極秘三国同盟


── 小田原城歓待の夕餉 ──



この日の夕餉も楽しい歓待の食事となった、そこには相模の海から大大名が用意した海の幸が所狭しと膳に並べられていた。



「ささ皆さまの御口に合えば良いのですが頂きましょう、那須の皆様と北条の誼を通じましょう」



「この様に素晴らしきおもてなしを頂き心から感謝致します、那須の国は最近やっと海の領地を得たばかりです、食する魚は干物が多く、この様に沢山の幸がある事を知りませんでした、心から感謝致します」



那須の一同が料理に満足している姿に微笑ましく見守る北条の方々であった、この夕餉では北条家でも他の重臣が参加しており、正太郎たちも主な者が参加していた。



「先程の佐竹を破った戦法ですが、砂糖で勝ったとありましたが、お家では本当に鉄砲はお持ちでは無いのですか? 今はどの大名でも鉄砲を揃えております、まだまだ増えるかと思います」



「本当の事なのです、那須の家は佐竹と戦う前は5万石の小さい家であり、その上領地が広く、とても貧しい領国でした、父上に聞いたところ鉄砲は2丁あるが玉薬がないので無いと同じであると聞かされ、無いなら無いで勝てる工夫をすれば良いと軍略を考えました」



「ほう面白き話ですね、氏政もここは良く聞いた方が良いぞ」



「那須の家は祖は与一様であり弓の家で御座います、又、那須の地には野生の駒が多数います、そこで弓による弓に特化した騎馬隊を編成しました、400騎の弓の騎馬隊です、15名を1隊として、佐竹が通る隘路に、後方、前方、左右と全方向から弓を放っては退き、退いては攻撃を繰り返したのです」



「両側に山の斜面があります、地形を生かし攻撃したのです、鉄砲は動く敵に当てるのは難しく、ただ、鉄砲の音に騎馬が驚かない様に事前に馬達を調練し音に慣れさせておりました」



「我らは両側の斜面上からの攻撃です、鉄砲の弾より遠き所から攻撃が出来ます、これも大きい要因かと思われます」



「佐竹は疲れ果てており那須の本軍と対峙した時には行軍してから三日目の朝です、父上が待ち構えている那須本軍は数は少なくても疲れていない元気な軍です、佐竹は倍以上の兵数ですが疲れ果てております」



「ではここからは詳しく観察しておりました十兵衛から説明をしてくれ」



「はっ、では某が本陣近くで見ておりましたので、那須の本軍と対峙した場所は広く両軍が戦うにはお互いが力を出せる場所で御座いました、やっとの事で那須軍と対峙した佐竹軍は、これまで散々な目にあっておりましたので、やや元気を取り戻し、鶴翼の陣に陣形を組みます」



戦の光景を目に浮かべ聞き入る北条家の一同。



「ここまでは若様が読んでいた展開です、そこで若様が事前に敵が鶴翼になり翼を広げたら、翼の内側に鋒矢の陣3組が翼に突撃します、その後ろに騎馬隊、しかしここからが真骨頂になります、3組の鋒矢の陣が突撃するも、実際は突撃する素振りだけです、向かって来る鋒矢の陣に対して鶴翼の翼は慌てて、翼を縮め兵達が集まります、そこを騎馬隊が内側と外側から矢を放ちます、見る見る内に打撃を与えます」



「何度か同じ攻撃を行いますが、突撃の素振りだと理解した佐竹は、急ぎ体制を整え、盾兵を前に出し徐々に那須軍を包む様に前進して来ます」



「徐々に那須を包む佐竹軍に対し、当主資胤様が今度は本当に鋒矢の陣に突撃させます、鶴翼の翼に大きな穴が三ヵ所が出来ます、矢が雨の様に降り注ぎ、なんとか盾で防ぐ佐竹に、常陸の居城から城が攻撃されていると、小田家から城を攻撃されていると佐竹に報告が入ります」



「佐竹の城には兵が500しかおりません、そこへ2000を超える小田軍が襲っているのです、このままだと帰る城が無くなる佐竹は撤退戦に移る以外に選択肢が無く、絶望の撤退戦が行われます、あとは皆様方の想像通り、城に帰る事が出来ずに佐竹は降伏したのです、この軍略を考えたのは全て若様になります、以上となります」



一同驚き、声も出ず、豪華な食事を忘れてしまった北条家の重臣達であった。



「これは聞けば聞く程の大勝利ですな、戦いの模様が目に浮かびました、佐竹はほぼ全滅ですな、本当に弓で勝ったとは、流石弓の家である」



半兵衛がまだ続きがあるのですと説明。



「若様が降伏の条件に得た領地10万石とは別に、これまでの迷惑料として1万貫を佐竹から取り、その後、佐竹に棚倉の町の領地を半分取られていた白河結城家が、佐竹が取っていた領地は白河結城家の領地なので返してくれと来たのですが、それを返す代わりに若様は3万貫で売り払ったのです、結果10万国の領地と4万貫40億円を若様は得られました」




