第15話 洋一の模索・・・1
正太郎がなんとか平家の里に辿り着き鞍馬の子孫とも会え、無事に椎茸栽培を伝えた事の思念を正太郎から得た令和の洋一は、とりあえず暫く時間が稼げると思い、洋一なりに次に何をするべきなのかを検討しようとていたが、良い思案が浮かばない状態となり、洋一の世界でも仕事柄農業機器のメンテナンス部門は忙しい時期になる。
各地の農協から組合員の所で使っているトラクターが動かない、耕運機がにっちもさっちも行かない、乗用タイプの大型草刈機が地面に隠れていた岩とぶつかり刈刃が破損した、アームが動かない等のメンテナンス処理と工場に運ばれてくる農業機器全般の対応に追われていたのである。
やっと落ち着き始めたのが8月に入ってからであった、そんな時に前から疑問であった自分の家の苗字である今成について、夕食時に親父と爺様に確認してみようと話題を振る事にしたのである。
「そう言えば我が家の先祖が今成館の武将から発祥しているんだよね?」
「ああーそうだ、ご先祖様から伝わっている」
「その割には川越に今成という苗字の家が少ないと思うけど、そんなに珍しい苗字なのか?」
「あんまり関心を持った事は無いからわからなんなー、爺様は何か知っているか?」
それまで話を聞いていた爺さんが口を開く。
「実はなー、昔の話になるが俺の爺様が遠くへ、突然葬式に行ってくると言って出かけたんだ、その時にどこに行くのかと聞いたら、群馬県にある明和に行くと、なんでそんな所に行くのか聞いたら、子供の頃に大病を患って困っていたところ明和に住む今成という家でその薬代を立て替えてくれたそうだ」
「なんでも俺の爺さんの話では、爺さんのさらに爺さんの親類が群馬の明和にいる今成だそうだ、大病した爺さんにとっても子供の頃に薬代を出して頂き助かった恩があるので、その人の葬式に行くと言ってた」
「へえー初めて聞いた」
父もそんな遠縁にあたる親戚がいたのかと、やや驚いていた。
「その後その家とはどうなっているの?」
「いや、その方が亡くなってからは特に付き合いは無いよ、そもそも川越から群馬の明和に行くには当時は簡単に行けない時代だからな、今なら車であれば簡単に行けるがな」
「あっ、そうだ爺さんの話だと、葬式の時に集まっていた人達の名前が今成だらけで驚いたと言っていたよ、隣近所も全部今成だったそうだ」
「なんだそりゃ!」
そんな田舎の明和になんで今成が沢山いるのか、それはそれで面白い話だと思った洋一、父親が。
「お前ご先祖様に関心でもあるのか?」
「うーそうだね、ご先祖様というか今成という名前に関心があるのかな、調べてみたい気持ちはあるよ」
「そうかそれなら明日市役所に行くから確か、役所でその家の過去の家系を教えてくれると聞いた事がある、先祖の名前と生年月日もわかる様だ」
「へえー、そんなのわかるんだ、じゃー親父その家系の件を役所で聞いて来て教えてほしい」
「あ~わかった、期待しないで待っていろ」
今成という苗字が川越発祥なのに、何故今成という名前の家が少ないのか、以前から不思議に思っていた洋一に少し希望が見えたのであった。
しかしなんで群馬県の明和という所に今成が沢山いるのだ、先祖が集団で住民移動でもしたのか、それとも平家の里みたいに、源氏にでも追われて逃げたとか、でも明和だと館林市の隣だから隠れた訳ではなさそうだな余計に深まる謎の今成家になってしまった。
翌日の夕食時に父から戸籍の束を渡された、何でも直系の先祖が記載された住民票みたいな資料の束である、父の説明では川越市で保管している市政が出来た当時からの住民台帳から遡った戸籍らしいと説明を受けたのである。
夕食後にその束の戸籍を見て一番古い時代を検索したのである。
「なになに、この戸籍だと親父から八代前までの先祖が記載されているぞ、一番古い先祖様は、亨和元年六月生まれの、正次郎さんという事か、亨和元年っていつだ、おいおい凄いな1801年だってよ、今から222年前のご先祖様に行き着いたぞ、すごいな川越市の役所は、見直したぞ」
しかし20枚ほどあるこの戸籍からは明和に繋がる情報は見られなかった。
こうなったら群馬県の明和町に行ってみるしかないか、手あたり次第今成という人に聞くとか、なんらかの事は出来そうだし、来週金曜日に代休があるから行ってみるか、翌週の金曜日に早速出かけた洋一、今成が今成を訪ねる不思議な調査に出かけたのである。
行く当てが無いので、明和町の役場で今成という家が集中している場所を聞いて見ようと思った洋一、途中から東北自動車道に乗り換え僅か1時間20分程で役場に到着。
なんだこの大きい役場は、タイムスリップした様な田舎の風景に、でかい役場だな、ここ町だよな、でかいぞこれ、これが第一印象の明和町であった。
入口を入り住民票など扱う窓口が確かだと思い、恐る恐る訪ねたのである、カウンター前に行くと直ぐに近くにいた女性が。
「どの様な御用でしょうか?」
と尋ねられ。
「えー、えーと、川越市から来た今成と言います、変な話なのですが、実はこの町に今成という苗字の方が多いと聞き、その今成という名前を調べに来たのですが、よろしければ、その今成さんが多く住んでいる地域を教えて頂けないでしょうか?」
と話す洋一。
受付の女性より、怪訝な顔をされ。
「すいませんが、今成様の身分を証明できる物を拝見したいのですが?」
と聞かれ、免許証を示し、確かに今成洋一と書かれた免許証を確認したのだった。
受付の女性より。
「少しお待ち下さい」
と言われカウンターの椅子に座って待つ事にした洋一、受付の女性は、怪訝な顔で他の女性職員になにやら相談している様であった。
「ねえ、ちょっと貴女の苗字と同じ方が川越から来て、今成という方が今成を調べに来たという変わった青年があそこにいる、あの人がそうなんだけど」
どうしようかと会話する女性職員であった。
「それなら私が対応しますので交代しますね」
「じゃーお願いね。はい」
洋一の前に新しい女性職員が・・・
「今成様こちらへどうぞ」
と言われカウンターの端に移動し椅子に座り女性が洋一に。
「今成様が今成様を教えて欲しいとの事ですが、個人情報は教えることは出来ないのですが、私のネームプレートを見て頂けれは判りますが、私の苗字も今成と申します。そこでどの様な事を洋一様はお調べになりたいのでしょうか?」
と質問された洋一であった、この出会いが洋一にとって新しい扉を開く不思議な出会いとなるのであった。
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