小田家の快進撃


── 小田家 ──




話は少し遡り、佐竹包囲網を破り大勝した小田家でも大きな動きが見られた、数年前に小田家が大国になる事を自国の者ですら考えた事も無く、なんとか家を守る、防戦だけを考えていた家である、那須と軍事同盟を結び二度の大戦で恐ろしい程の領地を得た事で大国になってしまった。



小田家の者達も驚いたが、近隣の国人領主達の驚きも並大抵の騒ぎではなかった、特に驚いたのが安房国の里見家であった、長年の間、千葉家と北条家、時には佐竹とも争うなど領地拡大の戦いに明け暮れていた、そこへ突如佐竹と千葉を降した小田家が登場した。



小田家と里見家は一見誼が無く繋がりが無いと思われがちであるが、小田の海賊衆である菅谷一族とは親しい間柄であった、確かに家と家では関係は無いが里見家は家そのものが安房国という房総半島の南端に位置する国であり、漁村の国であり海賊衆の集まった国であった、小田家では近隣との貿易を行う場合に里見家の港に寄港し、海が荒れた際に利用する港は里見家の支配する港であり、菅谷家一族とは大変親しい間柄であった。



小田が千葉を降し、ここ数ヶ月間の間の変化として長年戦って来た北条からの戦も一方的に停止となり、知らずの内に隣に小田家がいた、それも大国となって表れた、里見家の前当主、里見義堯よしたかは小田家菅谷一族の前当主、菅谷勝貞の元を訪ねた。



「お~勝貞どん、元気そうで何よりだ、日焼けで真っ黒だな、先頃の戦で大暴れしたと聞いたぞ、隠居した俺もその話を聞いて嬉しくて訪れたんだ、先ずは一杯やろうでねえーか」



「義尭どんも元気そうで何よりだ、海賊の友が訪ねて来るとは嬉しくて涙が出る、隠居した者通し、よもやま話が沢山あるから一杯やりながら聞いて欲しい」



里見義堯と菅谷勝貞はほぼ同年代であり、元お互い海賊衆の頭領である、海の男であり気心知れた者通しであった。



二度の佐竹との戦の事、突如千葉が卑怯にも戦に参戦した事、那須とは同盟を結んでいる今は北条とも親しい関係になったからきっと、里見家との争いから手を引いたのでは無いか等々驚く話が山の様にあり最後に里見義堯が一番驚いたのが、三家で海軍を作る話であった、その仕官学校の学長に菅谷勝貞が就任した事であった。



良ければ明日今作っている帆船を見せるがどうすると言われ、海賊衆の俺が見ない訳が無いと、むしろお願いだから見せて欲しいと楽しい語らいとなった、翌日菅谷の案内で見学と実際に帆船に乗り込み説明する菅谷であった。



「驚いたべー義堯どん、この船足の早い事、俺も最初は驚いて柱に捕まったぞ、それとこの帆が簡単に閉じる事が出来、向きも変えれるから風向きに合わせやすい、今はまだ50石程度の船で試験的に操船技術を身に付けている所だが、南蛮の船の様に3000石船位のでけえ船を何れ作る予定なのよ、良かったら口きくから里見も一枚かんだらええ、同じ海賊衆だ、争う必要はねえー、安房の港が利用出来れば凄げえー海軍が作れるぞ」



「その話ほんまか、この船に乗ったらその気になっちまうな、和船に申し訳ねえーがこりゃーいい船だな~」



「そうだべ、それに義堯どんなら副学長に申し分ねえー、船の事を誰よりも知っている、俺も隠居して毎日やる事なくて愚図っていたが、今では手下の隠居衆と現役復帰よ、毎日が楽しくて仕方ねえー、義堯どん、でかい船作って遠くの国に一緒に行って見ねえーか、争い事は息子達に任せば問題ねえー、俺達最後の大仕事を一緒にするべ」



「お~俺もやりてい、絶対やりてい、どうすればいいべかのう」



「な~に俺が小田の御屋形様に言えばなんも問題ねえー、御屋形様が童の頃より俺が鍛えてあげた恩師が俺だ、そうだ御屋形様の前に小田の嫡子様に会うといい、海軍を纏めている人が嫡子の彦太郎様だ、可愛いお子さんだ、儂の事を二人目の父と思うてくれている、それがいい、後は里見家で揉めると拙いけん、息子の当主殿義弘よしひろ殿には話しておかねえーと、それは義堯どんに任せる」



「義弘がグダグダ文句言ったら当主を俺に戻せば問題ねえー、まあーあいつも海賊衆だ、この話を聞いたら、義弘の方がやりたいと言うかも知れん、それにしても血が沸く話だな、あの変わった船もそうなのか?」



「おおーあれも凄げえー船だ、丸太をくり抜いた船カヤックだが、横にあるあの長い棒アウトリガーが凄い役目を果たしていて、波が荒れていても走れる小舟よ、帆もあるから船足が速い船なのよ、あれは南国の船だそうだ」



この夜は顔なじみの菅谷隠居衆とも夜中まで大騒ぎした里見義堯、前当主である里見義堯の話を聞き、小田が大国になった話、那須と北条とも親しい間柄、北条が里見を攻撃停止した理由を聞き衝撃を受け、更に三家で新しい海軍を作る事、それも試作の船に乗って来た話を聞き、親父で無くとも血が熱くなる現当主の義弘であった。



