第40話 鞍馬と鞍馬


 花やしきでエンジョイする玲子と洋一、夕方6時までアトラクションを二回りという大満足の玲子、洋一はトイレに何度も駆け込む・・のであった、夜9時に玲子を自宅に送り、10時半に川越に生還した洋一は、そのままベットに倒れ、意識を失った。



 その頃、正太郎も帝への献上の品を整え、那須家の家紋を掲げ、荷車二台に、銭100貫、干し椎茸2斤、砂糖5貫、塩15貫、鮎の甘露煮、酒2斗樽2つ、那須駒1頭を献上品とし、責任者に正太郎臣下の千本義隆21才と那須家の直臣3名、鞍馬天狗他一党4名、他に那須家お抱え商屋、茶臼屋の番頭含め、10名で出発。



 各領地と寺社仏閣が管理する関では、関税を求めて来る場合に備えて。



「恐れ多くも帝への献上の品に関税とは何事であるか、その方の名を名乗れ、関税を求めたるその方の名を献上の品への添書きに関税を求めたる者の名を書き留めるゆえ、名を申す様に」



 強気で通れと事前に千本義隆に言い付けていた、それでも関税を求めた場合は、あえて支払う様にと。



「後日那須家にて、そこもとの当主へ抗議の文を遣わす」



 と言って通行する様にと、那須家が堂々と関所毎に帝への献上の品であると宣言してつき進む様にと指示していた、往路は20日間、到着は7月下旬であった。



 それとは別に鞍馬の頭領天狗と配下二名にて、帝をお守りしている鞍馬との繫ぎを得るために京の町に入り、那須家の鞍馬天狗は独特の合図が今も通じるのか不明であったが、宿を取り部屋の手摺に烏という意味の梵字を書いた紙札を吊るした。



 天狗だけがコンタクトを取る時に使う印である、果たして帝をお守りしている鞍馬と連絡を取れるか不明であったが、古の方法を試みたのである、その夜、深夜に宿を囲む忍びの者達、10名以上はいるであろう、那須家の鞍馬2名など一瞬で秒殺できる手練れの者達である。



 帝の鞍馬達が来た事を確認した、那須鞍馬天狗は、梵字の紙が吊るされた部屋の窓を開け、こちら側には争う気が無いとの意思で窓を開放、相手の出方を静かに待つ事にしたのである。



 半時後に一人が風の如く部屋に入る、部屋の中央にて対峙する二人の忍び、一人は勿論、那須の鞍馬天狗である、もう一人は明らかに帝をお守りする鞍馬の上位者、那須鞍馬天狗より。



「お越し頂き助かり申す、私は、下野国、那須家に仕える鞍馬天狗である」



 相対している鞍馬の上位者は何も言わず、那須鞍馬天狗が語る事に静かに耳を傾けるだけであった、此度の趣旨を話し終えると、静かに立ち去る鞍馬の上位者、上位者が立ち去ると、いつの間にか宿を取り囲んでいた忍びが一斉に消え失せていた。



 二日後に宿に言付けの文が届く、指定された場所は、熊野神社であった、熊野神社とは、八咫烏の神社であり、天狗の神域である、指定された時間に行くと、禰宜に個室を通され、部屋には、天狗の仮面をかぶった一人の男が座っていた、下座に座り、拝謁する那須の鞍馬天狗、仮面の天狗より。



「我が帝をお守りしている鞍馬の長、鞍馬天狗である、平家の民と共に下野国に往かれた鞍馬殿であるな」




「はっ、その通りでございます」




「数百年振りの再会であるな・・・安徳天皇様のご兄弟様をお守りする為に下野国に我らの者が往かれた事はしかと伝わっておる、刻は余りにも長きに流れ、今この時に再会するも、今更拙き事ゆえ、なにゆえの事にて参られた」




「我ら下野国にて安徳天皇様のご兄弟様がお亡くなりになられ、残された平家の民を守る事を使命として今日まで生きておりまする、今日まで、那須家の当主様の特別なご配慮にて、平穏に暮らせております、しかしながら昨今、その那須家と我らが守る平家の里に嵐が吹き荒れる事になります」



 鞍馬天狗は那須家嫡男正太郎が語りし、またこれまでの様々な出来事を話し、此度来た目的を話したのである、一通り聞いた後で、帝を守る天狗より。



「その方達の事は帝にお伝え致す、献上の品についても大変に喜ばれると思う、那須についても心に留め置かれるであろう、戦乱の世ではあるが、我らは帝をお守りするのが使命であり、死命である、その為なれば、その方達が申す事も諸天の計らいかも知れぬ、先ずは献上の日時を取り計らい伝えるゆえ、宿にて待機してもらいたい」



