小田原北条家・・・3

 

歓待の夕餉、正太郎が8才という事で、氏政の母親瑞渓院ずいけいいん、正室黄梅院おうばいいんも参加し歓待した、氏政の嫡子新九郎4才も参加し、土産の壺を渡した。



「こちらの壺には私の菓子職人が作りました、梅の飴が入っております、大変に美味しいので昼間にでも舐めてみて下さい、夜は歯が悪くなるのでダメだそうです、あと麦菓子も沢山父上にお渡し致しましたので食して見て下さい、私の母上も誰にも見つからない様にこっそり食べております、お茶受けに合います」



「これはこれは良かったですね、新九郎殿もお礼言うのですよ」



「菓子など大変に貴重な品ありがとうございます、私もこっそり食べてみようと思います」



「この幻庵も先ほど食してみたが本当に美味なる菓子であった、奥の者達がこぞって欲しがるであろう、沢山頂いた様であるから明日にも食してみると良いぞ」



「われら北条には菓子職人は召し抱えておらんが正太郎殿はどの様に菓子職人を召し抱えたのですかな?」



「本当は京の料理人であったのですが、いつの間にか私が我侭を言っている内に菓子職人になっておりました、あっははははー、それに那須の家では、鉄砲を買わずに砂糖を買って敵と勝負しておりまする」



「それは面白き話ですな、どういう話なのですか?」  



「忠義説明して差し上げよ」



「はい、佐竹との合戦で、佐竹は鉄砲を多数用意しましたが那須の家では若様の軍略で砂糖を沢山買い付け、鉄砲と砂糖で戦いました、結果砂糖の大勝利という結果になりました」



「この幻庵さっぱり理解出来ません、もう少しご説明をお願いする」 



「幻庵様私が忠義に説明させたのが間違いでした、十兵衛ここは頼む」



「分かりました、幻庵様、佐竹は多数の鉄砲を用いて攻撃しましたが、那須のお家は弓で攻撃を騎乗にて行います、近づいては離れ、離れては攻撃します、動く敵に鉄砲は狙いが定まらず、被害だけが増えます、夜通し攻撃は続きます、佐竹はいつしか体力を削り動けなくなります」



「しかし、夜通し攻撃をする那須の騎馬隊は動けるのです、なぜでしょうか? それは砂糖を得る事で体の疲れを一時的に取り除いてくれるのです、その事を知っておりました若様が、先程の麦菓子を兵達全員に兵糧丸として、馬にも飼葉と一緒に与え、疲労せずに戦ったのです」



「三日目には既に勝負はついておりました、如何に兵の数が多くとも疲れ切っている兵です、数こそ少ない那須の兵ですが、元気が漲った兵達です、勝敗は明らかです、最後、佐竹は城にも帰還出来ず、降伏するしか無かったのです、砂糖で勝った勝負と言っても良いでしょう」



「本当に砂糖で勝ったとは驚きだ、負けた佐竹も、まさか砂糖に鉄砲が負けるとは思っても見なかったであろう、砂糖の効果を知っていればこの様に役立つ物だと、戦国の戦の中でもこれは抜きんでた勝利ぞな」



「ここにいます、竹中半兵衛も凄き者です、斎藤龍興の、美濃国の居城を僅か十名程の者にて乗っ取り致しました張本人です、ここにおります半兵衛が行ったのです」



「なんと、それは本当ですが、ここ小田原にも伝え聞いておる話です、美濃の国で城が取られたと、なんでも当主が政をせずに、重臣が諫言の為に城を取ったという話であったかと、そなたが行ったのですか? 何百人者もの兵士がおったと思いますがどうやってお取りになったのですか?」



「当主が昼間から酒を飲んでおりますれば、取り巻く佞臣も一緒に飲んでおります、酔っぱらった者どもは碌に刀も振れませぬ、簡単に城奥に入り、ねじ伏せただけです、誰でも出来まする」



呆気にとられた北条一同である、半兵衛はここにいます十兵衛殿は斎藤道三様と最後まで筋を通し戦いました美濃第一の律儀の者です、十兵衛様に比べたら私が行った事など簡単な事ですと説明する。



「なんとそなたはあの道三と由縁の者であるか、北条家の早雲様と同じくお一人で国持大名となった、斎藤道三殿には親しみを感じていた、亡くなった事は実に残念であった」



「ありがたきお言葉、道三様も今のお言葉にきっとお喜びしていると思います、某は道三様より、最後にそちは生きてこの戦国の世を見届け儂に何があったのかを教えるのじゃ、その為に儂と一緒に死んではならんと無理やり放逐されたのです、最後まで一緒にこの命を共にするものと決めておりましたが、若様に拾われまして、今新たに那須で生きております」



「人は簡単に死んではならぬ、どんな事があろうとも抗い《あらがい》生きるのじゃ、生きる先に新たな物が見えて来る、その新しい物を見届ける使命があるのじゃ、この幻庵は早雲の子としてまだまだ生きて、父早雲に、北条家は、父が作りし家はこうなりましたぞ、この様になりましたぞと告げる為に簡単には逝けぬのじゃ、だからここにいる者達は、どんな事が待ち受けていようとも抗い、生きるのじゃ、それが死命であり使命なのじゃ」



