御旗 楯無も ご照覧あれ!


── 信長の焦り ──



「拙い、拙い、拙いぞ、信玄が来る、家康がこうもあっさり叩かれるとは、安易に佐久間を付けたのが間違いじゃった、あの馬鹿者は放逐しておけば良かった、親父の代から家老として居座り、時には儂にまで偉そうに講釈を垂れる、戦では逃げ回り、期待に応えた事が無い、生きて戻ったら放逐じゃ!」



「猿! さっきからそこにおるが、何を言いたいのだ、はっきりと言え!」



「はっ、本願寺に集結しておりました、約2万近くの者達、一向の奴らが、どこかに消えました、今、手の者を使い探しております」



「なんだと、絶対に探すのだ、どこに向かう気じゃ、まさか、尾張ではあるまいな、儂は今動けんぞ、拙い拙い、拙いぞ、このままでは崩壊するぞ!!」



「義昭じゃ、義昭の機嫌伺いを猿お前行って来い、場合によっては和議をしなければ崩壊する、信玄が来たら終わりぞ、猿、機嫌伺いをして来るのだ、それと管領だ、管領に再度使者を送れ、全てが終わってしまうぞ、ちきしょう、ここまで儂を追い詰めるとは、将軍と言う位だけで、兵を持たぬ義昭を舐めておった!」



信長は追い込まれていた、信玄が京を目指し、進軍した事で浅井、朝倉、一向門徒、三好諸家の反信長派はここぞとばかりに攻勢を仕掛けて来た、本願寺の一向勢力がどんどん膨れ上がり新たに集結していた2万近くの死兵がどこかに向かった事で戦局が大きく動くと予感していた信長、もちろん自分に取って相当不利な動きであると察知していた。


信玄のゆっくりとした動きは顕如と連動しており、一向門徒が各地より集まる状況に合わせて動いていた、当然その事を理解していた信長は手を打つも後手後手となり、思うように有利な形とはならず家康が大敗した事にも衝撃を受けていた、野田城が陥落すれば、三河の岡崎城、そして京に向けて進軍して来ると、実に危うい踏み石を渡る状況であった。





── 爺様の活躍 ──




「爺様、申し付け通り、館から持って参りました、これで宜しいですね!」



「うむ、では大切に隠しておいてくれ、最後に使うでな、武田家の秘宝である、戦に勝てばこれで正式にお前が当主になれる、儂の役目もこれで果たせる、最後は甲斐の山々の中で眠りたいのだ、乱れた時の流れを戻す機会が訪れようとは、そちもそうじゃが、儂も那須殿に感謝しても感謝しきれない、飯富などは知らぬ間に再婚し、お主の父となった、笑いが止まらん、儂らの出番が間もなくじゃ、遠慮はいらん暴れるぞ!!」



「判っております、私も蛇行を身に付けました、暴れまわります、間違った道を歩む武田家を某が正道に戻します、ご安心下さい!!」



「お・・飯富、間もなくぞ!!」



「若様、父上と呼んでも良いですぞ! 私はどちらでも良いのですが、練習をした方が・・・」



「え~い、煩い、勝利したら父上と呼んでやる、勝ってからじゃ、飯富、抜かるな!」



「では勝利して見事父上と呼ばせましょうぞ、この飯富虎昌の蛇行をお見せ致します、信虎様もご無理なさらずに!!」




── 義重 ──




「良し、合図の狼煙だ、運べ、急ぎ運ぶのだ、我らの出番が来たぞ、火薬は夜露で濡れておらぬだろうな、確認は大丈夫であろうな?」



「はっ、大丈夫です、問題ありませぬ」



「ふふふふ皆が驚くであろうな流石は天下の弓之坊様様である、武田の騎馬も役に立たぬ事に成ろう、なにしろ120もの砲が炸裂するのだ、天地がひっくりかえる騒ぎとなろう」



佐竹海将は120もの木砲を積み大津浜から船を走らせ三方ヶ原手前で待機していた、必ず那須本陣に向け信玄が襲って来る、その際に向かって来る敵勢の多くは武田の槍騎馬隊が怒涛の勢いで蝗のように襲って来ると説明を半兵衛より聞き、騎馬隊の数が多く、混乱させるには石火矢の炸裂では無理であろう、木砲と石火矢、大五峰弓、と五峰弓の攻撃が必要であり、どれも欠けては止められぬ、特に木砲が重要であると説明を受けていた。



