185 周知もお仕事です

 2023/06/13


 06/08に 182 貧民街での炊き出し を投稿した後、

 06/09に 184 町歩きもお仕事です を投稿してしまい、

 06/12に 187 職業訓練学校とは 1 を投稿するまで、183を飛ばしていることに気付きませんでした。


 なので、06/13は 183 貧民達へのお仕事 を位置を調整して投稿しますのでそちらをお読み下さい。

 大変申し訳ありませんでした。


 06/14は 188 職業訓練学校とは 2 を投稿します。


――――――――――






 苺に満足して、また市場を眺めて歩き始める。


 市場の露店は、商品を並べる台やテントのような屋根が付いている店や、食べ物や飲み物の屋台ばかりじゃなく、市場の外れの方では道端に敷物を敷いてそこに商品を並べている店も多い。


 どこから仕入れてきているのか、手入れされてまだ使えそうだけど、切れ味が悪そうなナイフや包丁など中古の刃物を主に並べている店。

 本当に効果があるのか分からない、乾燥させた葉や根、種などの、薬草を銘打っている植物やハーブを雑多に並べている店。

 中古の中古くらい古そうな、色褪せ擦り切れた服を広げている店。

 何に使うのかよく分からない、古臭い道具や小箱を置いている店。


 などなど、さすがに高価な品はないし怪しげな物もあるけど、人通りも多くて足を止めて覗いていく客も多い。

 値切り交渉の声があちこちから聞こえてきて、市場の中央の方とはまた違った雑多な賑わいがある。


「こんにちは」


 そんな露店の一つで足を止めて、店主の女の子に声をかける。


「姫っ――じゃなくて、ロゼちゃん、いらっしゃいっす」


 茶髪でくせっ毛ショートのソバカスがある十四歳の女の子、ロラだ。


「ほら、これ」


 私は今日付けている髪留めをロラに見せる。


「あっ、それってこないだ買ってくれたうちの……ロゼちゃん付けてくれてありがとうっす!」

「だって気に入ったから買ったんだもの」

「にひひ♪ ロゼちゃんが買ってくれたおかげで、あの後お客さんが集まって、色々買ってくれたんすよ。ロゼちゃん様々っす!」


 にへらと照れ笑いするロラは愛嬌があって可愛い。

 それに。


「ちゃんと髪をかして、服も綺麗なものにしたのね」

「そこはロゼちゃんのアドバイスっすからね。おかげで売れ行きが良くなったっすよ」


 ロラはまるで寝起きのようにくせっ毛をボサボサにしたまま、服も汚れたりつぎはぎがされている物を着ていた。

 貧民ではないけど、平民でも貧しい家の子みたいで、こう言ってはなんだけど、ちょっとみすぼらしかったわ。

 商品がロラの手作りの木製品、髪留めや櫛、ブローチなどの装飾品なのに、売っている本人が着の身着のままの無頓着で、見た目で損をしていると思ったのよ。


 だから、ちゃんと櫛で髪を梳かして、服も手持ちでいいから綺麗で可愛いのにして、自分で作ったアクセで着飾った方がいいって、ちょっとだけアドバイスしたの。

 その甲斐があったみたいね。


「それと、ロゼちゃんの言った通り、角を削って丸みを帯びさせたら、握りやすく使いやすくていいって、お客さんに褒められたっす。うちも自分の髪を梳かしてみてそう思ったっすから、本当にロゼちゃんのおかげっすよ」


 以前は、木材から切り出しただけと言った感じの、よく言えば素朴で朴訥な、ちょっと残念な見た目の物が多かった。

 私が買った髪留めは、そんな中でもなんとかしようと工夫を凝らした物だったの。


 ロラが出来栄えなんて気にしなくて、ただ作って並べているだけなら、私も何も言わなかったと思うけど。

 手先が器用で、なんとかもっと良い物を作ろうと悩んでいて、でも物作りなんて何も学んだことがなくて自己流で行き詰っているみたいだったから、ついお節介を焼いて、ちょっとだけアドバイスをしたわけね。


