忙しい春夏


3月中旬、小田原北条家より戻った正太郎、烏山城に帰還報告すると、一通り父資胤に北条家との極秘同盟について報告し終え、まだ滞在していた油屋と再会し楽しい話をおこなった。



「これはこれはご無事の帰還おめでとうございます、私も若様のご活躍を願ってお待ちしておりました、そのご様子ですと、北条様と誼を通じれたのですね、私も嬉しゅう御座います」



「まだおったのか、ところで何故油屋殿まで嬉しゅうとなるのだ?」



「わっははは、それはもちろん商売繁盛になりますからです、この油屋これでまた一儲け出来まする、万々歳で御座います」



「およよ、もしやその方、ひょっとして堺に帰る途中に北条家に寄って行こうとしているのではないか? 何かを売る魂胆であるな」



「流石若様です、若様の近くにおれば私は得をしますので、小田様とも若様のお陰で誼が出来ました、今回は北条家と誼が出来るかと考えまだ滞在しておりました、これが商人という者で御座います」



「流石油屋である、商人は戦で戦わず商売にて血を流さずに領国を広げるのであるな、偉いもんじゃ、だが一言注意しておく、誼を通じる事は良い事なれど、人の命を軽んずる家と通じるは控えた方が身のためぞ、油屋はあまり鉄砲を扱っておらぬから、そなたの手は血で汚れておらぬとは思うが、人を殺す武器を多く扱うは、その方の油屋殿の手も汚す事になる、その方の福々しい幸せな顔に鬼が住まう事になるから気をつけるのだぞ、儂からの一つ注意しておく、忘れてはならぬぞ」



「はい、ありがたいお話し、痛み入ります、この油屋が主に扱う品は名前の通り油が主であり、他に食材が主な物になります、後はその都度注文の品を治めております、若様が言われた人を殺す鉄砲はまだまだ少数で御座いますのでご安心ください」



「うんうん、では堺に帰る途中に寄るのであれば、私が小田原から乗って来た船とその方が乗ってきた船が3隻あるので、京で御所を警備している150名の者達が交代の時期になるので一緒に堺まで連れて行ってくれまいか? 代わりに儂が北条家に油屋に紹介状を書いてあげよう、さすれば商いの誼が通じると思う、それに砂糖の話をしておいた、大いに関心を示していたぞ、那須の家より何倍も大きい家であるから、そちが大儲け出来る時であるぞ、どうであるか?」



「それはそれはありがたい話です、流石若様とこの油屋との仲良き関係です、どうせ堺に帰るのです、4隻あれば馬も全て充分乗れます、お任せ下さい、この油屋このありがたい話に感謝致します」



「そうかそれは良かった、それに今、澄酒の注文がひっきりなしであるから急ぎ、この冬から大幅な増産に入る、さすれば酒もその方に卸せるから大儲けが出来るかと思うぞ、大津に港も完成した、那須の家でも船をこれから作るので、これからは定期的に堺と那須、小田家の土浦、北条の小田原と三ヵ所が海で結ばれる、油屋も船を増やさないと銭が逃げるぞ、いよいよ油屋が東国に出る時が来たぞ、そちの活躍する時ぞ、これからも頼むぞ」



正太郎の話を聞きながら、これはいよいよ本気で取り組まねば、持船も倍は増やされねば、那須の若様は本当に奇貨であると、感じ入るのであった。



3月中旬に京都御所治安警備兵150名を乗せて油屋は堺へ帰る途中に小田原城へ、北条家へ、正太郎の紹介状を持ち寄港した、北条家では正太郎が話していた兵糧丸として利用した麦菓子に関心を示しており、大量の砂糖を受注するとともに商人の目から見た那須についての情報を聞き出していた。



油屋が語る話と正太郎から聞いていた話は合致しており、今更ながら那須という家は古風の仕来りを守り、領民と武士、武士と当主が信頼ある結びつきから成り立っている領国であると感心した、小さき家であったが、戦国以前より数百年に渡り同じ領地を守り抜いているという事は驚愕に値する事であり、学ばねばならぬ事であると実感するとともに那須の嫡子がただ者では無い、神童という言葉以上に物事の本質を見抜き行動している事に感服した。



四月目前、新たな常陸領地でも新しい田植えを行う準備に日夜追われる那須国、燻炭の燻す煙が各地で湧き起こり、田起こしと燻炭を田と畑に蒔き、田に水入れを行い、稲を育てる枡板作りに追われる領国はあたかも新しい息吹を大地に吹き込む様に人々は楽しく笑顔で忙しい事は幸せだと言う実感を味わいながら土と格闘を行っていた。



この年は武蔵国、上野国から避難した者達も新しい田を耕し、山林を切り開き畑を作り、那須の地で初めての田植えと畑に農作物を植えられる、農民として仕事が出来る事に喜びを感謝していた、田植えをすれば、畑に作物を植えれば、いつ誰から襲われ取られてしまうのか、抵抗すれば殺される、生きていく為に生まれ育った土地から離れなくてはならない苦渋の苦しみの中辿り着いた那須の地である。



