第11話 平家と鞍馬・・・3


 少しして後、女将がお茶を持ってそれぞれに茶を渡し、一口、二口と飲み、何となく落着き、正太郎が天狗に続けても良いかと確認し、頭を上下に振り。



「要するに、これより数十年後に、その洋一からの知らせでは、那須家と、この平家の里が、重大な危機に陥り、消滅する危機が訪れるという実に恐ろしい内容が私に伝わったのである」


「それを回避するには里にいる鞍馬の子孫の力を得て、蒙古襲来時に使用されていた強き弓を利用せよとの事とであり、その力を得ない限り那須家と里の者たちに悲劇が訪れるであろうとの予言的な事柄を幼い私に伝える内容であったのだ、故にこの度、危険を冒してまで私が父上から許しを得てこの地まで来たという事なのじゃ、どうかここまでの話を信じて欲しい」



「天狗殿よ、どうであるか、不思議なる話であろうかと思うが、わし自身に、とても不思議な事が連続して起きており、どうやらこの洋一から伝わる内容は誠の事であると確信を持って今回来たのじゃ、さらにその上で私の様な五才児が知りえる事が不可能な、ある秘法を洋一から授かりそち達に伝授し、行ってもらおうと授けにまいったのじゃ」



 暫く沈黙の後。


「わかりました、正太郎様の身に起きた出来事は中々理解出来ませぬが、不思議なる事が起きたのは確かなのでしょう。そこまでの秘事をお話し下された以上、鞍馬なる者達についてお話致しましょう」



「我ら鞍馬の起源は今より、聖徳太子様の時代に遡ります、聖徳太子様より帝を守り政を支える者達として、太子様が日ノ本に律令の仕組みによる、治世を行う為に、志能便(しのび)なる影となり支える者達を任命し各地へ放たれたのが始まりです」


「我ら鞍馬の一党は帝を守り、他の勢力よりお命は勿論の事、帝を支える使命を与えられた者達です、国々に放たれた志能便達は帝を支える地方の豪族の元へ放たれ、それぞれが名を変え使命を全うしたのです、しかしながら時は流れ時代は、帝を中心とする公家達が行う律令政治から武家が政を行う治世に変わりました。志能便の者達も時代の流れとともに役目が変化し、それぞれの地域を収める武家を仕え始め、いつしか今のように伊賀、甲賀、風魔などそれぞれが別の道を歩むようになったのです」



「それでは、鞍馬なる者たちは何故この里に関係しているじゃ、今までの説明と違うのではないか」


「はっ、おっしゃる通りでございます」


「しかし、理由が御座います、源氏と平家の戦いの最中、平家には最後、安徳天皇なる御子様がおられました、しかし残念な事に壇ノ浦の戦いにて海に沈まれ、お亡くなりになりました、安徳天皇様は齢7才の帝でございます」


「その帝を守り支えていたのも我らと同じ鞍馬の者達です、その帝には伏されていたご兄弟がおり、源氏との戦いで仮に平氏が敗れ、安徳天皇様がご不幸にも、亡くなられた場合にそなえ、帝のご兄弟である弟のお子様が次の天皇に就されるやも知れず、故にどんな事があってもお命を守らねばならぬとの命により、我ら鞍馬の者が安徳天皇様を守る側と、弟様を守る側の二手に分かれてお守りしたのです」


「壇ノ浦の戦いで結果平氏が敗れ滅亡するのですが、安徳天皇様の弟様は平氏の一門と我ら鞍馬の支えでなんとか隠れ命を支える事が出来たのです、しかし、源氏による平氏への追討は大変に厳しく、隠れていた平氏の一門は帝の弟様を守る為にさる有力な公家様に庇護して頂く事で、危険が去るのを過ごしていたのですが、源氏の厳しい追及の手が忍び寄り、苦肉の策として、壇ノ浦の戦いで天下に武を示した与一様に公家様が接したのです」


「与一様が天下に示した武は絶大であり、国々の武士達の誉であり源氏が勝利した象徴です、その与一様が行う事にはどんなに力ある大名や国人であっても及ばず、当時の那須家の家紋、のぼりには官軍の勝利の証であり、特にこの関東の地では絶大の影響力がありました」


「帝を支える公家様より、なんとか庇護している平家の一門を助けて欲しい、与一の力なれば出来るのではないかとの依頼でした、実際は安徳天皇様がお亡くなりになり、その後の帝様は安徳天皇様から父上に戻り異母兄弟の82代、後鳥羽天皇様になられるのですが、当時は混乱を極めており、安徳天皇様の弟様である幼きお子を守らなければなりませんでした」


「与一様は密命を受け、源頼朝様他源氏の皆様に図らず、当時那須家の主家であった宇都宮家と連携し、主家である名前の宇都宮家の名を借り、源氏の御家人達から影響力を排除する形で、庇護されていた者達を平家の名前を出さずに、あくまでも戦火によって被災した避難民を宇都宮家の指示のもと那須家が庇護する名目で、那須家の家紋を示し与一様の責任のもとで守る事にしたのです」


「当時のこの里は宇都宮家でもなく、どちらかと言えば那須家が支配している感覚の放置されていた人が訪れる事のない地であり、果てしない山々の奥地であり僻地だった為に、この地へ与一様が密かに誰にも知られず、それそこ宇都宮家にも場所を教えずに、この地へ、平家の者達と帝の弟を守る我ら鞍馬の一党の祖先様を導いて頂いてくれたのです」


「しかし、この里にて庇護しておりました安徳天皇様の弟君様は、この地の厳しき環境が障りとなりその後お亡くなりになりました、しかし、だからと言ってここに来た鞍馬の者たちは、平家の民を置いて帰るわけに行かず、この地に留まる事になったのです」


「与一様は平家の避難した者達の中に安徳天皇の弟様がいる事と我ら鞍馬の者がいる事など、どこまで知っているのか分かりませんでしたが、最後までお守り下さり、この地へたどり着いたと我ら祖先より言い伝えとして長には相伝されておりまする」


「与一様より尽くして頂いた数々の御恩には子孫皆が、命に代えて那須家の為に尽くす様にと我らに口伝されております。以上が我ら平家の里の者と鞍馬の子孫との話で御座います」


 

 その様な史実が隠くされていたのかと、正太郎も忠義も驚くとともに、ご先祖様の与一様が行った行為は武人としての誇りと、人としての矜持を示した行為であり、感動を禁じ得ない史実が語られたのであった。

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