第60話 胎動・・・1


当主資胤が京に向けて精鋭300の騎馬隊が着る装いも、古式の装いで整え煌びやかな狩衣装束とし、佐竹と戦った黒色ではなく、色艶やかな衣装とした、その衣装を着る意味を天下に対して明確にした。



この狩衣装束は朝廷を支える舎人衣装である、舎人とは朝廷に仕え、朝廷を守るという律令の世に創設された役目、朝廷を支える部門全てを、広義として舎人という言葉で表し、衛兵も含まれる、那須騎馬隊の衣装はその意思を明確にし古式の宮中警護の衣装としたのである。


この衣装を正太郎は全ての者に、正太郎の自費で提供した、又、荷駄隊も同様の衣装に、その理由は佐竹との合戦前に荷車を馬にて牽引出来る新式の板バネが施された荷車の開発に成功していた。


この荷車は馬1頭で幅4尺長さ8尺(1230mm×2460mm)車輪は2対として現代の軽トラックの荷台に近いサイズの開発に成功していた、荷車の重さが60キロ、150キロまで積載できる荷車。

(牽引重量は馬の体重とほぼ同じ重量まで問題ないという事が紹介されている、那須駒は日本在来種の馬であり、体重は330キロ程度のやや小型である、その体重から見てやや小ぶりの荷車と言える)


上京する部隊全てが見た目は騎馬隊と言う事になり、それはそれは見事な程、惚れ惚れする行列である、正太郎は、那須という名を天下に響かせるために、あえて目立つ衣装とし、軍列を整えた。


献上する品に椎茸が取れる季節になるので、干し椎茸も半貫(310個)という大量を献上する、それだけで,46.5貫(現代の465万円)となる。

(作中では、干し椎茸1個15000円です)


朝廷に激震が響き渡る事になると楽しみな正太郎、そもそも正太郎はまだ7才、12月が来て8才の子供であり、お金の価値を理解していない、殿様の子として育ち、お金に困らない環境であり、自ら買い物をした事がなく、商品の相場が解らない。


ただ正太郎の育った環境は両親に恵まれていたという事が大きい、贅沢な事からは疎外され食する物も質素と言っても良い、米の飯より五穀米という麦稗粟黍などが入ったご飯が好きであり、特にプチプチした麦が好きであった。


村長の家で食べている芋粥も大好きで時々、馳走になりに出かけ、塩と干した鹿肉など持参し、村長の平蔵一家と食していた、忠義に見つかると下の者に示しが尽きませんと怒られるが、これは村の見回りであると言って言い訳する正太郎。


そんな正太郎が帝に献上する品には大金をかけ、父上である資胤の晴れ舞台を作るべく奔走していた。


正太郎は、京の事情に詳しい十兵衛と半兵衛に大成功させる上で後何が必要なのかを質問した。


「此度の上京で父が帝に拝謁する際に献上の品はともかく銭も用意した、後はどの様な手を打つべきか」


「私より十兵衛殿の方が京に明るく、事情も詳しく、さらに此度同行いたしますので、十兵衛殿が打てる手を行うのがよろしいかと思います」



「うむ、では十兵衛他に打てる手はあるかのう?」



「であれば献上の品、何より貴重な干し椎茸、大金の銭、先ずはこれだけでも、中々大大名とて行う事は難しいです、後は、より帝に近い方々に近づき華やかに致せば都中に那須の名が広がりましょう」



「そのなんじゃ、それはどういう事なのだ?」



「今の朝廷は、本来であれば支える将軍家が費えも含め治安を守るべき役目なのですが、将軍家に力がない為に、都は戦も多々あり、盗賊が徘徊し、乱暴狼藉の巣窟となっております、ゆえに朝廷、帝を支える公家衆も貧困に喘いでおり生活もままならない状態です、その公家衆にも何らかの手が打てれば良いかと」



「その公家衆にも銭を渡すのか?」



「銭も必要では御座いますが、公家衆というのは、権威だけが取り柄の者達、今は貧困ゆえ、その権威すら表に出せないのです」



「すまん十兵衛、もっとやさしく教えてくれ、なんの事を言っているのか判らん、なんだその権威とは?」



「はっ、申し訳ありませぬ、権威とは、公家衆が数百年に渡り発展させてきた文化の事です、例えば歌会などを那須家にて開催して差し上げれば、こぞって公家衆は大いに喜び那須家を褒めたたえるでしょう」



