第38話 深謀遠慮
次の手、奥の手、見えない手、辛抱が深謀になる。
無事に評定を乗り越え、新たな臣下を二名得た正太郎、忠義に鞍馬天狗に来る様に手配し、メノウ職人を呼び藤田市松が正太郎の前へ。
「どうであるか、仕事はそろそろ取り掛かれそうか」
「はい、作業場も出来上がり、いろいろと始められまする」
「そうか、それは良かった、今日来てもらったのは、この透明な板を見てもらいたい、油屋より物が大きく見える板なれど、小さいが傷あり、汚れてもおり、メノウ職人なれば石を磨いていたと聞いたゆえ、この板を綺麗に出来るであろうか?」
「はっ、油屋様にお世話になっていた折りにこの板と同じ物を磨き、傷を取り除いおりまする」
「おっ、それは、それでは、これも綺麗な透明な板に出来るかのう?」
「はっ、お時間を頂ければ出来るかと思います、あと刀研ぎ師が使用しております、仕上げに使用します一番目の細かい砥石をご用意頂ければ大丈夫で御座います」
「それは良かった、物を大きく見える板ゆえ、この細かい傷をなんとかせねばと思い、そちが石を研ぐ職人だと思い出して呼んだのじゃ、目の細かい砥石も用意する、一つ頼まれてくれ」
「はっ、喜んでお受け致します」
「それで透明になった板をこの様に木の筒に入れて動く様にして欲しいのじゃ、板が出来たら、飾り職人の左之助に、この紙に書いた様に作って欲しい、と伝えて欲しいのじゃ、これを渡す故頼んだぞ」
以前、洋一から遠くが見える、遠眼鏡、スコープの簡単に出来る作り方を伝えられ、作成する事にしたのである、翌日には平家の里より、鞍馬天狗が来た。
(小学生低学年でも工作で作れる方法である)
「急がせて済まぬ、那須家でも無事に佐竹攻略に向けて儂が軍師と認めて頂けたので、今度は、戦の後の事に手を打とうと呼んだのじゃ」
「はっ、滅相も御座いませぬ、お呼び頂き感謝致します、某も相談したき事がありましたので、助かりました」
「では、天狗殿の話から聞こうではないか」
「はっ、平家の里、及び、鞍馬の里にて、身寄りのない子を引き取り育てておりますが、やや大きい、7才以上の子も沢山おり、7才以上の年齢では、中々、鞍馬の修行には遅き年となり、引き取りはすれど、どの様にすれば良いか悩んでおりました」
「引き取りの子供はどの位おるのか」
「7才以下が30名、7才以上が同じ30名ほどおります」
「7才以下の子供も、修練を行うも、中には不向きな者もおりまする、その場合は平家の里にて、表側の者へ養子とし、農民となる道もありますが、7才以上となれば、その者達を最初から農民となりますれば、平家の里では、あまり農地に向く土地がありませぬ、今は大丈夫ですが、今後の事を考えねばなりませぬ」
「7才以上で忍びに向かぬ者を儂が持っている村、これから益々広がる職人達の弟子として採用し、それでも収まらぬ様であれば、忠義の父、芦野殿に頼み、農家へ養子として養って頂き、田を増やし、新しい村を起こして石高を増やして行けるのではないか?」
「どうであるか、忠義よ」
「父の芦野の領地も隣の伊王野殿の地も、領地は広けれど、耕す農民が少なく中々石高が増やせませぬ、子供を引き取る家には、その子を養う手当を行えば皆、助かるのではないでしょうか?」
「父からも那須の家は領地は広けれど、耕す農民が少なく石高が増やせないと嘆いたおられた、どうであろうか、鞍馬殿、忍びに向かない子供はこちらで向かい入れるので、それでどうであろうか?」
「ではその様に取り計らいます、平家の者も安心して取り組めるかと思います」
「今度は儂からの確認と依頼で良いかな?」
「では、以前、蒙古弓の解明と同じく、蒙古が使用していた武器の てつはう についてはその後、解明はどうなっておるのかのう」
「はっ、てつはうの仕組みは解明出来ております、ただ火薬を使う武器の為、火薬を入れるに適した大きさの器と火薬の量を、見極めている所です」
「鞍馬100貫が堺にて油屋からの紹介で納屋という商家から購入した火薬は、火薬として既に調合された物であり、新たに用意するために、火薬の元になる硝石、硫黄、炭、松脂の配分が今少し不明で、いろいろと火薬を作り試しております所です」
「では、個別の材料は買わなくても済むのか? 」
「鞍馬は古き忍びであり、数々の秘事が伝えられております、硝石と言う火薬の石の作り方も伝えられておりますが、それぞれの配分が不明の為、四苦八苦している所です、なにしろ危険な火薬の事ゆえ、今少しお時間が必要かと思います」
「そうであるか、ゆっくりで良いので進めてくれ」
「ここからが儂の依頼の話なのじゃ、ここだけの話であるが、佐竹との戦はそれ程時間も掛からずに勝てると踏んでいる、そこで那須家が勝った場合に、天狗殿にも教えたが、常陸国、佐竹から領地を得る腹積もりである」
「そこでじゃ、問題となるのが、佐竹は関東八屋形という称号を得ている、合戦にて領地を得たからと言って足利将軍家が仲裁に入り、横槍が入る恐れがある、そこで、先に今の内に、将軍家を押さえる一手を打てまいかと考えたのじゃ」
