6 情報収集は攻略の基本です
毎日、お父さん、お母さん、エマを始めとした使用人など、ゼンボルグ公爵家の誰かといっぱいお喋りをして、おねだりして本を読んで貰って、どんどん言葉を覚えていく。
「マリーは言葉を覚えるのがとても早いな」
「そうね。それにもうここまで文字も読めるなんて」
「あたしも毎日驚かされています! お嬢様はとても賢くていらっしゃるんですね!」
なんて、褒められまくっちゃったわ。
そうして半年が過ぎた頃、私は幼児向けの本はおろか年少向けの本まで全て読破し、簡単な読み書きも覚えて、さらに年長向けの本にまで挑戦するだけの語学力を身につけていた。
ちょっと早すぎよね……と思わないでもないけど。
いやあ、子供の吸収力って、本当に半端ないわ。
仕事があるわけでもないから自由に時間を使えるし、子供の体感時間って長いから、頻繁に休憩を挟んでもたっぷり勉強時間が取れて、勉強が捗ること捗ること。
しかも、お父さんとお母さんと、ゲーム感覚で遊びを交えながら覚えたのも大きい。
「
お父さんの執務室にある応接セットのテーブルに広げられた、地図に記された名前を指さす。
「おお、正解だ。すごいねマリー、もうこんな難しい字も読めるようになったんだね」
「あい!」
私が得意満面で胸を張ると、お父さんが嬉しそうに頭を撫でてくれる。
「えへへ♪」
照れる。
でも嬉しい。
「じゃあ次、ここは?」
「じゃ……じぇ……じゅゆ~
「まあ、すごいわマリー。それなら、シャット伯爵領はどこか分かる?」
「えっと……
「まあ、大正解よ」
正解するとお母さんが抱き締めて頬にキスしてくれて、なんだかそれがすごく嬉しくて、ついつい頑張っちゃったのよね。
最初は『ゼンボルグ公爵領ってどんな所?』、『どこにあるの?』って、遠回しに聞いただけだったのよ。
そうしたら、お父さんが地図を出して、ここだよって教えてくれて、それがいつの間にか、親子三人で遊ぶ領地や地名当てクイズみたいなノリになって。
地図って、この時代だと軍事機密よね?
本当にいいのかな、と思わないでもないけど。
一応、お父さんの娘で公爵令嬢だから、知っていて問題はない、と言う判断だとは思うけどね。
でもおかげで、オルレアーナ王国と周辺国、さらに王国貴族とゼンボルグ公爵派の貴族の各領地まで、どんどん地名も覚えていったわ。
それからさらに半年が過ぎて、私が三歳になった頃、エマにお願いして図書室に連れて行って貰えるようになった。
「こりぇ」
私が指さした本を、エマが本棚から取り出してくれる。
「ふふっ、またこの本ですか。もう何度目でしょうね。お嬢様のお気に入りですね」
「うん♪」
子供向けの平易な文章で書かれた、騎士が囚われのお姫様を助ける物語。
やっぱりね、こういう物語は好きなのよ。
前世の頃からの趣味としても、女の子としても。
でも、この手の本ばかり読んでいるわけじゃないわ。
むしろ、こっちはカムフラージュ。
「こりぇも」
「これは……歴史書ですよ? 大人向けですし、お嬢様にはまだ早いと思いますよ?」
「や! よむの!」
だってこっちが本命なんだから。
「仕方ありませんね。お嬢様がそう言うのでしたら……」
エマが困った笑みを浮かべて、歴史書を本棚から取り出してくれた。
そうして選んだ幾つもの本を、エマがワゴンに乗せて私の部屋まで運んでくれて、歴史書や地理書みたいな大人向けの難しい本はローテーブルの上に積み重ねた。
すでにローテーブルの上には、その手の本が二十冊以上積み上がっている。
そこに積み重ねたとき、エマはやれやれって感じの苦笑を浮かべていたけどね。
多分、読めないから積むだけ積んでほったらかし、とでも思っていそう。
今はそう思っておいて貰った方がいいから、誤解は解かないけど。
「では、今日はどの本を読みますか?」
エマが幼児向けから年長向けの本だけをナイトテーブルの上に並べる。
「こりぇ!」
私が指さしたのは、騎士が囚われのお姫様を助ける物語。
目下、私の一番のお気に入りの本だ。
私はベッドによじ登ると、うつ伏せに寝転がって、隣をパシパシと叩く。
「ではお嬢様、失礼します」
最初の頃こそ『とんでもない!』って緊張して遠慮していたエマだけど。
毎度毎度私がしつこくおねだりしたせいか遂に根負けして、最近はすっかり慣れた様子でベッドに上がって私の隣にうつ伏せになると、本を読み始めてくれる。
足をブラブラさせたり、ゴロゴロ転がったりしながら、日々上達していくエマの読み聞かせで物語を聞くのが、最近の私のマイブーム。
心地よい可愛い声にリラックスしすぎて、時々寝落ちしてお昼寝しちゃうこともあるけどね。
そうしてたっぷりとお昼寝をして、夜もちゃんと寝て、明け方、まだ外が暗い時間に早々に目を覚まして起き出す。
これから、朝少し遅くにエマが起こしに来るまでが、お勉強の本番だ。
ランプに火を付けると、手元が明るくなる。
その明かりを頼りに、文字を書く練習をしてる羊皮紙の山の中に紛れ込ませて隠している、ノート代わりの羊皮紙の束を引っ張り出した。
それから羽ペンとインクも。
準備が整ったら、ローテーブルに積み上げられた大人向けの本から読みかけの本を取り出して床に広げ、ペタンと座り続きを読んでいく。
そして読みながら、重要な箇所はノート代わりの羊皮紙に書き留めていった。
エマは、子供が大人ぶって難しい本を選んで、部屋に運んで来たことで読んだ気になって満足している、くらいに思っているだろうけど。
三歳児が年長向けの本を読んでいるのも早すぎると思うのに、こんな本まで読んでいたら、さすがに大騒ぎになりそうだもの。
だから、これらの本だけは、コッソリ、ね。
でもおかげで、オルレアーナ王国とゼンボルグ公爵領の歴史、そして周辺の地理について、おおよその状況を理解出来たわ。
「こりぇは……ひとしゅじなわじゃ、いかないかも……」
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