「物見が戻りました!」



「和田衆の忍びによれば武田が若様の本陣に向かっているとの事です、急ぎ木砲の準備を終えて下さいとの事です!」



「うむ、大丈夫だ、間もなく配置に着く、新式の木砲の威力に驚くであろう」



那須では鋳物技術が北条より劣る為木砲を作ったが、洋一から内側に青銅の板を、螺旋状に凹凸を付けた青銅板を円筒形にして、その外側に木で包む木砲を提案され、作られた新式の木砲である、要は内側に青銅の筒が有り、螺旋状に凹凸があり、より遠くに砲弾が飛ぶ、精度自体も完成度が高く、内側が青銅である為、強度もそこそこあり、耐久性が格段にあがり鋳物の砲と遜色ない出来栄えと言える、重量も軽量であり騎馬が引く荷車での移動も楽に行え、騎馬から離した荷車がそのまま、砲台になるよう工夫されており、とても扱いやすい新式の木砲である。



「良し、火薬を詰めろ、弾を設置せよ!!」



「狙いは先頭の騎馬隊に合わせよ! 一斉に放つぞ、弓之棒殿宜しいですか?」



「距離500間になったら合図を送ります、まだまだですぞ!」




── 魚鱗 ──



信玄が好む陣形は魚鱗と鶴翼であった、魚鱗は野戦時に攻撃を主力とした際に用い、鶴翼は相手を弄り殺す時に使う陣形である、勝つのは当然であるが、どのように勝つか、今回の戦いでは那須資晴の陣に一気に力で押寄せ、那須の戦力を奪い、その後に鶴翼の陣形に変え弄り殺す事を考えての、最初は魚鱗とした。



「魚鱗を展開せよ、魚鱗を五つ作るのだ、五つで大きい魚鱗とせよ、盾を持て、那須の矢を防ぎ突っ込むのだ、足軽は後ろに続け、騎馬隊の後に続き慌てふためく那須の奴らを突き刺し殺すのだ、出来れば那須資晴を生け捕りにせよ、磔に致す! 皆の者、前進せよ!!!」



信玄は多くの騎馬隊を抱えている事から魚鱗を五つ作らせ、それぞれが攻撃出来る塊を作り、その五つが巨大な魚鱗としての陣を築いた、攻撃力特化の魚鱗が五つという恐ろしい陣形を組んだ。



