130 初めての王都
◆
「お父様、あれが王都!?」
「ああ、そうだよマリー」
およそ一カ月の馬車の旅を経て、街道の行く手に防壁に囲まれた巨大な都市、王都オルレアスが見えてきた。
見える防壁から推察するに、領都ゼンバールに勝るとも劣らない規模だ。
優に二十万人以上は住んでいるだろう。
やがて門をくぐって王都へ入ると、ゼンボルグ公爵領とは若干建築様式が違うものの、同じ程度の文化レベルと歴史を感じさせる佇まいの町並が広がっていた。
私達の馬車が行く大通りは石畳で綺麗に舗装されていて、その道沿いには三階建て、四階建ての立派な建物がずらりと並び、都市計画がしっかりしているのを感じさせる。
道行く馬車や人通りも多く、とても賑わっていて活気があった。
「大きな建物が多いですね」
「そうだな。特に目立って大きいのは、大商会が構える様々な店舗や、他国の貿易商の商社、両替商などだ」
「やっぱりそこは、
「
言われてみればそうよね。
よほど特殊な特色でもない限り、それほど差異が出るはずがないわ。
でも、そんな中で、領都ゼンバールと大きく目立って違う箇所が一箇所ある。
王都オルレアスは大きな川が町中を貫く平地に作られた町だから、町のどこからでも宮殿が見えるわけじゃないの。
領都ゼンバールは、謂わば山城と麓の城下町だから、町のどこからでも見えるようになっている。
そういう意味でのランドマークがすぐ目に入らないのは、ちょっと残念ね。
でも、その代わりと言えばいいのかしら。
「町中に大きな壁がありますね。かつての防壁ですか?」
「さすがマリー、よく勉強しているね」
「王都オルレアスは平地にあって大きな川があるから、各地から人が大勢集まってきて、防壁の外にも町が出来てしまって、それを取り囲むように新しい防壁を築いてと、段々と大きくなってきた町なのよ」
その名残の防壁が一部残されていて、町の発展の歴史を感じられるのは楽しいわ。
ただ、ね。
「それでどうかしらマリー、初めての王都は」
「う~ん……物珍しさもありますし、観光もしてみたいですけど、大枠では
そう言った点に違いがあるものの、ハッキリ言って、ゼンボルグ公爵領を貧乏だ田舎だなんだと言えるほど、飛び抜けて差があるような発展をしていたり華やかだったりはしない。
だって、もう七十年近く昔になるけど、領都ゼンバールだってかつては王都だったんだから、それほど差があるわけがないのよ。
ゼンボルグ公爵領を馬鹿にする人達の中に、果たしてどれくらい、実際にゼンボルグ公爵領に来て町並を見たことがある人がいるのかしら。
よく知りもしないのに、勝手なイメージで馬鹿にしないで。
そう言いたくなるわ。
それに。
「上手く言えないですけど、どの建物も、『うちは権威があるんだぞ』、『王都だからこそここまで発展しているんだぞ』みたいな、威圧感? とにかくお金を注ぎ込んで性急に発展させてきたような、尖った印象? みたいなものを感じてしまって……
「まあ、マリーったら」
私の答えにお母様が可笑しそうに笑う。
でも少し嬉しそうだ。
地元びいきと言われたら、その通りかも知れないけどね。
「あ、でも、別に王都が期待外れでがっかりしたと言うわけじゃないですよ?」
「そうなの?」
「はい。今言った通り、色々と観光して見て回りたいです」
「そう。それなら一緒に回りましょうか」
「はい♪」
だって、ちょっとだけ懐かしさも感じたから。
乙女ゲーム『海と大地のオルレアーナ』の舞台となった町だからなのかな。
初めて訪れるのに、昔、長く住んでいた懐かしさ、みたいな。
プレイしたのは前世と今世と合わせてもう十数年以上前のことになるから、全部をハッキリと覚えているわけじゃないけど。
物語のメインの舞台になる国立オルレアス貴族学院。
それから、劇場とか公園とか市場とか、いくつものデートスポット。
せっかく余裕を持って王都入りして、パーティーまでまだ十日以上あるんだから、是非、王都観光と合わせて、聖地巡礼気分で見て回りたいわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます