第13話 平家と鞍馬・・・ 5


 昼寝をし、夕餉前に更に百合と温泉へ。



「若様、話は上手く出来ましたか?」


「おーそれよそれ、女将とご主人といろいろ話せた、ここに来て良かったのう、ところで百合は何をしていたのだ?」


 

「ふふふー、内緒です、ふふふ」



「笑いながら笑顔で内緒とは許さん、ちゃんと教えよ」



「内緒ですよ、なんと中居さんからびわを頂き食べたのです、近くに木があり実っていたのを、その中から美味しそうなびわを頂きました」



「なんじゃと、ずるいのじゃ、おのれー、成敗じゃ」


 と言ってお湯を百合にばしゃばしゃとじゃれあう二人。



「若様大丈夫ですからやめて」



「なにが大丈夫なのじゃ、夕餉の時に、びわをだしてくれるとの事でした、男衆はどうせ酒飲みになるでしょうから、私達にはびわをだして頂けるとの事です」



「おっ、そうなのか、先に言え」



 ばしゃばしゃする正太郎であった。



 夕餉では正太郎の希望で、女将と主人の鞍馬も一緒に食する事となり楽しい賑やかな夕餉となったのである、そのまま男衆は相変わらず宴会となったのである。


 女将と百合、中居も呼び、こちらは四人でびわを食べ、又温泉に入り、楽しい夜を過ごしたのであった。


 翌日は、朝餉の後に忠義と女将と主人鞍馬で昨日の続きの話を詰めたのである。




 鞍馬より後日、正太郎様に侍女1名と五名の配下を送る事になりますと話され、配下の役割について話したのである、正太郎より。



「先ずは那須家に接している大名家の領地の繁栄ぶりを調べて欲しい事と、大名家同士の関係など判れば教えて欲しい」


 との事であった。



「父上が今は元気であり問題は無いが、私の行う政により、那須家が豊かになって行く場合にどの大名家が那須家を狙ってくるのかを先に知っておきたいのじゃ、先に知れば手を打つ事が出来る、むしろそれを機にこちらから攻め入る事も出来る、那須家からは戦は起こさぬが、我らに手を出すなら痛い目を見るぞという準備をしておきたいのじゃ」



「それと椎茸栽培が成功したら、その椎茸を配下の者が商人となり売ってきて欲しいのじゃ、その時に買うのは裕福な者達であろうから、その家に出入り出来るようになればいろいろとその領国での詳しい事情もつかみ易くなるかと思う。」



「今は臣下として召し抱えるには資金がほぼ無い状態なので少ない人数しか配下にしか出来ないが、ゆくゆくは100人を超える鞍馬の者達を私の直接の臣下として召し抱えたい、もちろん武士としての身分で召し抱える」



「これからの10年間が特に大切な期間の様に思えて成らない、ゆえに今は漢字を覚えたり知識や見聞を私が広めないと先が見えて来ない、なんでも椎茸栽培は今の私でも伝える事が出来る事なので洋一なる者から伝わったが、飢饉に強い作物や、病に聞く薬なども私に伝えたい様なのじゃが、受け取る私が幼いゆえに理解は難しいので、私が成長するにしたがって見合った事を教えてくれるようなのじゃ」



 鞍馬より・・



「では配下の人選は若様がおっしゃった向きのお手伝いが出来る者を人選致しまする、しかし一番の問題は、先程述べられました、100名を超える鞍馬の者と言われましたが、そもそも全ての配下を集めても100名には到底及びませぬ、幼い頃より志能便(忍び)の修行を行い一人前になるには10年以上は時間を要します」



「そうであったか、そうよなあ、やはり人を育てるという事に時間はどうしても必要じゃ、自分を見れば最もの事じゃ。 どうすれば良いかのう?」


 忠義が。


「鞍馬殿、帝をお守りしているもう一つの鞍馬達は頼よれぬかのう、どうであろうか」



「それは難儀かと思われまする、帝に仕える鞍馬の使命は、帝を守るという使命だけです。祖を同じくするとは言え、今の我らとは全く違う使命の者であろうかと思いまする」



「やはり無理であるか」



 ここで女将から。



「この里も貧しいには違いありませぬが、今より昔はとても貧しく子を産んでも育てられずに、生まれた子をこの里から人の住む町に行き裕福そうな家の前にそっと置きそのまま別れた子がいくつもあったと聞いております」



「奥州の寒い地域ではこの里と同じ様な事が、もっと残酷な形で生まれた子と別れているのではないでしょうか、又は戦が起きた地域では親を亡くした子はどうなっておりますのでしょうか、その親なき子をそっと引き取り、その者達を鞍馬の子として育て、鞍馬に不向きな子は、私が里の子として育てまする、どうでしょうか」



「おおーその様な事は考えもしなかった、どうであろうか鞍馬殿」



「それが一番良いかと思います、別の意味でも最善かと思います」



「別の意味とはなんじゃ」



「この平家の里も、鞍馬の者も、数百年に渡り同じ一族から次から次と子孫を残して来ました、その弊害が徐々にですが、出始めているのです」



「なんとどういう事なのじゃ、何故同じ一族が子孫を残す事によってその子孫に弊害が出るのじゃ、那須家に取っても由々しき話であるぞ」



「若様それは血でございまする、人数の少ない里の者男女が婚を結び子をもうけて更にその子がやがて婚をする時に同じ里の者になります、どうしても里にいる者の数が少なければ受け継ぐ血がどんどん濃くなり体が弱い子が生まれて来るのです、或いは奇形の子が生まれたり、又は体があまり大きく成長しなくなり、どんどん弱く小さい大人達になるとの事です」



「その様な弊害がこの里にも、まだ見た目は変わらないのですが、私は長として各家人をみている限り、病に対しての耐久が年々弱くなっているのでは無いかと前より感じておりました。その原因は他かならぬ血の交わりが無いからでは無いかと思っておりました」



「今迄はその事をここにいる妻である家内にも言えずにおりました」



「なるほど、血の交わりとは大切な事なのであるな、那須家の場合はこの里よりは人数が沢山おるので考えた事も聞いた事もなかった」



「忠義も初めて知り申した、この様に鞍馬の方達と語り合うだけで知識は広がるのですね」



「此度は里に来てから一歩も二歩も成長できた感が私にもある、お互い良かったな忠義よ」



「はっ、まさにその通りでございます」



「ではどうであろ、女将の言われた通り、親の無い幼子を引き取り、先ずは育ててみようでは無いか、それと話しておらなかった米の生産を増やせる田植えの方法があるので、近い内に私が持っている村に誰が来てくれないか、村長を紹介するので実際に植えた田を見てもらい稲がどの様になっているのかも確認できるはずじゃ」



「はっ、わかりました、配下の人選を終え、弓についても調べる時間もございますので収穫少し前の8月中旬頃でよろしいでしょうか、侍女に尽きましては早めにお送り致します」



「それは調度良い時期じゃ、わしも沢山学び成長出来ている様に精進するので、今から三か月後に会おうではないか」 



「今日の午後はまたのんびりと温泉に浸かり明日に城に帰還する事としよう」


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