油屋が来た


 ── 北条氏政 ──




小田原北条家、北条早雲と言う革命児より、北条氏綱、北条氏康、北条氏政へと連綿の如く受け継がた四代目当主の北条氏政、風魔小太郎を呼び覚悟が決まったゆえ、那須に行く様に指示をした氏政。



「その方が預かった文であるが、儂にだけに話して、儂の覚悟が出来たら訪ねる様にとの話であったな?」



「はい、この話は氏政様、殿だけに話し覚悟が決まったら那須に来る様にとその者からの文で御座います」



「内容については聞いておらぬのだな?」



「はい、一切聞いておりませぬ、文を渡した者も内容は知らぬ様でした」



「その方は、どう理解しているのだ」



「われら忍びの者、忍びの頭領を呼び出せる者は1人しかおりませぬ」



「それは他の忍びも同じであるか?」



「我らと同じ忍びなれば伊賀、甲賀も含めて正当なる系統の忍びなれば、全てその者にあがなう事があってはなりませぬ」



「お主がそこまで言うのであればそうなのであろうな」



「はい、お武家様に取って頂点のお方、日ノ本に取って頂点のお方様は帝になります」



「忍びに取って頂点の方こそ此度文を使わした方になります、故に全ての忍びは、その方の差配に従わなければなりませぬ、それ程の方からの文となります」



「なるほど、その者が儂だけに話し、覚悟が決まれば来る様にとの文であるな、そこでじゃ、この文を読んでみろ・・・那須の嫡男正太郎という子が書かれた将軍家を諫める文よ、日ノ本中に書かれたそうよ、この文だけで幕府、将軍の権威が地の底に伏した、この様な文を儂は聞いた事も無い、それ程の凄き文よ」



「この文といい、その方が預かった文といい、戦いに明け暮れていたが、今、下野国の那須で大きな渦が起きようとしていると読んだ、儂の覚悟も決まった、その方話を聞きに行くが良い」



「わかり申しました、では行って参ります」



数日後には烏山城城下町の宿の手摺から変わった印が書かれた布が吊るされていた、宿に泊まり翌日宿の丁稚小僧から見知らぬ者から文を預かったと渡された、そこに書かれていた内容は時刻と場所が書かれただけの文であった。



場所は烏山城近くの農家であった、家には農夫が1人、風魔小太郎が訪れた事を知り家の中に通し、囲炉裏の側に案内した、農夫はどこかに出かけ暫くして一人の侍が現れた、腰に差している大小を抜き脇に置き、その方が風魔小太郎殿であるなと呼びかけた、よく来てくれた、儂が鞍馬天狗であると告げた。



風魔小太郎は、先祖より聞いていた、本当に天狗がいたという事に驚くと共にある意味伝説の鞍馬天狗に会えたという事に感動すら覚えていた。



「来て頂けたという事は当主の氏政殿の覚悟が決まったという事でよいな?」



「はい、主人、氏政より此度覚悟が決まったゆえ、話を聞いて来る様にとの事で御座います」



「では、話を致そう、先ず我ら鞍馬がどの様な役目の者か知っておるな?」



「鞍馬は帝をお守りする役目であり、聖徳太子様が作られた忍びという者の最初の者達であり、帝を支える豪族を守るためにその方達は、風魔、伊賀、甲賀と別れていったゆえ、その忍びの大元が鞍馬となる、ここまでは、そなたが知っている事となる」



「ではなぜここ那須の地に鞍馬がいるのか? ここからが本題だ、那須の家は祖を与一様からの系譜の家であると承知していると思うが、本当はそうではない、与一様よりもっともっと遠き昔より続く家であり、その源は、聖徳太子様が日ノ本の国が国家として帝が治めていける世を作る為に律令という制度により分国づくりを行い各地に律令の国々が出来たのだ、聖徳太子様から直接指示を受けた者が、日ノ本に最初の律令の分国が出来た国の一つがこの那須でありそのお方の名が那須というお方なのよ」



「分かり易く言えば帝が最初に造りし国が那須という理解で良いであろう、ゆえに実に古き時より朝廷と結ばれた家と言える」



滔々と語る鞍馬、静かに聞き入り、知らない事が次から次と話される事に、その様な家があったのかと感動していた小太郎であった。



「ちと長くなって済まぬが、北条家に取って大事な事ゆえ、伝えねばと思い話しているゆえ、今話した事は今までの大きな流れを説明したに過ぎぬ、これより話す事が小田原北条家に取って舵の選択が迫られる話になる」



