71 魔道具は家電です

「四つも!?」


 誰かが驚きの声を上げる。


 けど、驚くには値しない。

 だって、私にとって魔道具は家電みたいな物だから。

 前世の家電を持ち込めば済むんだから、アイデア出しなんてチョロいものよ。


 もっとも、この世界の人達にとってはどれもこれも前代未聞だろうけど。


「さてここに、商会が手に入れてくれた二つの現物と、特許庁から貰ってきた資料があります。つまり、特許利権貴族がすでに特許取得済みの家で……コホン、魔道具です」


 お手伝いと護衛を兼ねているエマとアラベルが、よいしょとその二つをテーブルの上に載せてくれた。


 一つは、保冷箱。

 謂わば、クーラーボックスね。


 大きさは、ビールの大瓶のケースくらい。

 上蓋で開閉するようになっていて、蓋の方に魔法陣と魔石があって、冷気を作って中を冷やすの。

 上の段に氷を入れて冷やす昔の冷蔵庫みたいに。


 蓋を開け閉めするから、魔石が転がり落ちないように固定されるようになっていて、魔石の交換はちょっと面倒だし、その重さの分、蓋が重たくなっているのが欠点ね。


 しかも、クーラーボックスとしてならまだしも、冷蔵庫として考えればサイズが小さいのも減点要素。

 サイズが小さいのは、長期間冷気を長持ちさせるために、出力が弱く設定されているせいでしょうね。


 それなのに、断熱性はろくに考えられていない上に、重たくて持ち運びが不便なの。

 何故そんなに重たくなっているかと言えば、貴族向けの商品だから、鉄製で重厚感を出してあったり、金銀宝石で飾り立てられていたり、ひたすら豪華な見た目にしてあるのよ。

 華美なのとお洒落なのは別問題と言う、典型的な一品ね。


 そんな風に、設計思想に矛盾と言うか、統一性がない、日本人なら絶対に買わないだろう仕上がりになっている商品よ。


 もう一つは、送風機。

 謂わば、羽がないタイプの扇風機ね。


 大きさは、保冷箱と同じか、やや小さめ。

 蓋のない木箱を横に倒した形で、その箱の底面に魔法陣と魔石があって、ここで風を生み出して吹き出すようになっているの。


 こちらも全てが金だったり銀だったり、重厚感を出したり装飾過多だったりして重たいのだけど、ワゴンのような動かせる台の上に置いて、快適な風を感じられる位置や向きに調整しながら使うことが推奨されているみたい。


 さらに、複数台用意できない時は、リビングに家族が集まったり、応接室に客人を迎えたりしたときは、この台を左右に回転させて全員に風が行き渡るように、使用人が付きっきりになって数人交代で動かすらしいわ。

 首振り機能がない扇風機なんて、笑っちゃうわよね。


「ううむ、さすが……」

「これはとても便利だろう」

「悔しいが、シンプルだけに、開発も登録も早い者勝ちだ」


 でも、どうやらみんな感心しきりみたい。

 この程度で感心したり驚いたりしていたら、私の話を聞いたら腰を抜かすわよ?


 もっとも、どの家電も私の発明じゃないから、私が偉そうにする道理はないけど。


「それでお嬢様、これの改良でもしようと言うのか?」

「その通りです」


 みんな顔を見合わせる。


「なるほど、保冷箱も送風機も『マリエットローズ式出力変更機構』を使えば、冷気の強さや風の強さを変えられるってわけですね」


 一人の発言に、みんななるほどって頷く。


「まさか。そんな誰でも思い付くような、単純な改良だけで終わらせるつもりはないですよ」

「「「えっ?」」」


 みんな驚いて、私が何を言い出すのかって顔をしているわね。

 それ以上、どこを改良するのか見当も付かないみたい。


 だからまず、保冷箱の資料を手に取る。


「保冷箱はこんなちゃちな物じゃなく、冷蔵庫を作ります」

「冷蔵庫?」

「冷凍庫も付けて、冷凍保存も出来るようにします」

「冷凍庫!?」


 次は送風機の資料を手に取る。


「送風機はただ風を送るだけじゃなく、送風、冷風、温風を送れる空調機にします」

「空調機?」

「当然、それぞれ、風の強さ、温度も調整出来るようにします」

「なんて贅沢な」

「さらに首振り機能を付けて、使用人に重労働をさせなくても部屋中に行き渡るようにします」

「首振り機能!?」


 もう、みんな目を剥いて驚いているわね。


「複数の属性の魔石を使えば簡単でしょう? コストも、魔石の値段が下がっているからそれほど大きくならないはずよ。もっと言えば、これだけの機能を付けていれば、貴族なら、どれだけお金を出しても買うと思いませんか?」


 みんな顔を見合わせて、すぐに頷いた。

 絶対に買う、って。


 私も、こんな時代にこんな家電があったら、絶対に買う。

 お父様におねだりして、我が侭を言っても絶対に買って貰う。


 それを、珍しい物、新しい物が好きで、いかに入手して見栄を張るかにプライドを懸けている貴族が買わないわけがない。


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