「良し、止めは勝頼、お前の隊でもう一つ魚鱗を作り本陣の前に配置せよ!!」




── 激突 ──



資晴の軍勢総数16000の内本陣を守る兵数5100。

芦野忠義、馬廻役1000騎(弓騎馬隊)と長柄足軽500騎他伝令100騎


本陣前に防御専用八門3500名が資晴の本陣を囲みゆっくりと時計周りに回り八門を作り出している。

1・長野業盛率いる第一長柄足軽500騎 

2・長野業盛率いる第二長柄足軽500騎

3・長野業盛率いる第一長柄足軽500騎 

4・長野業盛率いる第二長柄足軽500騎

5・蘆名盛氏率いる長柄足軽500騎 

6・佐野昌綱率いる第一長柄足軽500騎

7・佐野昌綱率いる第二長柄足軽500騎


八卦の陣(八門遁甲の陣)布陣、八門前方に攻撃特化の騎馬隊が三段に分かれて配置される。


『最前線第一段』3500名

1・千本義隆率いる第一騎馬隊(弓)500騎 

2・千本義隆率いる第二騎馬隊(弓)500騎

3・山内一豊率いる第一騎馬隊(弓)500騎 

4・山内一豊率いる第二騎馬隊(弓)500騎

5・芦野家第一弓騎馬隊500騎 

6・芦野家第二弓騎馬隊500騎 

7・芦野家第三弓騎馬隊500騎


『最前線第二段』3500名

1・伊王野家第一弓騎馬隊500騎  

2・伊王野家第二弓騎馬隊500騎 

3・伊王野家第三弓騎馬隊500騎  

4・福原資広率いる第一騎馬隊500騎

5・福原長晴率いる第二騎馬隊500騎 特別隊長、弓の名手福原資広の従兄

6・佐野昌綱率いる騎馬隊500騎 

7・蘆名盛氏率いる騎馬隊500騎


『第三段槍騎馬隊、蛇行突撃隊』槍2000名+弓400 計2400名

1・武田太郎率いる第一騎馬隊(槍)500騎+弓騎馬隊100騎

2・武田信虎率いる第二騎馬隊(槍)500騎+弓騎馬隊100騎

3・飯富虎昌率いる騎馬隊(槍)500騎+弓騎馬隊100騎

4・蘆名松本率いる騎馬隊(槍)500騎+弓騎馬隊100騎


八卦の陣には明智十兵衛率いる騎馬隊(弓槍混合)1500騎は別動隊として動いていた。




武田信玄の軍勢は総勢31000名、内ち本陣を守る兵数6300。

信玄の本陣の守る守備隊         長柄足軽3000 

武田勝頼   武田太郎の義弟       騎馬隊2000    騎馬予備軍

穴山信君   ご一門衆  側近      騎馬隊1000    本陣馬廻役

真田信綱 騎馬200騎侍大将     騎馬隊 200   母衣ほろ衆 伝令役

真田昌輝   騎馬 50騎侍大将     騎馬隊100  母衣ほろ衆 伝令役


攻撃騎馬隊  9000の内、魚鱗7500

魚鱗1 秋山信友 譜代家老衆         騎馬隊1500    突撃隊 

魚鱗2 一条信龍 信虎の八男         騎馬隊1500    突撃隊

魚鱗3 高坂昌信 譜代家老衆  二期四天王  騎馬隊1500  蛇行突撃隊

魚鱗4 山県昌景 飯富虎昌の弟 二期四天王  騎馬隊1500  蛇行突撃隊

魚鱗5 内藤昌豊     側近 二期四天王  騎馬隊1500  蛇行突撃隊

馬場信春 三代に仕えた将 側近 二期四天王  騎馬隊1500  蛇行突撃隊

馬場の騎馬隊は別動隊として魚鱗の陣には不在。


長柄足軽隊  8500

小幡昌盛   足軽総大将          長柄足軽3000    突撃隊

小山田信茂  譜代家老衆          長柄足軽2000    突撃隊

土屋昌次   譜代家老衆          長柄足軽2000    突撃隊

三枝守友   足軽大将           長柄足軽1500    突撃隊


援護隊は本陣やや後方に控えており何時でも指示通りに動ける部隊その数7200

武田鉄砲隊                      600   攻撃援護

武田弓隊                   弓兵 2000   攻撃援護

武田工兵隊                     1000   攻撃援護

諏訪衆     軽装足軽雑多混合軍         1500   支援

諏訪太鼓衆(100名)                 100   支援

その他兵糧部隊                   2000   支援




「敵勢目前となった!! 大五峰弓用意、放て!」



武田の騎馬隊が600間と迫る中、長さが一間(1.8m)はある銛のように大きい矢が一斉に放たれた、100台の床弩しょうどと呼ばれる大きい五峰弓を3連も連結し滑車で弦を張り矢を設置し放つ、飛距離は最大700間とされている、人にあたれば射抜かれ即死する、馬も一撃で仕留める威力、矢が大きい分相手に対する威嚇にも使用出来、大きい石火矢も放てる。



「次、用意せよ・・放て!、次、用意せよ・・放て!、良し、次石火矢を用意せよ・・放て!」



次から次と巨大な矢が飛んで来る、爆発する石火矢まで飛んで来る事で武田騎馬隊の進む勢いは急激に弱まり、警戒しながら盾を構えゆっくりと進む騎馬隊、そこへ今度は木砲が火を放つ!



