燻る者達


無事に北条家と那須小田が極秘に同盟が結ばれる事により現状では両家に取って大きな後ろ盾を得た事になる。



火の無い所に煙は立たないという諺が、火が見えず燻りという現象は、じわじわと燻りが広がっており炎が見えていないだけである、炎が形となって見えた時には一気に火が盛んに燃える危険な状態となります。



昨年の合戦で20万石も領地を減らした佐竹親子は、減らした領地を取り戻す為、那須と小田を徹底的に追い詰め滅亡させるべく密かに動いていた、単独ではなく、共に那須と小田を攻める包囲網を築こうとしていた。



那須と小田の両家石高を合計すれば現時点で約38石程度である、今なら幾らでも対応できる石高である、そこで考えたのが、佐竹20万石、小山家8万石、宇都宮家15万石をこちら側呼び寄せれば43万石であり、充分に戦える、又、白河結城とも争っていたが、棚倉が白河結城に戻った事により佐竹とは争う理由が無くなった。



白河結城も包囲網に参加させ、恩賞として塙と矢祭りの地を与えればこちら側に呼び寄せ、そうすれば白河結城12万石も参加となり、確実に那須と小田は叩けるだけの戦力になると考えた佐竹、昨年末より頻繁に各家に文を出し、使者を送り様子伺いを行っていた、そんな中、那須が石高を増やした事に、これまでは下に見ていた那須の石高が上となった事に腹に据えかえる感情が各家で湧き起っていた。



宇都宮家小山家はこれまでに対佐竹とは、戦を行っては敵対し、時には合力し戦国を渡り歩いてきた、史実佐竹と宇都宮が合力して那須と戦をしている、宇都宮家と小山家の関係は良好であり、小山家と縁戚関係の隣の常陸国結城氏10万石も巻き込めば65万石の包囲網を築ける計算となる。



佐竹が考えた巻き返しの包囲網は。



『那須18万石VS白河結城家12万国、宇都宮家15万石、小山家8万石、計35万石』 



『小田家20万石VS佐竹家20万石、結城家10万石、計30万石』であった。



下野と常陸の各大名の関係は婚姻を結んでは一時的に協力するが利益の為なら敵となり、各大名に取って都合よく自己中心的に敵となり味方となり、戦を繰り返していた、そこへ那須と小田という各大名に取って魅力的な獲物が現れたという状況であろう、まさに戦国期の様相、波紋が広がりつつあった、その波紋を効果的に、包囲網として創り出そうと画策している張本人こそ若き当主佐竹義重であった。




── 小太郎と申の活躍 ──




「申さるどうであった?」



「はっ、小太郎殿、それが聞いておりました話と少し違うようです、確かに東光寺には武田太郎は幽閉されております、それとは別に近くの善光寺に飯富虎昌、長坂源五郎、曽根周防という者達も幽閉されておりました、この者達は若様の話では既に処断されたと聞いておりましたがまだ生きておりました」



「武田兵の警備はどうであるか?」



「幽閉されている部屋の周りに5名、他に10名程が周りにいます、既に部屋に押し込められておりますので、その様な人数なのでしょう」



「では両方で30名程度であるか、我らは15名か・・・」



「東光寺と善光寺は確か近くであるな、であれば、先ずは東光寺の近くで火を起こし、火消しの隙を狙って武田太郎を救い出し、善光寺側でも隙が出来た場合にその三名達も連れ出すという事でどうであろうか?」



「若様からは太郎殿だけであったが、処断されているはずがまだ生きているのであればその者達も那須に連れて行けば武田家の詳しい内情も判るであろう、どうであるか申?」



「いや、待てよ、信玄の館、躑躅ヶ崎館つつじがさきやかたも目と鼻の先であったな、ならば、躑躅ヶ崎館に火を付ければ、東光寺と善光寺にいる警備の兵も半数は火消しに動き、より警備の目が薄れる、さすれば、後は退路の確保であるな」



「退路については如何なっておるか?」



「北東側の棚山標高1170mを通る獣道を確認済みです、その道なれば追ってもまさかその様な道を退路に使うなどと思わないでしょう、途中の道々に休める場所も山中に確保しています」



「退路からの日数はどうなっておる?」



「棚山から武蔵野国秩父を目指し、武蔵まで抜ければ他国になります、そこからは街道を使い熊谷、館林、小山、烏山に向かいます、最初の秩父までの山中移動で四日残り三日、計七日で到着するものと思われます」



「念の為、拷問などで歩行が困難であれば、厄介である、騎乗での移動は出来ると思うか?」



「助け出した後に追跡が行われるかと思います、武田家も多数の馬がありますので秩父までは山中での移動が安全かと、秩父からの騎乗であれば問題無いかと思われます」



「よし、では秩父に荷車の馬車を四台待機させ、手筈が整い次第決行と致そう」




深夜夜半突如、躑躅ヶ崎館炊事場から火の手が上がった、深夜の事であり気付いた時には炊事場全体から大きな炎が燃えていた、大声で火事だ火事で御座いますと叫び声が館中に響き渡る。



