豊穣祭りと新兵器


── 豊穣祭り ──



お盆に続き三回目となる豊穣祭りが始まった。


新たに那須の領内となった白河、宇都宮、小山の地でも豊穣祭りを行う事になりこの年は全領内20ヶ所で行われた、例年の如く、多数の出店屋台を設置、酒、濁酒、甘酒、麦茶、更に烏山では暖かい牛の乳も用意した、錦小路の酪農小屋が拡張され今では20頭の搾乳牛が飼われており、今後普及を計るために試しに出したのである。


他にも猪、鹿、雉肉の串焼き、アジの干物、芋粥、きな粉餅、大学芋、さつま芋の蒸かし芋、べっ甲飴、麦菓子、さらに初めての目玉に焼きトウモロコシである、焼きトウモロコシは一旦茹でて、その後砂糖醤油を塗り焼き上げた逸品である。


試食の段階で騎馬隊に振舞った所、当初トウモロコシの黄色い実が忌避され気味であったが騎馬隊に試食をさせその美味しさに驚き、領内に広める為に焼きトウモロコシをデビューさせたのである。


高櫓を設置し、盆踊りと同じ様に囃子で音頭を取り領民共々が踊り最後は烏山巫女48の登場で締めるというこの上ない演出である、相撲大会では元服前の子供の相撲大会も開催した、那須ならではの弓の競技も昨年と同じく行った。



「このお祭りは一体何でしょうか? あの様に酒もあり食する物も見た事ない物ばかりです、あの黄色い棒の焼きトウモロコシを食べましたが、あの様に美味しい物を某初めて食しました、これが隣の領地で食べれるとは驚きです」



「それよそれ、一通り食したがどれも初めて食する物ばかりよ、芋粥も米が多く入っており味付けが最高よ、それにこの麦菓子を見たか? 高価な砂糖が使われておる、家族の土産に10枚程頂いたのよ、それに那須家の者達と領民達を見たか? 同じ席で普通に一緒に酒を飲んで楽しんでおるぞ、考えられん」



蘆名家より米の引取りの為に500名程が来ており、祭りに参加していた、正太郎が祭りに参加するように手配した意味は那須という所が如何に富み、那須の侍と領民が親しい関係であるという事を見せつける為に参加を要請していた。



「しかし良い所であるな、この様な祭りを会津で行って見たいものよのう、我らは米の引取りで来たが、隣の領地ではこの様に富を分け合い楽しんでおる、羨ましい限りじゃのう」



蘆名家代官の松本も祭りの賑わいを見て、嫡子正太郎が自分に人としての矜持について諭した意味を理解出来たように思えた、蘆名家では現当主の父親が院政を行い、現当主は逆らえず昼間から酒を飲み重臣達の中には次の当主をどうするかと話す者もおり、支える者達が当主から離れいる、大きい城が間もなく完成するが何の為に城を築城しているのか、伊達家と度々争っている中での飢饉、本来ならこの那須のように当主と支える武士達と領民が一体とならねばならぬというのに、しかし、自分にはどうする事も出来ないと独り嘆いていた。



「お~蘆名の代官松本殿、お役目ご苦労で御座る、皆様方祭りを楽しんでおられますか?」


 

突如正太郎が現れ問いかけられた松本。



「あっ、正太郎様この度はいろいろとご配慮頂きありがとうございます、又、那須の祭りに参加させて頂き皆喜んでおります、ありがとうございます」



「喜んで頂けて安堵致しました、那須でこの様に豊穣祭りを行うは三度目なのです、那須はこの数年間で大国となりました、全て領民の支えがあっての事です、当主は配下の侍を守り、侍は領民を守るという普通の事を戦国の世ではそれが出来ません、父上と相談し、戦国の世でも喜びは共にいたそうという事で祭りを始めたのです」



「そうで御座いましたか、蘆名ではお恥ずかしい事ですが、そのような考えは思い付かず旧来と同じ政をしております、当主様、正太郎様にお会いしてより短い期間ですが、目指すべき政という物に触れた感が致します、今までの自分が恥ずかしく思われます」



「そうでしたか、これを機に某で良ければいつでも相談に乗ります、他家の政に口を出す事は出来ませぬが、個人と個人であれば、某子供では御座いますがこれからも良しなに願います」



「ありがたいお言葉痛み入ります、那須の皆様と縁が出来た事、諸天に感謝致します」



「相撲大会も行われています、誰でも参加出来ます、五人抜きをすると砂糖が頂けます、蘆名家の皆様も楽しまれては如何ですか、では某は又見回りを致しますので失礼します」



誰もが参加出来る相撲大会は今年も大いに盛り上がり30人程五人抜きが誕生、女子も二人、蘆名家でも二人が砂糖を頂いた、子供の相撲大会も笑いの連続であった、重臣の倅が負けて泣き出し見ていた父親に殴られ又もや大声で泣く子供を見て、父親に罵声を投げる見物客、小さい子供が大きい子供と相撲を取るも組み合わず逃げ回る姿に爆笑となる、子供には三人抜きで麦菓子とべっ甲飴が賞として渡された。


