牛乳で強靭化


「そうなのです、母上、半兵衛の時だけ麦菓子を出しており、十兵衛からこれはもしやだと言われ、昼間確認したら百合の奴が急に顔を赤くし、何を言ってるのか解らなくなったのです、そこで母上に相談すると伝えると今度は儂にまで、言ってもいないのにお茶と麦菓子を出して来たのです、ここは母上の方にお願いした方が最善かと思われますので一つよろしくお願いします」



「それは良い話です、百合もそろそろと考えていました、丁度良い時に伴殿にも来て頂きました、後は半兵衛がどうであるかですね、元は城持ちの国人領主であったと聞いています、それに聡明なる事、今孔明であると言っていましたね」



「はい、美濃のお城を十名程で乗っ取りしたと、知識も十兵衛よりあると褒めていました」



「前に体がやや弱そうだからと言って公家殿と薬草やら何やらをするとか話しておったが、身体の方は良くなっておるのか?」



「公家の錦小路殿が言っておりましたが、食がやや細いだけで、季節の変わり目に風邪等に注意し、食を改善すれば丈夫な体になると申して、最近は半兵衛も公家殿の家に通い何やら食している様です」



「では後は本人がどうなのかだけであるか・・・百合の家柄も申し分ないし、この件は私が差配してみる、ただ、相手がある事なので今は何とも言えぬと百合には言っておきます、余り期待させる様な話は控える様に、それと福と万の事であるが、本人達もお任せすると返事を頂いた、後はあの者達には親代わりがいないので、ここは十兵衛に親代わりとなって頂こうかと思うがどうである?」



「お~それは良いかと思います、えーと親代わりとは、十兵衛の養子になるという事ですか?」



「そうではなく、結婚の進め方はあの者達が二人の家に養子に入る方が周りの者からも何かと認められよう、十兵衛には仲人として後見人という意味の親代わりである、さすれば嫁ぐ家で何かあっても十兵衛が関わりあえるので、両者に取って良い形となる、福と万の家は昔は武士だったそうな、食べていく事が中々出来ず先祖が帰農したそうな、そう言う意味では、那須家にも責任がある、しっかりした者を付ける事で少しでも責を果たしたいと思う」



「そうなのですね、仲人という役目には橋渡しと、それにより親代わりと言う意味合いもあるのですね、母上よろしくお願いします、あの者達も喜びます、今では配下の中で1、2を争う強き兵になっております、これから楽しみな二人です、では伴殿、屋敷にて百合と梅からも館の仕様など確認して後は伴殿が差配して下されば皆の者が安心致します、どうかよろしくお願いします、後程、新しい芋の菓子を作る様に飯之助に銘じております、完成すればこちらに届きますので召し上がってください」



「それは楽しみです、竹太郎が甘くて美味しいと言っておったから楽しみにしております」





── 牛乳で強靭化 ──




公家の錦小路は京の御所で暮らすのを諦め既に那須の地で資胤に我儘を言って広い土地を宛がわれ正太郎の村近くに勝手に田舎暮らしを始め楽しい日々を過ごしていた、そこへ正太郎が半兵衛が一体どのような物を食べているのか興味が沸き遊びに来たのである。




「なんだなんだあの騒がしい鳥は、白鳥・・自鷺・・・太っている・・・それに煩い、なんだギャーギャーと、威嚇して来るぞ、思ったよりでかいではないかギャーギャー!」



「お~これはこれはようこそ、この様なむさ苦しい所に、よく来て下さいました」



「あの煩い鳥はなんなのじゃ?」 



「あれは鵞鳥がちょうという水鳥です、あの鳥は飼主になついて、他の者には余りなつかなく番犬の様に騒ぐ鳥でして、それも意外と強い鳥なのであの柵の中で飼っております」



「そうであったか、儂に向かって来てギャーギャーと焦ったわ、それに他にも牛までおるのか、それとあれは時告げ鳥ではないか、おいおい子供の猿までおるのか?」



「鵞鳥の親子、雌牛の親子、時告げ鳥が雌20羽と雄が2羽と親とはぐれた子猿が一匹です、出来ればもう少し増やしたいのです」



「食するのか? なんでこの様に沢山いるのじゃ?」



「それは勿論体を支える為に強くする為に用いるのです、この鵞鳥は番犬の代わりですが時々卵を産みますのでそれを食します、それに庭に放していると雑草を食べてくれます、この時告げ鳥も卵をよく産みます、それを食するのです、それとこの鳥たちの糞が畑に良い働きを行うので使います、牛からは乳を搾り飲むのです、半兵衛殿にはこの乳を必ず飲む様に渡しています」



「牛の乳を飲むと体に良いのか? あと卵も良いのか?」



「牛の乳はその昔帝もお飲みになっております、今はどうしているかわかりませんが牛の乳には体を強くする力があります、特に小さい童の時から飲むのが良いとされています、折角なので若様にも今用意しますね、それと某の家族も京より参りましたので紹介します」



屋敷に入り、奥方と子供二人、奥方の両親、使用人6名、12名を紹介された。



「この使用人達は態々探し名抱えた者です、痘瘡とうそう『天然痘又は疱瘡ほうとう』にかかりしも助かった者達であり、この者達は再発しないので那須にて痘瘡が起これば一大事ゆえ、その時はこの者達が中心に働きますので特別に探し召し抱えた者です、普段は一緒に畑作業などしております」