「良し、500間を切ったぞ、狙うは先頭の集団だ! 良く狙え、木砲を放て!!!」



一斉に火を噴き、大砲の巨音が鳴り響く、雷鳴の如く大きい音に驚き次々倒れる先頭の騎馬隊、馬達も音に驚き暴れ上手く操れず振り落とされる者続出、それを後方で見ていた信玄。



「え~い、何をぐずぐずしておるのだ、一気に駆け抜けろと言ったではないか、敵の攻撃にあたる奴は少数なのだから気にせず敵陣まで行けば良いのに馬鹿者達が、母衣衆、真田! 真田! 秋山達に伝えて来い、砲が撃たれたら弾込めに時間を要するから、その間に一気に突き進めと言って来い! 矢は盾でなんとかしろと!!」



「はっ、承知しました」



武田騎馬隊も最初は驚き手古摺ったものの、一旦後ろに下がり隊形を組みなおし、再び突撃体制に入った。



「では某、秋山が最初に向かいます、隙を見て二陣三陣と魚鱗にて突っ込んで下され!」



「承知した、秋山殿ご武運を!!」



秋山隊残り1200騎が魚鱗である三角形の隊形で再び、突撃を開始した。



「良し、木砲を放て!、次、大五峰弓用意、放て!」



それぞれ100台の木砲と120台の床弩から砲弾と矢が放たれ次々と倒れる騎馬隊だが、1000騎もの多くが500間以内の距離に入り徐々に近づく450間・・・400間・・・半兵衛が右手を上げ、200間の距離を切り手を下げ、一斉に第一段の弓騎馬隊3500騎から五峰弓から矢が放たれた!



「撃て、連射にて迎撃せよ!!」



900騎・・・800騎・・・600騎・・・500騎と、あっと言う間に打倒される騎馬隊、那須騎馬隊3500騎を操る者達は矢を片手に3本持ち、次から次と連続で矢を打ち込める、武田騎馬隊に1万本以上の矢が狙って飛んで来る、木砲からの砲弾も大五峰弓の矢も飛んで来る、残り50間距離で武田の秋山騎馬隊は全滅となる。


秋山隊が全滅したのを見た騎馬隊は覚悟を決め飛び出そうとした時にその場に留まる太鼓の音が聞こえ、急ぎ母衣衆が信玄からの指示を伝えた。


三枝守友足軽大将が長柄足軽1500名を率いて盾板を持たせ、右側に長さ100間の壁と正面に長さ50間の壁を作り那須本陣に向けて走り出した、横と正面に盾の壁で騎馬を守り本陣に近づけ突撃させる策を指示した信玄、所詮木砲と大五峰弓の犠牲になる者は運が悪く防ぐ事は出来ない、それなら五峰弓からの矢を防ぐ事で最小限の被害で敵陣に到達出来ると判断した。




「半兵衛まだ動かぬのか?」



「もう少しお待ち下さい、敵の騎馬隊をもう少し削ります、何しろ我らの倍程の数なれば、相手は信玄です、味方の犠牲など考えずに力攻めで来ます!!」



「うむ、判った、今度は盾兵と一緒に来るぞ!」



「先頭の騎馬隊に木砲を放て!」



「良し、もう一度先頭じゃ! 放て!」




佐竹が放つ木砲で一度に50人程が盾兵騎馬隊と薙ぎ倒されその場で即死又は動かぬ犠牲者を生み出し被害を与える中、馬が驚かなくなった、耳の中に布を入れ塞ぎ音を聞こえない様にしたのである、馬の耳栓は現代でも帽子のように両耳をかぶせて音を聞こえない様にして落ち着かせるイヤーネットなどもあり臆病な馬には効果がある。



「大五峰弓用意、放て!、良し、狙いを定めて木砲を、放て!、次は石火矢じゃ! 放て!」



近づく敵を飛び道具で薙ぎ倒して行く那須軍、武田騎馬隊との距離は近づくも盾兵も騎馬隊も数を大幅に減らして行く、ここまでの戦闘で那須軍にはほぼ被害は認められない。



「厄介じゃのう、あの木砲と大きい矢で近づく前に削られ、近づいたと思ったら又しても矢でやられてしまう、しかし、敵の攻撃は見定めた、一旦騎馬隊を陣に戻させろ、隊形を変える、攻めの陣形を変える!」



戦には緩急の流れがある、特に攻撃する方が一旦休憩に入ると自然と守っている側も同じ様に休憩となる、人は緊張した中で何時間も戦えず、自然と緩急が必要になって来る、戦とて同じである。