幻庵の感情こもる話に一同感動し、夕餉はお開きとなった、翌日の昼餉の後、昨夜の続きの話となった。



「昨夜の夕餉は大変にありがとうございました、気心も通じこちらも大変に心安らぐひと時を過ごせました、ご配慮ありがとうございました」



「こちらこそ楽しいひと時を過ごせ母上も私の奥も楽しかったと、それに嫡子新九郎も頂いた飴を先ほど食し、いたく気に入り自分が頂いたのだと壺を離しません、困ったもんです(笑)」



「それは良かったです、では続きのお話をしてよろしいでしょうか?」



「お願い致す」



「では北条家は今、三国同盟を結びし、今川家、武田家との誼を通じております、固くその信義をお守りしております、しかし、今年、武田家では、お家騒動が間もなく起きます」




一同一気に顔色を変え、これまでとは打って変わり厳しい顔付になります。



「武田家の嫡男太郎義信殿が父信玄殿から遠ざけられます、信玄は三国同盟を破棄し、今川を攻め駿河を取る為の軍略を謀ります、しかし、今川氏真様の妹を正室にされている太郎義信殿が、それに異議を唱え、信義に劣る行為であるとし信玄と仲違いとなり、お家騒動が起こります」



「今から4年後に武田は駿河侵攻を開始し、駿河を取りまする、北条殿は今川を助け戦いまするが武田を止める事は出来ずに駿河を取られまする」



「我ら那須は少しでも贖う為に既に手を打っておりますが、那須の地は遠くにあり信玄を止めるまでは出来ませぬ、今から4年後に駿河を得た信玄は京に上がり天下に武を示し覇権を得るために我武者羅に今川を攻め滅ぼします」



「その後今川家は庇護を求め一族皆が北条家に来られます、武田は今川を攻撃すると共に上杉家とも手を結び北条家に向け進軍します、これは近い将来の出来事になります」



「武田と上杉が、上野、武蔵の地であらん限りの乱取りを行い、多くの民は死滅します、生き残った者達には最早年貢を納めるだけの力は残っておりません」



「それから約十年程でに日ノ本をほぼ手中に収める者が現れ、やがてその者の牙がこの関東の地に向かいます、先程の武田、上杉による上野、武蔵が荒れ果てた地となった事が尾を引き、その地の石高が回復せずに恐ろしい牙が襲ってきます、その牙の石高は1000万石以上の牙であり贖う事が出来ません、最後まで北条家は抵抗するも半年も持たず、北条家、那須家、小田家は共に滅亡します、そして氏政様は残念ですが、切腹となります」



「これが460年後の者達が知る歴史となります、その事を伝え、贖う為に私はここ北条様の所に来ました、昨夜の夕餉では、氏政様のご正室が武田信玄の娘様であるとお聞きしましたので、絶対にこの様な事にならない様にと決意を致しました」



「そこで最初に北条様に行って頂きたい事は武田に対して表面上はこれまでと同じく友好的に誼を通じて頂き、一方で駿河侵攻に備えて頂きたいという事です、まだ充分な時間は御座います、備える事は出来ます」



「それと今川様ですが、少々気負いがあり、物事の分別に感情が面に出ている様です、国人領主の心が徳川と織田に向かっています、それを抑える物腰柔らかい方を北条様にて後見として使わしては如何でしょうか? その今川様の弱点に武田が入って来ます」



正太郎の説明を聞き、青醒めると共に思い当たる節が幾つもあり、武田に対しては用心していた所に正太郎から具体的な事を聞き、これは本当に起きる、北条家がこの先危ないという危惧を抱くのであった。



「武田が弱くなり、現状の領国支配で済めば流れが留まります、駿河を与えては危険です、先ずはこの点をなんとかせねばなりません」



暫く沈黙する中、漸く声を上げたのは氏康であった、これは恐れ言った、そこまで先を見通され、これでは益々我ら進退をかけた動きをせねばなるまい、危惧していたがやはり武田は駿河を狙っているのであるな、徳川と織田もそうであるが、ここは慎重に事を運ばねばならぬ、幻庵様はどの様にお考え致しますか?」



「うーん、儂が死んだ後に北条家が滅亡するなど、ゆゆしき事である、まして氏政が切腹とは、涙が出そうである、許せんのは、武田である、あの者は、父親を追放し、戦では3000もの降伏した兵を皆殺しを行い、此度は同盟国である今川に矛先を向け、北条にまで刃を向けるなど、獣の如き阿修羅を成敗せねば、戦国大名として見過ごす事は出来ぬ、許してはならん、それまで儂は生きるぞ!」



「その通りです、父が結んだ三国同盟を裏切り、下剋を平然と行う輩を成敗せねば早雲様に顔向けが出来ません」



「よくぞ言った氏政よ、これよりは那須家小田家ともしっかりそちが誼を通じ戦国の世を勝ち残るのじゃ、その為にそなたの父氏康と儂がおるのじゃ」



「北条家の一大事を、良くぞ教えて下さったこの氏政御恩を必ずお返し致します、正太郎殿誠に忝い。」





なんとか話が纏まりましたね、史実でも那須、小田は戦国期終盤は北条側の陣営に入ります、方向性は似てますが、作中ではやや違う方向に舵が動き出しましたね、どうなって行くのでしょうか? 

次章「極秘三国同盟」になります。

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