「ふ~文化であるか、歌会とは儂は字を覚えている最中じゃから判らんが、忠義、そちはどうじゃ?」 



「和歌などもっての外です、私には若だけで充分です」



「忠義、そちも中々やりおるな~、 捻りが効いた返答ぞ!」



「しかし、父上に歌とは聞いた事は無いが、勘違いして本当に歌を歌い出してしまったりして、それはそれで都中に響き渡るであろうな、あははははー」



「う~困ったのう、歌会とは・・・」



「歌会の費用を出して、歌会には那須家当主様の代理として十兵衛殿が参加されればよろしいのでは? 公家衆は歌会が開催されれば喜ぶのであって、当主は参加されなくても問題無いのでないですか?」



「それは妙案であるな、父上が安心して参加出来る会は、きっと飲み会だけじゃ、宴会は得意なのじゃ、宴席なら特技も披露出来る、歌会を終え宴席に公家を接待すれば顔も立つ、それが良いどうであるか?」



「若様特技とはもしや・・・・」



「そうじゃ、あれじゃ、あれにはそちが必要じゃが、今回は同伴しないから、十兵衛がそちの役じゃな」



「何の事でしょうか? 私の何が必要なのでしょうか?」



「今は聞かぬ方がよいかと、御屋形様が特技を披露する前に厠にいく事をお勧めいたします、某、少々ちびりました」



えっ、という顔になる十兵衛であったが、正太郎も、まあー特技を披露しない時もあるから気にするなと言って、この話は終わった、そこへ鞍馬小太郎が申と一緒に報告があると急ぎ来た、お~どうした小太郎、申、何かあったか?



「はい、では申より報告します」



「烏山城周辺に他国より忍びが入っております、見た所20名ほど何やら怪しい者どもがおります、山伏や、僧侶に扮しております、それと歩き巫女も領内に広く10名以上が各地を回っております」



 「なんと、那須に忍びだと・・・佐竹との合戦で那須のお家が大領を得たので気になる諸国が忍びを放ち調べに来たのか、なんと厄介な事じゃ」



「小太郎、その方達から見てその忍び達は危険な輩であるのか? どうすれば良い?」



「手練れの者はそれ程いない様です、忍びより厄介なのが歩き巫女になります、女子ゆえ、ついつい心を許し、お武家様であっても油断し、秘事などを漏らされてしまいます、油断出来ませぬ」



「なんなのだその歩き巫女とは?」



「巫女とは神社に属し、厄払いを行いながら巡回する者達です、西国では時々見かける者達ですが、今那須に来ている者達はそれとは違います、明らかに忍びの者達です、諜報を行い情報を得る者達で普通の巫女ではありません」



「諜報と情報とは、どんな事をする者達じゃ?」



「主にその領国の内情を探り、弱点を探し、時には偽の風聞を流し攪乱する者達です」



「なんと、恐ろしい者達であるな、どうすれば良い?」



「その者達を始末した場合はどうなりますか?」



「一応神社に属し巫女の立場ゆえ、始末したなら、余計にややこしい事態に発展致します、その後ろには神社が付いており、どの様な形で災いに発展するか、私にも予想が尽きませぬ、ただ、以前父である天狗より、その者達は呪印で操られており封印を解かずに尋問などすれば、自ら命を絶ち、災いがこちらに迷い込むと、言われておりました」



「父である、天狗であれば呪印を解く封印呪文を破る事が出来るかも知れません、封印を解けばその者達解放されます」



「ではその封印が解ければ、解放され、自由になるという事ですか? 場合によっては味方になると?」



「恐らくそうでは無いかと」  



「どちらにしても、放置していれば、何らの秘事を掴み弱みを握られるという事であれば、天狗殿に来てもらい、試しに封印が解けるかどうか確認してもらうしかあるまい、上京を控えている時であり、慎重に事を運ばねばなるまい、申よ、今の話、天狗殿に伝え来て頂いてくれ、小太郎、先ずは領内にいる歩き巫女から配下の者達を使い目を離さずにしておいてくれ、怪しい動きがあれば教えてくれ」



「それにしてもその様な者達が来たという事はそれだけ那須が諸国から注目されたという事であろう、他の忍びの動きは注意だけ払い特に問題が生じなければ放置でいいであろう!」




どうやら板バネが無事に出来たようですね、歩き巫女、すごく可愛いイメージなんですが、萌えです。次章「胎動2」になります。

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