「はっ、鞍馬天狗殿のご配慮に感謝申し上げ致します」



 その二日後に朝廷へ、那須家からの献上の品が収められた、千本義隆を先頭に御所の門へ通され、指示された場所に荷を運び、控えていると正二位 山科 言継やましな ときつぐが現れ、一言。



「此度の那須家から帝への献上、誠に武家忠節の範である、実に良き事である。帝(正親町天皇)も殊の外お悦びある、当主資胤殿に、帝がお悦びであったと申し伝えよ」



 たったこれだけの言葉であった、これで終わったのである、戦国時代の皇室では、官位が無い者は御所にも入る事は出来ず、門の中に入れただけ特例であった、献上に100貫(1000万)と干し椎茸、那須駒、塩、砂糖など、大変貴重な品だけに、配慮された、朝廷への献上を終え、鞍馬天狗と配下1名は、このまま残り、残りの者は堺の油屋に向かった。



 鞍馬天狗は、配下と御所近くの熊野神社へ赴き、指定された部屋で待っていると、天狗の仮面を付けた帝を守る鞍馬天狗が現れ、無事につつがなく運べた様じゃな、帝は荷車に積まれた品とその方達を暖簾越しに見ておられた様であると説明した。



「此度はお世話になり申した、この那須に仕える我らからも感謝致します、宜しければこちらを収めて下され」  



 銭50貫が入った袋を渡したのである。



「我らは帝をお守りするが使命よ、その役目を果たしただけの事ゆえ、その様な大金は不要で御座る」



「大変無礼で失礼かと思われますが、那須家に仕える鞍馬の心も立場は違えども、帝をお守りする心は失われてはおりませぬ、せめて何かの役に立ちとう御座います。どうかお納め下され、那須家鞍馬一党からの真心になります」



「あい判った、その心、我らもその心に打たれ、より使命の励みになるであろう」



 ここで鞍馬天狗が仮面を取り、お互いの顔を確認した、数百年振りとなる、使命とは言え、別れた鞍馬にとって源流に辿り着けた瞬間であった、その後、いくつかの事を話し、帝に仕える天狗より貴重なる文を手に入れた、熊野神社を後にし、天狗と配下も、堺に向けて、出立した。


 

 堺まで2日の距離である、早速懇意にしている油屋に行き、頼んでた品を確認した、正太郎より南蛮で、馬で曳く荷車を手に入れて欲しいと、入手した荷車を確認するも、一同困った顔付に・・・この様に大きな物をどの様に運べば良いのか・・・大人が6人は乗れる馬車であり、馬も二頭で曳く大きい荷馬車。



「やはり大きかったですかな~、道中運べますかな?・・・」



「いやこのままでは到底無理であろう」



「それでしたら、私どもの船がそろそろ帰ります、その船で確か常陸の小田様がいる浦へ行けばなんとかなりますかな、職人の家族を運ばれた浦からであればどうでしょうか?」



「前回一度に100貫ものお買い上げ頂き、これからの椎茸の事もありますので、一度ご挨拶に行かねばと思っておりました、あと那須様でお役に立つのではと思い、酒を造る杜氏職人とうじを面倒見ております、その者達は京で商いをしていましたが、蔵が襲われ避難してきた者です。堺では杜氏職人は講がありますので、中々新規の者が入る事は出来ませぬ、是非那須家にと思っておりました」



「なるほどそれは結構な話である、船はいつ頃用意出来そうであるか?」



「あと10日ほど頂ければいろいろと用意するものもありますゆえ」



「では済まぬが油屋、お願い申す」



 その後、油屋にて手配の宿にて暫し待つ事とした、帝への那須家が、小さき大名が、各国の寺社の関所を通り帝への献上は、将軍家をはじめとし、公家衆にも波紋が伝わった。



「ほう、弓の与一を祖とする那須が帝に献上とは・・・乱戦の世にあって誠に忠勤成る事である、諸国の大大名はこの事、恥じ入る事であろう、見事なる振舞じゃ」





 八月も間もなく終わる頃、令和の洋一は体重を4キロ落とし、別人の様にやつれていた、そんな中でも体調を戻すべく弓道場へ、久しぶりに洋一を見た桜は・・・・洋一を見て、あ~あ~、哀れな、バカップルになって突き進んでいるんだねぇーと理解した、洋一を呼び。




「お前大丈夫か? やつれているぞ、デートはどうなっている?」



「はい、あれから毎週、休む事無く、この通りです」



「玲子さんは元気なんだね?」



「はい、より元気になっているかと」



「このままだと、結婚する前に、あんたが廃人だねぇー」



「自分でも限界が近づいている様に思えます」



 既に泣きが入り、助けを求めている洋一。



「よし、こうなったら一肌脱ぐか、私がいいところに連れて行ってあげるよ、日曜の午後1時に町田のここに玲子さん連れて来て、最近出来た施設だからいいよ」



「わかりました、ありがとうございます」



 涙目で桜先輩に助けを求めた洋一。

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