鯛の焼魚を食べながら、正太郎はお家が貧乏であったので、折角頂ける時なので頂いて置きました、あっははははと笑い北条家の者達一同は唖然とした。



「領地といい、4万貫といい、もう言葉が出ません、途方もない話です」



「那須のお家は領地を得て15万石になられたのであろうか?」



「若様が新しい田植えを行い昨年には5万石が6万3千石になっております、今年は8万石には増えるでしょうから18万石にはなるかと思います、来年はもっと増えるでしょう」



「それは戦とは違う話なのですね?」



「当家と同盟を結ばれた小田家にも新しい田植えをお教えしましたので今後小田家も石高が増えるでしょう、当面両家で内政に力を入れ、小田家で25万石、那須で25万石を目指しましょうとなっております、両家で50万石となれば、簡単には負けませぬ」



「それは頼もしい石高ですね、25万石の大名とは凄い事です、この北条もここに来るまでには、父上を初め幻庵様とご先祖様のご活躍があってこそですが、それはそれは大変な事で御座いました、実に羨ましいお話しです」



「北条様は大国です、管領殿を退け多くの戦を勝利して来たお家です、那須の家は数百年に渡り領地は変わりありませんでした、此度の事は初めての事です、むしろここからが本当の舵取りになります、北条様を初め先達様達が行った政を学び、一日も早く安穏な日を迎えたいと念願しています、その最たる見本となる教導のお家が北条様になります」



「折角なのでお願いが御座います、那須の家は初めて海を得て、此度船にて来ましたが、私以外の男どもは船酔いを起こし、全くの使い物になりませんでした、そこで小田原の海で調練をして頂けないでしょうか? 私と船酔いしなかった侍女達は城下町で土産など買っておりますので、どうでしょうか?」



「ちょっ、ちょっとお待ちください、この忠義、先程あれ程若様の事を皆様に素晴らしさをお伝えしたのに、それは余りにもむごう御座います、勘弁して下さい」



「船長が言っておったのだ、ここの小田原の海は伊豆の半島と三浦の半島があるから波が荒れていないから調練には良い海ですと、いきなり外海に出たから船酔いで死んだ様になっていたではないか、このままでは帰れないでは無いか?」




「この十兵衛なんなら我ら陸路で歩いて帰りますが」




ここで大笑いとなる広間であった、そこで氏政が。



「折角海を得たのに、船に乗れなくば、漁師に笑われてしまいます、調練を明日から行いましょう、二日間も乗っておれば体が慣れます、しかし、侍女達は大丈夫だったのですね、このまま帰りましたらきっと噂が広がりましょう、船酔いを克服するに調度良いかと」



「本当にあの揺れに慣れるのでしょうか? 目も開けられぬ程しんどかったです、良く生きてたどり着けたと思います」



「小田原にいる北条の者は船酔いはしないであろうが、武蔵の地にいる北条の者なれば同じ様に船酔いはするであろうな、育った場で違いがあるのであろうな」



楽しい歓待の夕餉を終え、忠義達は船酔い克服の調練に、正太郎達は小田原の城下町に見学となった。




── 極秘三国同盟 ──




北条家小田家那須家の三家にて極秘に同盟が結ばれる事になった、同盟の目的は三家が共に滅亡を回避する為に協力を行い支え合うとい同盟であり、戦が行われた場合、共に被害が及ばない様に調整を行う。



北条家では武田家と結ばれている同盟を必要最低限の関係とし、いずれ行われる駿河侵攻に備える。



那須家で行っている新しい田植えについては技術提供する、代わりに造船技術を提供し軍港整備に力を貸す事になった。



三家での同盟は公に明かす事をせず、秘事として伏せる事にした、那須正太郎、小田彦太郎、は共に8才、北条氏政の嫡子新九郎は5才という事で共に嫡子の年齢が近いという事で嫡子同士の誼を行う事となった。



主な内容を以上とし、ここに極秘の三国同盟が結ばれる事になる。



この同盟は史実においては行われていない、但し、秀吉が行った小田原成敗に参加遅参などの理由で那須と小田は改易され滅亡する、その経緯を考えた場合、史実でも北条家との関係は良好であったと考えられる。



極秘三国同盟を結ぶ意義は那須小田に取って大きな後ろ盾であり、その存在意義は大変に大きい、北条に取って先の未来を知る正太郎と同盟を結ぶと言う事は、滅亡を回避するという意味であり、目に見えない力を得た事になる。


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