 おかげで、角を削って丸みを持たせることで、どの品も全体的に柔らかな印象を与えるようになった。


 それに自分で考えたのか、花や小鳥らしきワンポイントの飾りを入れたり、太さも間隔も不揃いだった櫛の歯を揃えようとする努力が見られたり、以前見た時より全体的に品質が向上していた。


「ロラはどこかの工房や誰かに弟子入りして、物作りの勉強はしないの?」

「あ~……出来ればしたいっすけどねぇ。でも、女の子じゃ門前払いっすよ」


 そう言えばそうだったわね……。

 女の子の社会進出にはまだまだ厳しいのよね。


「仮にうちが男の子でも、貧乏だから伝手もコネもないっすし、紹介して貰っても謝礼も出せないっす。しかももう十四だから、今更弟子や丁稚にはして貰えないっすよ」


 諦めきれないのに諦めたような、そんな切ない顔で笑うロラ。

 物作りが好きそうなのは話していて分かるけど、それを環境が許さなかったのね。


 せっかくの才能……がどこまであるのかは私には分からないけど、才能とやる気がこうして埋もれていくのはもったいないし、なんだか悲しいわ。


「ねえロラ。もし、こうした物作りを教えてくれる学校があったら行きたい?」

「えっ!? そんな学校があるんすか!?」

「もしあったらよ」

「ああ……そうっすね、もしあったら行きたいっすね。もっと可愛くて、お客さんに喜んで貰えるような、そんなアクセを作りたいっすね」


 チラリと私を見た後、どこか遠くを見つめながら夢を語るロラは、きっとチャンスがあれば一歩を踏み出せる子だと思う。


「じゃあ、作っちゃおうかしら、そんな学校。他にも、鍛冶や裁縫、料理や製薬、色んな分野で物作りを教えてくれる学校を」

「……へ?」


 ロラが夢を見る目から現実に戻って、あっけにとられたように私を見た。


「お客さんや、他の露店の人にも聞いてみてよ、もしそんな学校があったら通ってみたいかって」

「ロゼちゃん!? じょ、冗談っすよね!?」

「ふふふ。それじゃあ、また来るわね」


 笑みを残して、ロラの露店を離れる。


「なんすかその意味深な笑いは!? ちょっ、ロゼちゃん!? 姫様ぁっ!?」


 ロラの悲鳴じみた叫びを背中に聞きながら、振り返らずに歩いて行く。


「お嬢様……」


 何を楽しんでいるんですかって、アラベルの目が呆れているわね。


「ちょっとした宣伝よ、宣伝。いずれ大々的に発表することになるけど、先行して噂を流して、反応を見たいのよ。協力してくれるあちこちの商会や組合も、徐々に情報を流していく手はずだから問題ないわ」

「そうかも知れませんが、だとしたら少々迂遠では?」

「私が流す情報はおまけだもの。それに私の顔と名前が売れていればいるほど、賛同と協力、そして生徒を集めやすくなるわ」

「そのための町歩きとは承知していますが、大声でお嬢様がここにいることを連呼されるのは、警護するに当たって、少々どうかと」

「ああ、そういう……次から気を付けるわ」


 アラベルとしては、貧民街の炊き出しに参加するのもこの町歩きも、本当は反対なのよね。

 それはエマもなんだけど。

 賢雅会の特許利権貴族達に狙われたことが、相当ショックだったみたいで。


 最近、ちょっと過保護なくらい心配性になっちゃっているのよ。

 気持ちは嬉しいけどね。


「心配しなくても大丈夫よ。アラベル達が護衛に付いていてくれているし、王都から戻って来てから今まで一度も危険な目に遭ったことはないでしょう?」

「それはそうですが……」

「それに、お父様とお母様の娘として、自分が住んでいる領都の様子を知っておくことも大事だわ」


 これまで、各地の視察のために馬車で通り抜けることはあっても、ほとんど町を見て回ったことがなかったから。

 王都では聖地巡礼と料理のリサーチを兼ねてあちこち回ったのに、地元の領都の方が不案内じゃ、さすがにね?


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