第6話 村長と正太郎


「忠義は幾つなのじゃ?」



「はっ、私は16になりました、去年元服を終えております、しかし初陣はまだしておりません」



「そうか文字の読書きはどうか?」



「はっ、若様と同じように幼き頃より厳しく母様から鍛えられ一通り出来ます」



「さすがじゃなー、私はまだ一字一字書いては覚え、まだまだ読めぬ漢字が沢山ある、最近やっとひらがなが書けるようになったばかりじゃ、あと算学などあたまが痛くなる、大人になるには大変じゃ・・・」



「若様それがしも同じように嘆きました、なにしろ母上が厳しく、本当にこれが母上なのかと、別人ではないのかと、きっとどこかに優しい母上がおるに違いないと父上に打ち明けたら、今度は親のありがたみが分らぬのかと父上からも叱られた記憶があります」



「あははは、楽しいな忠義は、我も忠義みたいに努力するだけじゃ」



「若様、今後の予定ですが、どのようにすればよろしいでしょうか」



「父上から頂いた村が城より近いそうなので明日にも案内して欲しい、見て回りたいのじゃ」



「わかりました、では明日、朝餉の後に若殿の元に参ります」 



「うむ、待っておるのじゃ。」



 翌日朝餉を食べた後に忠義と近くの村に、愛馬(仔馬)春の背に乗って忠義に手綱を引いてもらい約半刻で到着、田んぼと畑を見回り、村全体は緩やかな南傾斜の日当たりの良い25件程の小さい村であった。



 村長が急いで駆けつけ地面に顔をこすり付け村長の平蔵と名乗る。



「那須正太郎である、これは従者の忠義である」



 と挨拶、村長を立ち上がらせ、田植えについて聞き出す正太郎。



「村長よ、この村での米の収穫高はどの位あるのじゃ」



「はい、豊作の時で300俵あまりです」



「村の人口は子供も含めてどの位じゃ」



「はい、今は確か120人程います」



「では、300俵取れて、那須家は五公五民だと150俵が村の者達、120人で分けるという事か?」



「確かにその通りなのですが、戦がある時はその時々で減りますだ、私の村は他の村より恵まれており豊かな田が揃っておりますだ」



「他には何を育てておるのか、はい、稗や粟、麦、蕎麦、大根、ナス、瓜など他豆類もあります」



「田植えはいつ頃するのじゃ」



「今は2月半ばなのであと2か月程しましたら行います、3月に入りましたら田起こしという作業をして水を張り、少ししてから種まきしますだ」



「であれば、村長相談なのだが、種まきを私が言う方法でやってもらえるか、例年30俵取れる広さの田で私の言う通りやって欲しいのだが、仮に収穫が減った場合は減った分だけ年貢はこちらで補充するのでやってもらえないか、田の形はなるべく四角い形の田を選んで欲しい、どうであろうか」



「わかりました、村の者と相談して田を用意しておきます」



「あと、村の中で手先が器用な者はいるか」



「はい、二人ほどいます、そうかでは後日城の方に来てもらうので、こちらも用意出来たら使いの者をよこすので城に来てもらいたい」



「わかりました」



「ではたのんだぞ」





「若様、若様は田植えの知識などありますので、私は田植えをした事はありませんので、若様が何を行おうとしているのか、わからないのですが」



「忠義よ、私は五才の幼児だぞ、読書きもまだまだ出来ない、馬にも忠義が手綱を引いて初めて乗れるどこにでもいる幼児よ、その幼児が田植えについて村長と話をするなど、奇天烈な話で自分でもどうにも変な話であると思っている、しかし、ここだけの話であるが、私の指示通りに田植えをすると、なんと30俵取れた田から40俵あまり取れるかもしれないのだ」




「えーっ、どういう事ですが、どこでその様な方法を知ったのですか」



「ではこれから城に着いたら私の部屋で昼餉を食して忠義には大切な話をするので心して聞くように」



 そして衝撃の話を正太郎から聞く忠義であった、若様に他の者の意識が入り込み、いろんな知識とさらに、極秘に平家の里なる危険な話と蒙古弓とかいう弓が那須家にはあるという、奇想天外な話に全く付いていけず、幼子の勝手な妄想に振り回されているのではないのかと。




 それにしても不思議な話を若様から聞かされたが、田植えを終えた後に、どうやら平家の里なるところに私も伴するとの事なので、話を理解出来ないので、考える事を止め、流れに任せる事にした忠義であった。




 その後、忠義に長さ半間約90cmと高さ二寸約6cmほど、厚みは1.5cm程度の板を数100枚と底板も用意させ、釘とノコギリ、金づちを用意させ、村の手先が器用な者を呼び寄せ指示したのである。




「その方たちご苦労である、那須正太郎である」




 地面に頭を付け拝礼する二人に向かって立ち上がるように言って。




「お主たちにそこにある材料で、ハチの巣になるように四角い枡を作って欲しい、およそ2寸程の四角い枡が半間四方の底板の上に60~70位出来るはずである、多少枡の大きさは違っていても大丈夫である」




「半間四方の大きさの板に60~70の枡が付いた板を250枚作って欲しい、二人であれば二十日間もあれば作れるであろう、給金も出すゆえ、安心して作って欲しい」




「作った枡板は村長のところにおいて完成したら知らせてほしい、それからこれは二人への土産だ、米の塩にぎり各10個とそれと竹筒に酒を入れた笹酒じゃ、これは3本ある1本は村長に渡してくれ。わしが最初に人に頼む記念の日じゃ、二人とも頼むぞ」




 荷車二台にそれぞれの材料を乗せ感激して帰る二人であった。




「若様あのように贅沢な土産などよろしかったのでしょうか、たかが農民にどうかと思うのですが・・・」




「忠義よ、農民程純朴で領主に尽くしてくれる人はいないのだぞ、戦になれば足軽として命を失う時もあり、何もなくても毎年我らの生きる糧を収めてくれるのだぞ、農民は宝なのだ、こちらも尽くせる時は尽くすのが道理であり、人の道なのだ」




「忠義の忠言も最もの事であるが、その言葉に、たかが農民という、そのたかがという物言いはまるで虫けらの如く侮蔑した見方ではないか、私の大切な忠臣である忠義からでた言葉であった事に私は悲しい、そして悔しいぞ・・・・わしの大切な忠義が他の者から侮蔑の言葉をかけられたら、わしは、わしは、その者を許さん!」




「うううっっ・・若様・・申し訳ございません、若様の心を知らず、私は私は恥ずかしゅうございます、ううっっ・・・これよりは、心を入れ替え、若様に若様に大切な忠臣と言って頂ける忠義として身命を賭して尽くしてまいります、どうかお許しください・・・・」




「頼むぞ、忠義、忠義と・・・わしとそちは一つぞ」 


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