弓の競技では昨年と同じなのだが今年は一味違っていた、この一年間この弓競技を目指し調練していた者が多数おり、予選の50間先から紐に吊るされた扇を当てる者が続出し、決勝戦で50名もの大勢で競う事になった。


50名による決戦、100間先の扇の的に当てた者が勝者、周りを見渡し、風の向き、強さを確認し矢を放つ、調練の成果もあり一射目で当てた者が三名も誕生した、資胤はその三名を勝者とした、三名の内一人は昨年準優勝した元マタギの熊蔵であった、熊蔵は正太郎の騎馬隊に配属されており、正太郎配下の弓一番の者となった。


他の勝者も当主から報奨を頂いた、決勝に残った他の47名も七騎の騎馬隊に配属されるなどいつしか豊穣祭りで行う弓大会で好成績を上げた者が騎馬隊に入隊出来る事になった。





豊穣祭りを滞り終え数日後に鞍馬弓之坊より新しい武器が完成したと報告を受け、試験場に訪れた資胤と正太郎。



「こちらが若様より以前お聞きした砲になります、全体が木で出来ておりますので木砲と呼んで宜しいかと思います」



「戦絵図などで見た事があるがあの大筒であるか? それを作ったのか?」



「はい、構造は鉄砲と同じであり、大きい鉄の弾を飛ばす弾になります、大きい弾ですので火薬の量も増えまする、鉄弾はこれになります」



「鉄砲の弾と全然違う大きさであるな、小さい子の拳程の大きさですが、盾板4枚から5枚を打ち破ります」



「お~それは強力であるな、先の戦で佐竹の兵が盾板を二重にしており矢で撃ち抜けぬ時があった、より強固な盾を用いたなら矢でも対処が難しくなる」



「この木砲で飛ぶ距離が約600間となりますが、10~13発しか打てませぬ、木で作りましたので火薬の爆発に耐える事が出来るのがその程度となります」



「若様より木砲の内側に青銅の筒を入れる事を提案され今制作しております、さすればもう少し打てるかと思います」



「父上、この木砲の使い方いろいろありそうです、北条家では鋳物技術が発達していると聞いております、青銅の筒を内側に入れる事とは別に鋳物で砲が作れれば大きい戦力になるかと思います、それと那須の鋳物師も北条殿に遣わし技術を学ぶ事になりませんでしょうか?」



「それは良い案じゃ、青銅の筒はこちらで引き続き行い、鋳物の砲を北条殿にて作れる事が出来れば二種類の砲が完成した事になる、木砲であれば騎馬隊の荷車でどこにでも移動出来る、鋳物の砲となれば重さもあるであろうから、城に設置するのも良いかも知れぬ、弓之坊どうであるか?」



「良きお考えかと、同時に二種類を作るは流石に難儀致します、あともう一つ此方に面白き物を用意しました」



「むむむ、大五峰弓が三本からなる大弓であるな、これがその矢か? 銛を打ち出すのか?」



「先の戦で石火矢を用いましたが人が飛ばす矢では、矢に付ける火薬の入った筒の重さに限りがあり効果が弱かった様に思いまして、この大弓からであれば倍以上の火薬が入った筒を敵陣に打つ事が出来ます」



「あの石火矢でも効果は充分にあったが、お主が言うのであればそうなのであろう、しかしこれは一人では扱えぬぞ」



「はい、一人がこの滑車を回し、弦を引き所定の所で弦を鍵に掛け、この大きい銛の矢を乗せ、引き金を引き飛ばします、見ていて下され」



ダーンヒューン!



「お~お~でかい銛が見えなくなりましたぞ父上」



「・・・鳥肌が立ったぞ、恐ろしいのう、矢が飛んで来たと思ったら銛が飛んで来るとは、背丈より大きい銛だぞ、こんなのが飛んで来たら儂でも逃げるぞ」



「刺されば致命傷であるな、あの銛に火薬の筒を付けるのじゃな、敵を恐怖に落とすにはこれ位の方が良いかも知れん、籠城されてもこれなら城に向けて打てるぞ、凄い事を考えたのう」



「今は試作品でありますので、色々試さなくてなりませぬが、準備だけはせねばなりませぬ」



「あの木砲だと火薬が多く必要であるが大丈夫なのか?」



「今鞍馬の里で火薬を調合しており作っております」



「何作っておると、火薬を作れるのか?」



「はい、作れる量には限度がありますが、古土法を用い作っております、それと若様が油屋から買っております分もありますので今は大丈夫です、ただ大きい戦では些か不安も残ります」



「そうなのか、作っておるが量には不安があるという事なのだな、作る分とは別に多く購入しておくので、安心してくれ、父上、祭りも終わりました、正月まで一ヶ月以上まだあります、北条殿の所に行って宜しいでしょうか?」



「お主も落ち着かぬ奴だのう、今の所何も無いので必ず年内に戻るのだぞ」



「此度は弓之坊も供するのだ、北条家では海の幸満載ぞ」



「お主それが目当てであろう」




木砲は明治維新まで使われていたと記録がありましたが、そこそこ使える武器だったのでしょう。

次章「逆鱗」になります。

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