一方、死兵を相手にしている北条の連合軍も圧してはいるが僧徒が多く、その指示に従う衆徒である死兵に手古摺っていた、その報告を聞き、半兵衛は攻撃する第一段目の7番隊の芦野家弓騎馬隊500騎に連合軍と戦っている一向の指揮官達の僧徒を弓で削る様指示を行った、死兵は多くとも指揮する者がいなければ闇雲に戦うだけの兵であり、援軍が速く武田と向き合えるように指示を出したのである。



「どうじゃ、戦はどんな感じじゃ?」



「はっ、御屋形様、戦は激しく、戦場が大きく二つに分かれております、一つは北条様達の軍勢と一向衆と門徒達、兵数がおりますので時間は要している様ですが、圧っしている様です、もう一つは武田信玄の騎馬隊と資晴様になります、今の処被害は無さそうです、半兵衛が上手くかわしております、又、武田も様子見の戦仕掛けの場面かと!」



「では我らの出番はまだじゃな、物見をしっかり放ち伝えてくれ、それと鞍馬殿我らの事、露見すれば我らを頼り資晴に隙が生じる、露見せぬよう頼む!」



「判っております、では!」



当主資胤も戦場近くに布陣しており、何時でも参戦出来る位置にいた、しかし、敵、味方にも察知されずに待機する事を選択していた。



「良いか、敵那須の動きは掴めた、こちらが塊となって進むは敵の的となり犠牲が増えるだけじゃ、そこで一旦魚鱗を解き、長柄足軽8500が厚みを取り長い横陣に展開する、その後ろに騎馬隊残り6000で同じ様に横陣に展開する、その後ろに諏訪衆と弓隊3500で援護と穴の開いた足軽への増援の隊形を敷く、長い横陣なれば敵の攻撃も分散され、被害は軽減出来る、その儘近づいた処で那須の陣に蛇行突撃せよ、陣を崩し混乱させるのじゃ、そこへ勝頼の騎馬隊2000が魚鱗で突撃するのだ、これで決着がつくであろう、後は北条の雑魚どもをゆっくり仕留めるのじゃ!!」



信玄が総勢20000の攻撃陣を整え、本気の力押しを決断した、時刻は午後3時。


大軍同士の野戦激突は双方どちらも決しようとする場合1日で決まる事が多く、それだけ本気での命を掛けた戦いと言える、今ここに武田信玄が勝負を決する時と判断した。

両軍の距離は約2キロ、那須が敷く八卦の陣は常に太陽を背にしており、今は南西側にあり、お互いの距離が縮まっていた。



「武田の軍勢が横陣に展開しております、長さ約300間約550m弱の長い横陣になります、間もなく進軍を行う模様です!!」



「如何やら武田が力押しで本気で攻めて参ります、その距離800間を切りましたら第一段を切り離します、今から佐竹軍を陣後方に移動させよ、近づく敵勢を撃て、大五峰弓も半円で態勢を展開せよ!!」



「若、勝負処が間もなくです、覚悟は大丈夫ですか?」



「何を言うかオブ・・いや父上、これで甲斐に戻れます、新しい国作りが漸く出来るのです、オブ・・いや父上、ここで死んではなりませんぞ、母上が嘆きます、頼みましたぞ!!」



「あっはははは、某の事を父上とおっしゃいましたね、信虎様どうやらこれで私も父に成れそうです、甲斐に凱旋致しましょうぞ!!」



「ふっふっふっ飯富よ、それは良かったのう、儂も最後は甲斐で眠る、儂の蛇行もこれが最後であろう、今日は大蛇行で行くか、奴らの蛇行は未だシマヘビであろう、我らの蛇行には那須の弓士が付いておる、毒の大蝮となり、ちと痛い目に合わせねばなるまい!!」



「武田が動きました20000の軍勢が向かって来ます!」



「木砲用意、大五峰弓用意、同時に放つ! もう少し引き付けろ・・・」



「距離800間を切りました!」



「良し、放て! 用意出来次第連続で放て! 放て! 放て! 放て! 放て! 放て!」



「倒れる敵多数なれど止まりませぬ、その距離500間を切りました!!」



「良し、第一段弓騎馬隊迎撃に出陣せよ!ありったけの矢を打ち込め! 遠射と直射にて騎馬隊を削れ! 佐竹木砲隊、大五峰弓の者達は待機せよ!」



20000の武田の軍勢に次から次と砲弾と巨大な矢が撃ち込まれ、それでも近づく騎馬隊に向かって第一段の弓騎馬隊3500騎が正面の長い横陣に弓攻撃をする為に出陣した。



