関ケ原・・・11
物見の高櫓から伝声管を通じて硝煙多数! 鉄砲音多数引き続き鳴り響いております、何かが動いております、砂塵にてはっきり変わりませぬが、大きい人の塊が動いております!! との報告を受け注視する那須資晴と半兵衛!!
「和田衆をこれへ!! 敵後方の硝煙が上がった辺りに配下の者はだれかおるか?」
「はい、敵兵に紛れて何名か忍ばせております!!」
「では無理しない範囲で何が起きているのかを知らせよ!!」
戦いの主戦場から離れた場で多数の鉄砲音が鳴り響いて事で異変が起きた事は明らかであるがそれがどんな意味合いの異変なのかを調べさせる事に、そして四半時も経たずに忍びより報告がもたらされた。
「えっ! なんと内乱が起きていると申すのか?」
「旗印を見た処、島津と立花とでなにやら衝突が起きている様との事です、争いが激しく近づけぬとの事であります!!」
前夜に関白の指示に従わず横に配置されている立花宗茂の軍勢と戦うと決めていた島津軍が午後になり動いたと言うのが真相であった、島津義弘は決戦日となるこの日は戦闘に参加するふりをして時間を稼いでいた、榴弾の攻撃を確認するとさらに陣を後方に下げ、その島津軍が前方で出撃命令を受けいよいよ動き始めた立花の軍勢に後から一斉に鉄砲を放った事で多数の硝煙が上がり戦闘が始まった。
「何故! 儂の命を聞かぬのじゃ!! 島津に前に出る様に立花を援護するように再度命じよ!!」
数回に及ぶ関白の命を無視して勝手な振舞をしていた島津軍は午後になり漸く鉄砲隊に弾込めを行い戦闘の隊形を取り始めた、苦々しくも戦闘中である事から戦の後に島津に罰を与えねばと我慢する中突如島津の鉄砲隊が一斉に弾を放ち何事が起ったのか理解出来ぬ秀吉であった。
「なんであの様な処から弾を撃つのじゃ? 全然届かぬであろうが・・それとも近くに敵兵でも現れたのか、母衣に物見を行かせよ!! 急ぎ確認するのだ!!」
関白側の中心部隊10万の軍勢は中央付近より那須側の支配する戦線に入り込み距離を縮める事で大筒から被害を受けぬように盾兵と長柄足軽に前進させそれと同時に鉄砲隊、弓隊とさらには後ろに騎馬隊が残り400間後を挟み熾烈な戦闘を行っていた、そこへ援軍として攻撃力がある立花宗茂の6万もの軍勢に局面打開の命が下る、島津義久はその時を待っていた、立花が那須に向けて動く時が一番の狙い時であると、その狙い時に鉄砲が一斉に放たれたのである。
立花軍は後方で鉄砲音が多数響き渡った事とまさか島津から標的となって攻撃されているとは露も知らず前方で指揮する立花宗茂は新手の敵でも現れたのかと思い物見を放ったがその間にも間断なく鉄砲の音が鳴り響いていた。
「なんだと!! 島津が我らの後方部隊に鉄砲を放ち攻撃しているというのか! この立花に攻撃をしたというのか!! 島津が裏切ったのじゃ!! 急ぎこの事を関白殿下にお伝えせよ、我らはこれより反転し島津と戦うと殿下に申し上げよ、至急お伝えせよ!! 全軍反転せよ!! 敵は島津である、これより我ら立花軍は島津と戦う、急ぎ反転せよ!!」
立花から島津が裏切り攻撃を受けている事で戦闘が始まりあの鉄砲が鳴り響いている音は島津側の鉄砲隊が攻撃している音であると報告を受けた秀吉は顔面を充血させ本陣に居る控えの兵1万に島津の後ろに回り込み立花の兵と挟撃するように命を出した、島津が裏切った事で余計な時間を割く訳には行かなかった、挟撃を行うゆえ立花は兵を二分し三万の兵は那須に攻撃に迎えの命が下った。
「流石殿下である、挟撃の兵を出して下さるとは、では仰せの通り兵を二分し一隊は那須に、もう一隊は殿下の兵と島津を挟撃致す! 」