「親父その話に乗る場合里見家は小田に従うという事になるのか? 今まで戦って来た北条とはどんな関係になるんだ?」



「菅谷どんの話を聞いていた俺も考えたが、北条が戦を停止した事を考えれば里見家とは和睦となり、小田家とは婚姻同盟とかであれば我らの顔も立つのでは無いか? 那須とは今まで全く縁が無かったが、小田家を通じて誼を通じて行けばいいのでは無かろうか? いきなり婚姻の話を持ち掛けても失礼かも知れんし、菅谷どんの話だと、那須の嫡子が凄い神童で三家を取り纏めているそうよ、三家の柱だそうだ、小田の嫡子と同じ年だそうだ」



「なるほど、里見家が支配している安房国を三家に認めさせ、我らは小田と親族衆になれば面子も立つな、それに那須も今は大津から日立の浜まで領地にしているから、どの船もこの安房の港に寄港するから調度いいという事だな、大津から銚子、安房館山、江戸、小田原、下田、沼津まで自由に航行出来るならそれは凄い事だな、親父これは成し遂げた方がいいな、余計な戦もしなくて済む」




「ここは親父が出張って小田家と話を纏めてくれねえーか、その方が速く事が運ぶと思う」



「おう、最初からそのつもりよ、お主も一度あの帆船に乗って見るといい、驚くぞ」



とんとん拍子に話が進み小田家との婚儀を前提に里見家が小田側に付く事になった、安房国は米の石高は5万石と小さい家であったが、海賊衆と言う気の荒い者を多く抱え、これまでに北条家との海賊衆同士での戦いでは一歩も引かずこれまでに北条をなんども押し返すなど戦上手な家であり海から上がる利益は米の収益と同等の益を得ていた。



小田家の海軍士官学校学長、菅谷勝貞が又もやお手柄をあげた、本人曰く一緒に酒飲んで仲間に誘っただけである、そしたら里見家が勝手に付いて来たという大手柄であった、当主小田氏治も頭が上がらない、彦太郎はニマニマ、息子菅谷政貞は親父の奮闘にただ唖然とするしかなかった。



里見家が小田に付いた事と千葉家で政権を握っていた原親子を遠ざけた事で離れた国人領主も好意を示し小田家に臣従を願う家が現れ、上総国38万石(15万石小田直轄地)、下総国15万石(一部除く)、現在の千葉県が小田家の元に集った、直接の領地という訳では無いが常陸国と現在の千葉県全域が、いつしか小田家が盟主となった。



これにより小田家は1566年末には、常陸半国20万石、戦で得た佐竹家より10万石、結城家より10万石、千葉家より15万石に上総国23万石、下総15万石、安房国5万石、合計98万石という大大国の盟主となった。



北条家が現在治めている領地と石高は以下の通りとなる。


駿河半国8万石、伊豆国7万石、相模国20万石、武蔵国68万石、上野半国25万石、合計128万石である。



ここに那須の65万石を加え、三家の勢力は291万石と言えよう、1566年現での最大の勢力と言えよう、しかし、史実ではこれだけの勢力でも秀吉には抗する事が出来ず滅亡する、いかに秀吉の天下人という力が大きく凄い物であったかが伺える。





── 油屋からの文 ──




各地で盆踊りが滞りなく終わり秋の収穫目前、油屋から文が届いた、そこに書かれていた内容に困惑するも憤りが抑えられない感情がこみ上げる事が書かれていた。



正太郎が農民も含め難民など多数移民として受け入れる要望を伝えた所、油屋から九州の地で多くの日ノ本の民が南蛮に奴隷として売られている、奴隷になる事から逃げる者数多あまたの如し、油屋が取引している博多の商人であり会合衆の者よりそれらの者であれば多数送る事が出来ると書かれていた。



奴隷となる者達は当主から南蛮の宗教に強制的に帰依させる事を拒否した者達であり普通の農民達である、罪を犯した者達ではない、南蛮の宗教を拒否した者達が奴隷として数多の者が売られていると書かれていた。



奴隷とならずに逃げて来た者を博多から船で運び堺で受け入れ、その者達を那須に送ると書かれた文であった。



正太郎は文の内容に驚き憤るも宗教についてこれまで考えた事が無かった、そこで十兵衛と半兵衛に文を読ませどういう事なのかを聞くのであった。



「某も噂を耳にした事があります、どの家がその様な乱暴な事をしているのかは知りませぬが、九州の地はこの関東より荒れております、その戦費を賄う為に人を売っているのです、戦で捉えた者、敵の領民を売っているです、恐ろしき事です」



「半兵衛も知っておったか?」



「某には判りませぬが、宗教を利用して多くの戦が行われております、南蛮だけは無く、日ノ本の宗教も他宗の信者を敵と見なし、捉えては奴隷として売っているのです、女子であれば慰み者として、男であれば労役を行う者として売るのです、売った銭で酒を買い戦費にしているのです、この那須には無い話で御座います」



「儂は怖くなって来た、同じ日ノ本の民を勝手に奴隷などにして売るなど絶対に有ってはならん事だ、絶対に間違いであり狂っている、正さねばいけない、絶対に正さねばいけない事である、その為にもっともっと力を付けねば何も出来ない、悲しい事である、十兵衛、半兵衛、儂は初めてこの様な事がある事を知った、この日を大切にしたい、共に正せる者になりたい、この日を儂の誓いの日として覚えておいて欲しい、儂が間違った道を歩み始めた時に、この日の事を思い出せさて欲しい、頼む」



油屋からの文には奴隷の事と南蛮の宗教には注意するよう助言が書かれていた、秋に和田殿一行が那須に帰る事、金と明銭の交換は大歓迎であり、大量に集めている事なども書かれていた。







小田家が勝手に躍進しています、勝手に小田の元に集まります、戦国最弱大名という異名が周辺を安心させたのです、取りあえず小田に付けば一安心かな~的な所でしょうか、ある意味人徳ですね。

次章「諸家いろいろ」になります。

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