「今から25年後にそちの主、北条氏政殿はある者から切腹を言い付けられ、北条家は滅亡する、お主達、風魔も瓦解しこの世から消えてしまう」



結論を先に伝えた鞍馬天狗、結論を聞かされ一気に顔色を変え真っ白になる小太郎・・・・



「それは・・誰より切腹を・・・・」



「今はまだ世に現れていない者からである」



小太郎・・・・・・・・・



「那須の家もその時に滅亡してしまう、又、佐竹と共に戦った小田家も同じ運命を辿る」



「それを回避する為に此度そなたを呼び寄せ話をしているのだ」



「なにゆえその様な未来の、25年も先の話を知り得ているのですか?」



「ここから先の話を伝えるには、ここまでの話を当主に伝え、我ら那須と共に歩む覚悟があるかどうかを氏政殿に決めて頂かねばならぬ、よいか、我ら那須は既に25年後に滅亡を回避する為に動いておる、北条家はどうするかと伝えるのじゃ、そちたち風魔の命もかかっている事ぞ」



「この話主、北条氏政様にお伝え致します、忝けのう御座いました」





── 油屋が来た ──




二月中旬に油屋が土浦の港に寄港したと早馬で正太郎に報告が入り、荷馬車50台を急ぎ土浦に手配した、油屋は3隻の船にて大量の荷と人を運んで来た、荷は小田家からも事前に注文を受けており、小田家でも大量の砂糖を購入した。



小田家の荷を先に荷揚げし、終わった頃に那須の荷車が到着した、しかし50台の荷馬車では足りず結局往復する程の荷であった、他に十兵衛と半兵衛の家族100名と南蛮の奴隷商人からも10名を買い入れており那須に連れて来た。



十兵衛と半兵衛の親類縁者は船に乗り切れない者達50名は歩きで那須に向かっているとの事であった、船では女子供が中心に乗船し、先に来たとの事であった。



当主資胤は新たに得た領内の巡視に出かけており、正太郎の館に招待し、滞在中は正太郎館で過ごす事にした。



「お~これはこれは立派な館で御座います、しばらく厄介になります、よろしくお願い致します」



「油屋殿よく来てくれた、昨年は父上が京で世話になった、又、色々と手配して頂き父に代わり感謝致す、新しく出来た館を自分の家と思い気楽に過ごして欲しい」



「こちらこそ、この油屋を頼って頂き忝けのう御座りませぬ、京でのご活躍、実にご立派で公家衆からも、私に那須とはどの様な家であるか、どの様な地であるか、那須とはあの与一様の那須であるのかなど、それはもう何度も招かれ、色々と聞きたい様で大変な忙しさでありました」



「ところがあの若様のお手紙が届き、それはそれはハチの巣を突いた騒ぎとなり、朝廷を初め公家衆も将軍家の者共へ、御所をお守りしたお家に感謝こそすれ、この様な不始末を招くとは余りにも情けない、この文を見よ、その方らの卑しき心根が、僅か7才の子が親を思い見事諫めているでは無いか、恥とは思わぬのかと、それはそれは町衆の者からも蔑視され幕府の者共は外も歩けぬ様子です、通夜の様になっております」



「父上の首を切ろうなど、あってはならない事を将軍が行い、それを諫めず山科様が駆けつけて頂き助かりましたが、私が考えても判る愚かな事をした将軍をちょっと痛い目に併せねばと思いちょっと少しだけきつく書いた文が思いの外効果があった様で、色々と各国の領主から文を頂きました、皆さん大喜びで御座いました (笑)」



「それに今も御所をお守りしている小田家と那須家の兵に威厳を持って働いて頂くには調度良かったと思っている、逆恨みが出来ない程叩けて良かったです (笑)」



「正太郎様を敵に回したら大変で御座いますな、これにより少しは幕府も帝を支える政に精を出して頂きたいですな」



うんうん。



「油屋殿教えて頂きたいのじゃが、南蛮の者が乗っている船であるが、あれは銭を出せば買えようか? どうであろうか?」



「南蛮の船ですか・・そうですね、買う事はなんとか出来ても相当な対価が必要になるかと、日ノ本で使っている明の銭では買う事は出来ないと思います、買うなれば銀か金で無ければ無理でしょう、買っても船は我らの船と違い帆が沢山あり操船を学ばないと利用出来ないでしょう」



「とても大きい船であると聞いている、500石船でも立派な船だと思うが何倍も大きいと聞いている、そこまで大きくなくて良いので帰ったら南蛮の者に聞いて欲しい、海の領地を得たので港を作っているところなのじゃ、いずれあればと思う、あと油屋ちと耳をこっちに、もっとこっちに、大きい声で言えない事があるのじゃ」



「あのな、こそこそ、あのな、那須の領地の山から金が出たのじゃ、金がでたのじゃ(笑)」



「本当ですか? それはそれは、流石強き強運の那須様ですな、戦で領地を広げ、金まで手に入れるとは、これは参りました、この油屋こうなったら何でも買い込んでみますぞ、船であろうがなんであろうが、お届け致しますぞ」



「あっははは、強運なのは油屋であろう、金を掘っても全部その方が平らげ、吸いとる気であろう、油屋殿の方が強運ではないか、あっはははははー」




大笑いする、悪だくみたっぷりの二人であった。




史実では北条家も秀吉に屈し北条氏政は切腹になります、秀吉から小田原参集が遅いとの理由で那須が滅亡します、この物語ではどうなって行くのやら。

次章「小田原北条家」になります。

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