この挟撃指令は正しい判断と言えたが相手が島津であり既に最初から挟撃される事を前提に策を講じていた、島津には主人を護る為に自らの命を惜しんではならぬ、死して主人を護る事こそ配下の役目という厳しい掟が哲学として幼少時より叩き込まれていた、その戦法こそ島津の『捨て
史実での関ヶ原合戦で島津軍が撤退する際に使われた戦法、関ヶ原の戦いの際の島津軍では、三成の西軍が崩壊し、周りが東軍家康方の敵だらけの中で陣を引くにあたり、島津軍は300人程に減っていた兵数で敢えて敵前衛である福島正則隊を正面突破し、捨て奸を用いて伊勢街道経由で戦場から離脱を図った、捨て奸は退路に点々と配置しておいた数人ずつの銃を持った兵達を、あぐらをかいて座らせておき、追ってくる敵部隊の指揮官を狙撃してから槍で敵軍に突撃する、徳川方の松平忠吉、井伊直政、本多忠勝らは島津隊を執拗に追撃したが忠吉と直政が重傷を負い、忠勝が落馬、直政はこのとき受けた傷がもとで病死に至ったと言われる。島津義弘らは養老山地を抜けて堺に至り、海路を経て薩摩へ帰りつくことができた。
島津の退き戦は単に命を発すれば出来るという者では無い、捨て奸という戦法が常に常在戦場に起きる想定が日頃の調練の中で培って来た結晶と言うよう。
史実では西軍の敗戦による退き戦で使われたが此度の戦は目的がはっきりしていた、立花軍の足止めこそが目的でありその為の戦略とも言うべき手段を島津義弘は豊久や他の将に指示していた。
「良いか! 間もなく立花の軍勢が動き始める、あ奴らは大軍であるから先頭が動き始めても後ろが移動するまで時間を要する、すると立花の軍勢は間延びした長い軍勢となる、そこが狙い目となる、間延びした軍勢に鉄砲を射かけながら我らは後ろに後退する、この後ろにある池寺池を右手になる所まで後退するのじゃ! さすれば左側は笹尾山となり池と山が壁となり我らを攻撃出来ぬ、後は前後だけの敵と戦うだけで良い、立花に鉄砲を射かけながら池まで退き戦を行う、場合によっては捨て奸を使い島津軍を安全な池寺池まで移動させるのじゃ、良いな!!」
島津義弘の指示は右に池、左は山に守らせ島津軍は北国街道の前後だけを護る事に集中すれば一日を充分に戦いきれる目算と自信があった、一見挟撃されやすい隘路に迷い込んだように見えるが時間稼ぎをするには最善の場所と言えた、島津家は九州の覇者ではあるが決して最初からそのような立場では無かった、九州の地には豊後の大友宗麟と肥前と佐賀に跨る竜造寺隆信、そして薩摩の島津家による血みどろの戦を繰り返していた、その中を勝ち抜いて来たのが島津家である、最後は秀吉に九州成敗という島津成敗によって降伏したが歴戦の経験とその武勇は紛れもなく随一の持ち主と言えた、その義弘が戦場として選んだの道狭き北国街道で立花3万の兵と挟撃して来る秀吉の軍勢1万と戦いが開始される。
「鉄砲隊先に前方にいる立花を射やれ、ゆっくりと後退しながら立花を隘路に誘い込め! どんどん景気よく射やれ、積年の恨みを鉄砲の弾に込めよ!! 若造に戦と言う物を教えてあげよ!! 島津の強さを見せつけよ! 今ぞ射やれ射やれ!」
豊久も恨みを晴らすべく鉄砲隊に檄を飛ばし立花の兵を次々と倒し立花兵は死屍累々と道に重なり合っていた、一見すると後退する島津軍を圧し押しているように錯覚する立花の軍勢ではあるが死屍累々の屍はその殆どが立花の兵であり、暫くして義弘が指示した右側に池寺池と左側に笹尾山がある位置に辿り着き急ぎ陣構えを構築し後ろから挟撃して来る関白兵にも備え徐々に迫り来る関白兵にも鉄砲が射こまれ始めた。
「え~い何をしている今ぞ! 島津は釘付けになった、前田に全軍で那須に一気に敵本陣に駆け抜けよ! 犠牲など気にするな、敵本陣に辿り着けば乱打となる、敵は我らより少数ぞ! 前田に檄を飛ばせ!」