「良し、敵正面の足が遅くなった、第二段弓騎馬隊は両側から遠射と直射にて挟撃を行え、第二段出陣せよ!!」



正面から向かって来る横陣の速度が遅くなり引き続き第二段の弓騎馬隊を今度は両側から攻撃するために出陣させた。



「敵勢の足軽の足が止まりました、盾で矢を防ぐ事に集中しております、後の武田騎馬隊が出て来ます、騎馬隊に動きがあります」



「良し、大三弾槍騎馬隊、蛇行突撃にて敵騎馬隊を粉砕せよ!!」



武田も次ぎ次と新しい動きを見せる中、半兵衛は第三段の太郎達騎馬隊をついに送り出した。


那須の第一段、第二段の弓騎馬隊は8500もの足軽を相手に矢を打ち込み完全に足が止まり一方的に攻撃を行っていた、盾で守ると真上からも矢が降り注ぎ、兜の無い者は倒れていく。



「良し、武田太郎義信出陣致す、幟を上げよ、御旗を掲げよ!!! 出陣じゃ!!」



「那須の陣から騎馬隊が出て来ました、我らの半数以下と思われます!」



その距離400間、300間、150間、50間・・・・!?



「何事ぞ、何故攻撃せぬのだ? 真田、確認せよ!! 急ぎ攻撃する様に伝えよ!!」



「なんとこれは・・・・御旗 楯無・・・この幟は?・・・えっ、敵将は?  太郎様? 飯富殿・・・あれは・・・ご先代様か・・・山県様・・山県様・・・あれは・・あれは・・もしや!!」



「そうじゃ、我が兄と太郎様そして、ご先代様じゃ、どうして良いか皆困惑しておるのじゃ、急ぎこの事を御屋形様に伝えよ!!」



武田の騎馬隊6000と太郎達の騎馬隊2400の激突では、お互いが蛇のように蛇行しなから近づき攻撃を狙うも、那須の騎馬隊を率いる武将が武田太郎であり、その横に元四天王の飯富とご先代の信虎がいる事に、そして掲げる幟は武田家のご請訓でもありお家根幹の『御旗 楯無もご照覧あれ!』と書かれた旗が背負われていた、その多数の幟に中に武田家の秘宝の鎧が馬の背にあった事で武田騎馬隊は攻撃出来なくなったのである。


御旗とは後冷泉天皇から源頼義が下賜され、その息子義光(新羅三郎)に相伝されたもので、これが義光の子孫甲斐源氏の家宝、日の丸の旗である、縦1.39m、横1.57m、日の丸の径1.26m、日の丸は赤で染め出された武田家の秘宝中の秘宝であり門外不出の旗を用意した。


盾無しとは、日の丸と同じく下賜された鎧で、小桜韋威鎧(こざくらかわおどしよろい)兜・大袖付という名の武田家秘宝中の秘宝であり同じく門外不出の鎧が馬の背に乗っていた、盾無の意味は盾を必要としない丈夫な鎧であり強き鎧であるという事である、武田家ではこの旗と盾の前では全ての者が逆らう事は許されない品物である。


この旗に書かれた文字の前では何人も逆らえず当主の判断に従わなくては成らないという誰一人逆らう事なく従えと言う不文律が何代にも受け継がれており、この旗を背負っているという事は武田太郎が当主であり我に従えという事を暗に命じているのである、その横には飯富と、ご先代の武田信虎が証人としているという事になる。


6000騎と2400騎の騎馬隊が50間の距離を縮めようと詰めよれば遠ざかり両者がぐるぐると円を描き、太郎の命に従わぬ騎馬隊に襲い掛かろうとしいた、数の少ない太郎達が6000騎を圧倒していた。


そんな中、武田20000の軍勢でまだ動かぬ騎馬隊が二組あった、一つは2000もの騎馬隊を率いる勝頼と、行方を晦ましていた馬場の騎馬隊1500騎であった。


そしてもう一つ、那須の騎馬隊も一組が行方を晦ましていた、明智十兵衛率いる槍弓混合の騎馬隊1500騎である。





さあー大詰めですね。

次章「勝頼と太郎」になります。

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