絶対にこの地で生きてやる、恩返しが出来る自分になりたい、なりより家族に米のご飯を食べさせたいという人としての思いが籠った最初の田植えであり畑に種を植える年なのである、この種こそ、生きる種であり、大地に根を張る種であった。



正太郎は村長の平蔵と新しい領地となった馬頭周辺の村に視察に出かけた。



「平蔵このあたりの村にも平蔵が出向いて田植えを教えたのだな?」



「はい、最初は皆さん疑っておりました、植え方を変えただけで2割も3割も増えるはずが無いと疑っておりましたが、私たちの増えた収穫の話を説明するとどこも皆驚いて、では騙されたと思ってやって見るとなり、やはり米が増えればそれだけ実入りも良くなり、家族が白い米を食べれるという話に興味を示し、先ずはやって見る事になりました」



「うんうん、米が増えたなら、村で旱魃や冷害で不作の時の備蓄も行い、それでも余る様なら儂が買い取る安心して取り組んで欲しい、多く収穫しても誰も困らん、それに米が増えれば、安心して子を増やし養っていける、家族が増えればそれだけ幸せも増えるという事だ、平蔵には苦労掛けるが那須の農民の柱なので頼りにしている」



「それと常陸の国と那須では作る作物で何か違いなどありそうかのう?」



「そうですな~那須より気候が暖かいの様なので、茶畑が所々にありますな、烏山周辺でも育つと思いますが那須には茶畑はあまり見ません、少し奨励しても良いかと思われます」



「そう言えば半兵衛が那須でもマウリが育つからやってみてはと言っておった、それも奨励してはどうであろうか?」



「わかりました、瓜なれば育つでしょうから行って見ます、あと頂いた、和かぼちゃと新しい芋と、つくしの様な種も間もなく植えます、畔豆も指示しておりますので今年はいろいろと期待出来そうです」



「うんうん、楽しみであるのう、新しい芋も甘いそうだ、つくしの豆も美味しいとの事であった、収穫したら皆で食そう、その時は澄酒もこっそり用意しておくぞ期待しているが良い」



喜々として農作業に取り組んでいる姿を見て嬉しい気持ちで館に帰った正太郎。





── 竹中半兵衛のインフラ計画 ──




「若様、某ここ数ヶ月に渡り那須の領地を調べておりました、この地には予想も付かない可能性がありました、それもここに↓ ここに↓ にありました」



「おっ、ここ↓ ここ↓ とは、金でも埋まっているのか、山以外にも平地に金でも埋まっているのか?」



「これです・・・ゴロゴロ《音を立てて転がる》」



「どう見ても、そこら中にある石だのう、石の中に何か埋まっているのか?」



「いえいえ、そこら中にある石です、その石がお宝なのです、那須に必要なのです」



「調べたところ、この様な石が那須連山の麓からこの烏山周辺の地下に想像出来ない量が埋まっております、この石が埋まっているおかけで那須の地は災害に強かったのです、この多くの石があるゆえ大雨が降っても雨水が地面に浸み込んで川が暴れず、大雨大風が襲っても根腐れせず大木が育ち風に負けず、日照りが続いても那須山からの地下に流れる水流がある為に井戸から水が汲め、さらに石のお陰で地揺れ(地震)が起きても被害が小さいのです、この石が那須の地を守っておりました」



「なんとそこら中にあるこの石が災害から那須の地を守っていると言う事なのか、新しい田と畑を作る時に、一番厄介なこの石が沢山埋まっており石を取り除く事に難儀していると聞くが、むしろこの石が大地を守っていたのか、何故その石が沢山あると強い大地になるのじゃ」



「ではここに一尺径の穴と同じ一尺の深さを掘ります、二ヵ所掘ります、その穴にこの棒をそれぞれ挿します、この穴に、掘った穴に、一つは土だけ入れて埋め踏み固めます、もう一つはこの石だけを入れて踏み固めます、出来ました、この棒を揺らしたりして抜いてみて下さい」



「それでは簡単に二つとも抜けるであろう、どれ、こうしてこうやって、ほれ土の方の棒は簡単に抜けたぞ、今度は石の穴じゃ、こうして、うっ、うごかん、もっと力をいれて、う~~、動かんではないか、全然こっちの石の穴の棒が動かんではないか、抜く事すら出来ん、何故じゃ」



「土は踏み固めても目に見えない空気が沢山入っており、若様が棒を動かせばその空気が抜ける分、棒が動き隙間が出来たので棒が簡単に抜けました、ところが石はとても固く、棒を動かしても全然隙間が出来ませぬ、動かすには一尺径の穴の外側の土を動かさなくてはなりません、その場合はとても大変な力が必要です、石が固めた場合は中々その棒は動か無いのです」



「ふ~ん、なんとなく理解出来たが、この石をどの様にすれば役立つのか?」



「ここからが・・・・・なのでございます」





那須は砂利の国でしたね、石の産出地で、有名な大谷石は、帝国ホテルに使われたり歴史建造物に多く使用されています、鹿沼石も園芸で使われるピカ一の石ですね、保水力抜群の石です、他に栃木県北だと芦野石です、石蔵に利用されたりと栃木は石の産地でもあります。


ついに半兵衛が出て来ましたよ。

次章、半兵衛の「那須強靭化計画」になります。

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