関白の策は敵の懐に飛び込み、飛び道具を封じる距離まで近づき後は乱打戦となり数に勝る関白側が圧倒的に有利となり戦局はあっという間にひっくり変えるという至極明瞭な策と言えた、しかしその策を見抜いている半兵衛は近づく関白軍に対して騎馬隊に弓と石火矢で啄木鳥戦法を取りながら隙あらば蛇行突撃をするように軍配の持つ右手を上に上げ旋回し軍配を前方に倒した!! 騎馬隊に前に出よという指示を出したのである。
那須家本陣の前には6万からなる騎馬隊が12将が率いる大隊を編成しており半兵衛からの指示で一斉に那須側から一気に騎馬で近づき五峰弓、石火矢を敵陣に向け放ち混乱した隙を作りだし蛇行突撃を、12匹の大蛇じゃ関白軍の中に突入した、12匹の大蛇の頭には屈強な槍兵が蛇行突撃しながら敵陣を崩していく頭の動きに合わせた本体部分の騎馬隊も槍と弓にて次々と敵兵を削り、さらに後方の尻尾部分にあたる場所には石火矢を操る騎馬隊が大蛇の進む道目掛けて火を放ち大蛇の通る道を無理やり広げ怒涛の殺戮を行う大蛇と化し、遠くから見れば伝説の大蛇『
「殿下! 那須の方から騎馬隊が繰り出して来ました、我が方の中央の部隊に突撃して来ました、崩されております・・・陣形が乱れ前線の横陣が崩されております!!」
「馬鹿者!! 崩されたのであれば中に引き込め!! 出口を封じるのだ! そしてこの本陣より1万の別動隊を空になった那須の本陣に向かわせよ!! ここからは時間との勝負じゃ!! 一気に勝負を賭けよ!!」
大蛇八岐大蛇はある程度敵の横陣となっていた前線を崩すと今度は分裂をし始めた、12隊の大隊は数千から編成されておりその一大隊から数体に分裂した、大大蛇から大蛇が誕生したかの如く瞬く間に分裂し108隊の騎馬隊が作り出された、これぞ半兵衛が敵の身体を食い破る究極の決して抗う事が出来ない騎馬隊の究極隊形を考え編み出していた、その究極の騎馬隊の戦法名を『煩悩即菩提』と名付けていた、煩悩とは人に巣喰うあらゆる全ての邪な飢餓と欲望であり仏教では108つの種類から成り立つとされている、その煩悩を打ち破り人が人として安らかな安穏の居地となる菩提へ到達する事が仏の道であり人の道であると、108に分裂した蛇行騎馬隊はそれぞれが槍と五峰弓そして石火矢を備えた攻撃特化の騎馬隊である、もはや108に分裂した騎馬隊を停める手立ては残されていなかった。
「殿下! 敵騎馬隊が無数に別れ関白軍を翻弄しております、横陣は崩され騎馬隊を包めませぬ! 中央は大きな空間となり隊形は・・・隊形は・・・あっ!! 福島殿の隊が霧散しております、援軍の立花殿は敵陣に向かうも続く者おらず・・・加藤殿福島殿へ救援に向かっております!! 前田様敵騎馬隊数体と交戦中です・・あっ!????・・前田様の隊形が一気に崩れております・・・前田様軍勢に丸に二つ雁金・・・柴田勝家の軍勢が・・敵柴田勝家が突撃しております・・・!!!」
「那須に本陣に向かった別動隊はどうなった?」
「ここからでは判別付きませぬが、敵本陣の幟旗に変化ありませぬ!!」
「ぬぬぬぬ!・・・・良し我ら本陣2万の軍勢はこれより中央に円陣を組み移動する・・我ら関白軍に散った者達を円陣に組み入れよ、大きい円陣となり那須に向かう、最後の決戦とする!! 盾兵は外周に集結せよ! 鉄砲、弓兵はその後ろに、槍隊は儂の周りに円陣を組み太鼓を打ち鳴らし移動せよ!! 馬印の千成瓢箪を金の馬印を掲げよ!!」
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