調度その頃、東光寺と善光寺に、顔を炭で汚した顔の小者が武田の警備兵に向かって、大変です、大変で御座います、館が火事です、躑躅ヶ崎館が火事で御座います、ここには少数の者を残し、急ぎ手の者を回して火消しと皆様方を御救いに来て下さいと使いの者が来た。



深夜の出来事、炭で顔が汚れた者からの躑躅ヶ崎館が火事であるとの火急の知らせ、東光寺と善光寺で警備をしている者は疑う様子も無く、警備に数名の者を残し、急ぎ館に駆けつける、躑躅ヶ崎館に到着した時には館から大きな炎が燃え盛っており、数十名の者達が火消しと館から避難する者達で大騒ぎの最中であり、駆け付けた者達も急ぎ火消しに参加した。



一方警備の兵が数名となり、東光寺、善行寺に闇から黒装束を着た者が現れ、警備兵をあっという間に倒し、幽閉されている武田太郎の部屋に突入した、その方達何者であるか、我を武田太郎と知っての事であるか、何者であるかと詰問するも、お味方で御座います、急ぎここを出ます、お着替えをお願い致します、と述べ有無を言わさず連れ出した。



「爺達はどうなった? どうなっておるのか? 生きておるのか?」



「大丈夫で御座います、手の者が救い出しております、この先で合流致します、急ぎ向います」



同時刻善光寺でも、黒装束を着た者達に襲われ、飯富虎昌、長坂源五郎、曽根周防の三名が押し込められている部屋に行き、三名に太郎様がお待ちしております、という一言で意味を悟り、現れた黒装束を着た者達の後に続き善光寺を後にした。



躑躅ヶ崎館より東側3キロ先の山中、棚山麓で武田太郎と飯富虎昌、長坂源五郎、曽根周防4名が合流し、申が事前に調べ用意した甲斐国から退避する為に山中に向かって無言で移動した。



救い出された4名は、この者達が誰なのか、誰の指示で我らを救い出したのかを考えるも、太郎の傅役で此度のお家騒動で一番の理解者である飯富虎昌の手の者が救い出してくれたのであろうと考え、飯富虎昌も武田家の将来を考え現当主の嫡子である武田太郎様を救う為に誰かが手を差し伸べたのであろうと、考え、今は館から離れる事が最善であると理解し無言で黒装束の者達に付き従い山中を移動した。





── 武田太郎義信 ──




あれは今から半年前の出来事であった。




「父上、本当に今川を裏切り駿河へ攻め入る事を考えているのですか? 一体どの様な理由でその様な裏切りを考えているのか、私には判りません、はっきりと教えて下され!」




父信玄と口論となった時の事を思い出していた。



「甲斐国の領国が富めない理由は海が無く、山々に囲まれ耕す平地が少ない事は太郎も充分理解しておろう?」



「それが何なのですか? 義父今川義元殿が織田に討たれ、氏真殿が駿河を治めているも国人領主達の心が氏真殿から離れている事も知っております、確かに同盟国で無ければ父上の申す通り、ここは海のある駿河を攻め領地にする事に納得出来ます」



「しかし、今川と武田は北条と同盟を結び、共に背中を守り支え合って来た家では御座いませんか、今川が弱くなれば、弱くなった今川を支援し、武田の武を示す事の方が信を得られるでは無いですか? 今川の駿河を攻めれば、諸国は武田を信用しなくなります、北条とも敵対する事になります、本当にそれでよろしいのですか?」



あの日の父との話を思い出していた、父とは喧嘩別れをし、父が行おうとしている事が正しいと思えず傅役である飯富虎昌と長坂源五郎、曽根周防に本当にこのまま駿河に侵攻する事などあってはならない、阻止する方法は無いかを相談していた。



飯富虎昌からは父上の信玄公が今と同じ様にその昔祖父と意見が合わず、結局信玄公は太郎様の祖父様である信虎様を甲斐から追放したのです、今は今川家にて庇護を受けておりますが、信玄様は一度決めた事を必ず行います、必ず今川領駿河に攻め入ります、防ぐには父上の信玄様を同じく追放するしか方法が御座いません、と告げられていた。



この相談を何度か行っていた処、一月に突如父から謀反として捕らわれ東光寺に押し込められてしまった、父信玄には忍びの配下がおり、太郎と飯富達が行っていた密談は筒抜けとなっていた。



太郎達を連れ出した黒装束を着た者達は一切話をせず、そのまま休憩を何度か行い山中の谷間にて、ここで日が暮れるまで休みますと告げられた、黒装束の者達の素顔を確認するも見た事が無い顔ぶれに、その方達は一体誰のさしがねじゃ、どうして我らを助けたのじゃ、一体何者であるかと聞き出すも、今は黙ってここを抜け出す方が大事ゆえ、その事は今に判りますと告げられこれ以上の話は出来なかった、一命だけは救われた事は理解した四名であった。





本当にお家騒動に介入して良かったのか、作者でも困惑しています、この後始末どう付ければ良いのか?

次章「忙しい春夏」になります。

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