「そうであったか、大変な病気だと名前は知っておる、よく那須の地に来てくれた感謝する後ほど錦殿に差し入れするゆえ食するが良い、それと奥方殿であるな正太郎である、よく来てくれた安心してこの地で暮らしてくれ、それと錦殿の奥方はもしや、やや子を授かっておるのか?」



「はい、四カ月と言う所かと、この地で安心して食する事が出来まして、やや子が授かりました、嬉しい話です」



「やはりそうであったか、ややお腹が大きく見えたゆえ、賑やかになって良い事じゃ」



「ささこれです、お飲みになって下さい、少し熱いのでゆっくりとお飲み下さい」



「あっ、あつ、あっちち・・・ふーなんか落ち着くのう、なんと言っていいかわからんがこれが乳なのか、牛の乳を飲むと体に良いのだな?」



「はい、人の乳も赤子には大切な養分が含まれておりますが、乳が出る期間が人の場合は短く他には利用出来ませんが、牛の乳は出る期間が長く色々と用いる事が出来ます、病で食する事が出来ない時に飲ませるのも良いし、普段から飲めばより良い事になります、ではこの砂糖を少し入れて飲んでみて下され」



「凄く美味しいぞ、乳と砂糖の相性が良いぞ、これは美味しいもっと飲みたいのだが」



「ではもう少しお飲みになって下され、それと乳は便通に良いのでお腹が少し緩くなるやも知れません、慣れれば大丈夫です、温めてから飲めば大丈夫です、それと若様の館に室が御座いましたね、あの室の氷とこの乳にて大変に美味しい、この上なく美味しく冷たい菓子を夏に御作り差し上げますので楽しみにお待ち下さい」



「お~それは楽しみである、あの氷室には沢山の雪が固めて箱に入っておる、態々幸地がこさえてくれたのよ、暑さをしのぐだけではなく、いろいろと食物の保存にも良いと言うので室の中から隣の部屋にも冷気が来る様になっており、工夫されている」



「ささこちらも召し上がって下され」



「どれどれ美味しそうな匂いじゃ・・・パクパク…口の中で溶けていく・・美味しいぞこれは、この黄色いのは・・・」



「それは時告げ鳥の卵を焼いたものです、身体に大変に良く半兵衛殿にも食べさせております、夏など身体が疲れて食欲がない時など、乳と卵を召し上がるだけで栄養を補えます、医道と、食は正しい知識があれば食も医道なのです、正しき知識が無く食の改善が出来ない者は医道者ではありません、その医と食が合わさってこそ医道なのです」



「見事である、流石公家殿である、その知恵を広め那須の地から弱き身体の子を無くし、病から身を守る強き人々を作りたいものである、錦殿の知恵を借りたいと思うがどうであろうか?」



「最もな事です、本来医道とは医者が必要のない世を望む者であり、そうであらねばなりませぬ、これまでは糊口に耐えなんとか生きるだけの生活でした、今はこの様に本来の姿に戻りつつあります、後はどの様に行っていくかで御座います」



「では儂の考えている事を話す、儂には今、数十名の親無しの子を引き取り、儂の村で育ててもらっている、その子達はいずれ、農民となる者もいるだろう、武士になる者もおろう、その者達に学ぶ機会を与え、知識を与え、那須の地に必要な者に育てなければならぬ、そこで半兵衛には学び舎を作る話はしておるが、半兵衛も道の整備などに忙しく、中々具体的に話が進まぬ、その学び舎にて教える者として其方を教導役として行って欲しいのじゃ、さらに京にいる公家殿の仲間で暮らしが儘ならぬ者がおれば、那須に呼んで欲しい、その者達にて学び舎を支えて欲しいのじゃ、どうであろうか?」



「ほう、その様な事をお考えだったのですね、某の知識が役立つなればそれこそ本望で御座います、是非私の様な者で役立つのであれば、教導役として知識を授けたいと思います」



「その言葉大変に嬉しい、それと間もなく京にて医師見習いだった、幸之助が足利学校から戻ってまいる、奴も正しい知識を身に付け戻るであろう、さすれば公家殿の助手として何かと役立つであろう」



「幸之助なる者がおったのですか、それもかの有名なる足利学校にて学ぶなど、それは頼もしいです、確かに足利学校は下野国で御座いました、京からも知識を求める学僧は足利に向かいまする、それはよき事かと」



「あといろいろと食について菓子職人と城の賄い方を寄こすので身体に良い食べ物など教えてあげて欲しい、それと牛も増やし、時告げ鳥も沢山増やさねばなるまい、その面倒は学ぶ子らにやらせれば、余計に良いであろう、後で澄酒など寄こすゆえ、楽しみに待っておるが良い」




ギャーギャーギャー・・・



「安心せぇー、鵞鳥よ、我は帰る」






・・・ギャーギャー・・モウーモウー《牛の声》牛の声に見送られた正太郎であった。





公家も活躍しそうな話、楽しそうな田舎暮らしで羨ましいです。

次章「魂の灯」になります。

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