77 新しい魔道具のアイデア



「ただいまマリー!」

「お帰りなさいパパ!」


 王都から帰ってきたばかりのお父様に駆け寄って抱き付く。


 二ヶ月半近くぶりのお父様。

 無事に帰って来てくれて、心からほっとする。


「お帰りなさいあなた」

「ただいまマリア」


 お母様もお父様に歩み寄ると、二人は抱き合って頬にキスを交わす。


 久しぶりの夫婦の再会に、私はお邪魔?

 まさか。


「パパ」


 お父様の袖を引っ張って背伸びをすると、お父様が嬉しそうにしゃがんでくれる。

 そして、お父様の頬にお帰りなさいのキス。

 お父様も、私の頬にただいまのキスをしてくれる。


 照れる。

 でも嬉しい!


 旅装から普段着に着替えたお父様、そしてお母様と一緒にリビングに場所を移す。


「それであなた、いかがでした?」

「ああ、登録は問題なく出来たよ。陛下も王妃殿下も、大変お喜びになられた。なんと王城の厨房を改装し、空調機、大型冷蔵庫、コンロ各種を設置する依頼を戴けたんだ」

「まあ、それはすごいわ!」


 うん、本当にすごい!

 てっきり魔道具の注文だけで、改装と設置は出入りの業者に依頼すると思っていたのに。


「当然だろう?」


 ちょっと自慢げなお父様にピンとくる。

 これ、上手く勝ち取ってきた仕事だ。


 さすが公爵閣下のお父様、抜け目ない!


「特に空調機と冷蔵庫は小型大型問わず、陛下を始めとした王族の方々の私室、執務室、さらに各部署の事務室などに、至急設置したいとおおせでね」

「仕事の能率が、段違いに上がるでしょうね、あなたみたいに」

「ああ、そういうことだ。だから大至急大量生産する態勢を整える必要がある」


 それはとても大きな取引になる。


「大儲けですね!」

「それもこれも、マリーのおかげだよ」

「本当にマリーはすごいわ」


 お父様とお母様に交互に抱き締められて、頬や額にキスの雨を降らされて、私もご満悦だ。


「バロー卿のライトスタンドも事務室に、マリーのランプを個室にと、さらに発注して戴けてね。そちらの生産も大変になるだろうな」

「バロー先生も、きっと大喜びしますね!」

「ははっ、そうだな」


 それでさらにやる気を出して、次の魔道具開発に熱を入れるに違いない。

 笑顔で開発する姿が目に浮かぶ。


「王妃殿下はいかがでしたか?」


 お母様が自分のお腹を撫でながら、お父様に尋ねる。


 お母様もフルールも、妊娠して半年ほどが過ぎて、大分お腹が大きくなって目立ってきた。

 お医者様のお話では順調だそうだ。

 今から生まれてくる日が楽しみで仕方ない。


「ああ、王妃殿下の経過も順調だそうだ。気の早い貴族達がすでにあれこれ画策して動いているようだが、そこまで関与するわけにはいかないからな。きっと陛下が上手く牽制するだろう」


 そう言えば、私は弟か妹が生まれるのは、すごく楽しみにしているけど、レオナード殿下は果たしてどう思っているのかしらね。

 まだ王太子に立太子されたわけじゃないし。


 お家騒動の種にもなりかねないから、疎ましく思っている?

 それとも、私みたいに楽しみにしているのかしら?


「ああ、そうだマリー、量産ラインは空調機と大型冷蔵庫とコンロ各種もだが、ドライヤーのラインの確保は必須だ。ある意味で、それらより優先度が高い」

「王妃殿下は、気に入ってくれたんですね?」

「ああ、大絶賛だ。もう二度と手放せないと大層お喜びで、その話を耳にしたご婦人方から矢のような催促、そしてそれらご婦人方からせっつかれた紳士方からの問い合わせが殺到しているよ」

「予想はしていましたけど……予想以上みたいですね?」

「当然よ。だってわたしも、もうドライヤーなしの生活なんて考えられないわ」


 お母様が、アップにした真紅の自分の髪を、愛おしそうに撫でる。


 ドライヤーを使えば髪を乾かす時間が大幅に短縮出来るのはもちろん、自然乾燥に任せて髪が傷むこともないから、よほど熱風を直接長時間当てて髪を傷めるような真似をしない限り、髪に艶が出て美しくなるからね。


 さらに言えば、乾燥が手間だから髪を洗う頻度がとても少なかったけど、今ではお母様も私ほどではないけど、以前は一月に一度洗うかどうかだったのが、一週間に一度は洗うようになった。

 おかげで今日もお母様の髪はツヤツヤで美しく、いい香りがしている。


 ちなみに前世の中世で、とあるフランスの王様は、一生のうち一度しか手と顔を洗ったことがない、と言う記録がある人までいるらしい。

 その辺りを深く調べていくと、本当にとんでもなく不衛生なのよ。

 信じられないわよね。


「じゃあ次は、予定になかったけど、きゅうとうき給湯器でも作ろうかな。お風呂を簡単にわかせるようになれば、きっともっとみんな入って、せいけつになりますもんね」


 お風呂は水を汲んできて、薪で沸かしてと、労力と燃料費がすごいから、貴族の贅沢な嗜好品で、貴族でもほとんど入る人がいないのよね。

 だから、普通はお湯を沸かしてタオルで拭く程度なのよ。


 私も常々、毎日お風呂に入るのは申し訳ないなって、最近はその回数を減らしていたんだけど、やっぱり元日本人としては毎日入りたいじゃない?

 でも、帆船の航海とは直接関係ないから、頭の片隅にはあっても後回しにして開発まではしていなかったのよ。


 だけどよく考えれば、船に積んで船員達が清潔にしていれば、伝染病が蔓延して幽霊船になった、なんて事態を回避出来るかも知れない。


「マリー……ははは、やっぱり、新しい魔道具のアイデアを持っていたんだね」


 何故かお父様に可笑しそうに笑われてしまった。

 よく分からないけど、思い付いたからには即実行。


「お父様、設計図を書いてきます」

「ああ、行っておいで」

「完成を楽しみにしているわね、マリー」

「はい、楽しみにしていて下さい! すごいの作ってきますね♪」


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