島になります、話によればこの根室の蝦夷人の仲間が増え島々に渡った仲間だそうです、私も一度連れて行かされました、それとこの厚岸と塘路湖とうろこ周辺の2村、摩周湖と屈斜路湖になります、彼らは湖を中心に村を作るそうです」



「酋長の元には他にも多くの村が関心を示している様で我らの事が大きく知れ渡りそうです、それとこの地図のここに居る蠣崎という大名が支配している地域はこの洞爺湖とうやこ周辺までだそうです」



「良くぞ調べたのう、それに7つの村と言ってもこれだけ広い地となれば様子見の村も多かろう、この蠣崎の事は何か他にも聞いておらぬか?」



「蝦夷人を奴隷にしているようです、蠣崎から逃げたて来た者からの話では昼間働かされ夜は狭い部屋に集められ寝るそうです」



「やはりのう、蝦夷人の話では、武田と同じ匂いがする家のようである、そんな奴らが荒らす前に我らでこの蝦夷を含め那須と関係を深める事としよう、助殿が酋長の娘と結婚をした事で良い方向に進んでおる、助殿のお手柄である」



「それとどうであるか、あのぺト二の樹液から砂糖液を採る事はどうなっておる」



「前に蔵を作って頂き、二斗樽100個を預かり既に70樽は入っております、この村以外にも先程の村の蝦夷人達が協力して頂き、集めております、中身もしっかり煮詰めた樹液になっております、昔から利用している液だそうでそれ程難儀はしませんでした、それと海獣の肉と油、干鮭、干鯡、干鱈、串鮑、串海鼠、昆布、魚ノ油、干鮫、塩引鮭、も沢山倉庫にあります、彼らは米や陶器を沢山欲しいとの事で交換しております、特に鉄の刃物は何でも欲しいとの事で、手持ちの物は無くなりました」



「お~それでは今回も沢山持って来た、それと二隻出来たので倉庫をもう一棟作る予定である、交換する品については心配しなくても大丈夫である」



「駒も40頭を持って来ておる、これで行動範囲も広がるであろう」



「それは大助かりです、それとアエトヨ、アエハシが某の配下として働いております、それと酋長の兄弟が倉庫管理など手伝ってくれており、助かっております、出来ましたらその者達にも小太刀を授けたいのですが」



「お~それは良い事じゃ、小太刀を持つという事で我らの仲間になったという意識が強くなるであろう、大小の太刀は、我らの仲間になった酋長に一組を渡し、手伝う者には小太刀を与えよう、それでどうであるか」



「大変に喜ぶと思います」



「まあいろいろ持って来ておるから安心するが良い」



その日の夜は特に歓迎の宴も無く助を中心に蝦夷での生活など聞きながら澄酒を味わい楽しい一晩であった、翌日は村での歓迎となり那須の者達と酔った勢いで綱引きと相撲を行うなど村の衆と再会を喜ぶ祝いとなった、特に最初に那須と縁した村であり、各家家にも麦菓子、着物の反物、陶器などを渡すなどした。





助が勝手に活躍しておりました、メイプルシロップもなんとかなりそうですね。

次章「真田の忍び」になります。

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