・・・・・・
「今の内に帝に近づき、那須家には帝が付いているという、表立っての動きをしておきたいのじゃ、実際には帝が那須家に付いていなくても問題ない、将軍家にその様に思わせて置く事が出来れば、余計な横槍を入れない様にしておきたいのじゃ」
「なるほど、では、それを某はどの様に致せばそうなるのでしょうか?」
「そこでじゃ、そもそも平家の里にいる鞍馬は、元をたどれば帝をお守りする忍びある、今の帝をお守りしている忍びも同じ鞍馬であるな」
「はい、その通りです」
「その繋がりをたどるのじゃ、鞍馬の一党は、那須家にてお仕えしている、今は戦乱の世である、帝に万が一危険が及ぶ様な事があってはならぬ、那須家は小さい家ながら、陰ながら帝をお支え致しますという理由で、今の帝をお守りしている鞍馬の元に行き、挨拶をして来るのじゃ、その時に、ご自由にお使い下さいと言って、ここに用意した銭、100貫と、干し椎茸と塩と砂糖を献上するのじゃ」
「その様な大金・・どうされたのですか?」
「父上から、盗んだのよ(笑)・・・いや借りたのじゃ、あははは、どうであろうか、天狗殿であれば挨拶位は出来るであろうか?」
「はっ、元をただせば同じ鞍馬なれば、挨拶程度は問題ないかと、ただ帝をお守りするのが、鞍馬であるゆえ、挨拶が出来たらからと言って今後の繋がりが出来るとはなんとも言えませぬ」
「それは、構わぬ、那須家が、陰でお支えしますという、姿勢が伝われば、特に見返りは、長い目で見れば良いかと思う、手順は、荷車に那須家の家紋を掲げ、堂々と帝様への献上の品であるとして京に入り、帝をお守りしている天狗殿より、帝に伝わりさえすれば、那須家が帝に品を献上したと世間に伝わる、仮に繋がりが出来なくとも、そちたち天狗殿の責は何もない、どうであろうか、行ってくれるか?」
「勿論でございます、鞍馬の里を率いる天狗の長である私の役目と心得ます」
「では、これを持って、訪ねてみてくれ、那須家の御朱印も用意してある」
「はっ、承りました」
数日後に千本義隆と天狗殿配下にて、京に向け出立した、正太郎はいつの間にか、独り立ちし、自ら考えた手を打ち出していた。
その頃、令和の『一射入魂』で玲子の心を仕留めた筈であった洋一と玲子は複雑な展開を繰り広げていた、玲子は、洋一からの『一射入魂』の告白にまさかあの様な形で心を撃ち抜かれ、結婚を承諾した事に、承諾した自分に憤慨していた。
確かに冷静に考えれば、洋一と言う青年は、真面目であり、弓道をしているだけあって礼儀正しく、仕事もしっかりしている結婚の対象としては合格である。
しかし、しかし、なのである、そこに至るまでの道のりが二人には無かった、玲子は、やはり現代の女性、女心とは、複雑であり恋のストーリーを求め、自分が納得出来る結果を得たいのである、洋一との結婚は承諾したが、洋一からは、時々差し入れのコンビニお菓子と膨大な野菜・・・・
最後は、『一射入魂』と言う、いきなり告白されて撃沈した自分に、どこにも結婚に至る恋のストーリーが無かった事に、・・・・おのれ洋一め、という思いと、告白された事に頬を赤くしている自分に恥ずかしさもあり、感情が情緒不安定になっていた。
洋一も、いつもの態度とは違う、落ち着きのない感情が表に出ている玲子に戸惑っていた、確かに結婚を承諾してくれた、洋一の心には、はっきりと玲子を好いている感情があり、結婚出来る事をこの上なく喜びたいという気持ちなのに、玲子の態度が理解出来ないでいた。
そんな中、弓道場で矢を放っていると、洋一の高校時代からの先輩である、桜から、話があると言われ聞く事に。
「ちょっと洋一、今日は乱れているね、いつもの流れとちょっと違うぞ、困った事とか悩みとかあるのか? こないだここに女性を見学に連れて来た人と関係あるのか? 私に言ってごらん、私はお前の事を何年も見ているんだから、彼女と何があったのか?」
えっ、やばい、桜先輩になんかばれてる、桜先輩は、洋一にとって姉御であり、武道における絶対上位者なのだ、あっ、ちょっと、彼女の事が、よく解らなくてと話す洋一、こっちに来なさいという休憩場へ、そこで洋一が玲子と結婚をする事になった話を聞き、桜からお見合いだったのか、いや、違います、親の勘違いもあって、同じ名前の今成で・・・変な説明を聞きながら桜が質問する。
「ところで洋一、今まで彼女とか付き合った経験は?」
「ありません」
「そっか~ 原因はそれかもね」
「えっ、なんですか?・・・」
「さっきも聞いたけどお見合いなら最初から結婚が前提だけど、洋一と玲子さんはお見合いじゃないよね?」
「はい」
「それなのに、お前が告白し、結婚まで決まったと、そこまでの結婚に至るまでの経緯が二人には無いでしょう?、このままだと、結婚まで辿り着けないかもよ、玲子さんは破棄するかも」
衝撃の一言が驚きの言葉が桜先輩から告げられ・・・唖然となる洋一。
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