33 開校式後の再会
開校式が終わって、生徒達と世話役の大人達は解散。
お父様とシャット伯爵と教師陣が集まって何やらお話を始めた。
開校式に先だって挨拶は済ませておいたから、私まで話に加わる必要はないし、話が終わるまで少し離れた場所で待つことにする。
すると、ジャン達が私に駆け寄ってきた。
あの時の五人と、その後ろに見知らぬ年上の子供四人が一緒だ。
「アラベル、平気よ」
私を守るように前に出て子供達を警戒するアラベルに、下がって貰う。
「ジャン、アデラ、ユーグ、ジゼル、ロラン、みんな久しぶりね。元気にしてた?」
私から声をかけると、アラベルに怯えて足を止めてしまったジャン達が、ぱあっと顔を輝かせる。
でも私の後ろに立つアラベルを怖がって警戒しているのか、走らず怖ず怖ずと、話が出来る距離まで近づいてきた。
「あたし達のこと、覚えててくれたの?」
「ええ、もちろんよ」
胸を張って微笑むと、アデラが照れながら嬉しそうに笑う。
小さなジゼルとロランは跳び上がって喜んでくれて、なんだか私も嬉しい。
「よ、よう。お前がこの学校のこと考えてくれたって本当なのか?」
「そうよ。あと、お前じゃなくて、マリエットローズ、ね」
「お、おう」
ジャンは相変わらずぶっきらぼうね。
しかも私と目が合うと慌てて目を逸らしたりして、なんだかソワソワと落ち着かないったら。
ああ、だって男の子だものね。
立派な船乗りになってお仕事を貰えるようになるかも知れないんだから、テンションが上がってじっとしていられなくても無理ないわね。
そんなジャン達の後ろに、ジャン達以上に怖ず怖ずしながら近づいてきた年上の子供達四人が並ぶと、ペコッと頭を下げてきた。
「え、えっと、マリエットローズ様、ジャン達が世話になったみてぇだな、です」
「俺達まで船員で雇ってもらえるなんて助かったぜ、ございま……です」
なるほど、この子達がジャン達の面倒を見ていたリーダー達なのね。
うん、言葉遣いから勉強が必要なのは仕方ないか。
でも、いかにも下町の子供達って感じだけど、みんな素直でいい子そう。
ただ、十歳や十五、六歳くらいには見えるから、まだまだ小さいジャン達とは違って、ここで学ぶ意義をしっかり分かって貰わないと。
「お世話なんて大したことはしていないわ。でも、かんちがいしないでね? まだ正式にやとったわけじゃないのよ。わたしがあげたのはチャンスだけ。チャンスをものにできるかどうかは、これからのあなた達のがんばり次第。そしてあなた達ががんばれば、他の同じような子供達もチャンスがもらえるようになる。それを忘れないでね?」
「そっか、そうだな」
「気合い、入れねぇとだ」
「あたしがんばる!」
「ぼくも!」
リーダー達が顔を見合わせて、すぐに表情を引き締めて頷き合うと、それを真似するようにアデラやユーグも元気よく手を挙げて、なんだか微笑ましい。
「みんながんばってね」
「うん!」
「がんばる!」
ジゼルもロランも元気よく答えてくれて、みんなとっても可愛いわ。
本当に、チャンスをものにするために頑張って欲しい。
「オ、オレも! マリエットローズがビックリするくらい立派な船員になってやるからな! その時は、ちゃんとオレを雇えよ!」
一際大きな声で身を乗り出しながら意気込むジャンに、にっこり微笑む。
「うん、期待しているわ」
途端に目を見開いて固まるジャン。
なんだか前もこんな感じだったわね。
年上の子供達も、一緒になってぼうっとしているみたい。
大丈夫なのかしら?
「マリー」
お父様が私を呼ぶ。
どうやら大事なお話は終わったみたいね。
「わたし、行かなくちゃ。それじゃあ、みんなまたね」
にっこり笑って手を振ってお父様の所へ向かう私に、アラベルが後ろを付いて歩きながら、何か言いたそうな顔をした。
「何かしら?」
「差し出がましいと思いますが、お嬢様は軽々しく愛想を振りまかない方がよろしいかと……」
「どうして? むすっとしているより、笑顔の方がいいでしょう?」
「いえ、その……分かりました。わたしがこの身に代えても、お嬢様をお守りします」
「え? ええ、よろしくね?」
アラベルは、何が言いたかったんだろう?
こうしてお父様と私は全部の船員育成学校を回って、開校を見届けた。
数年後、彼らが立派な船乗りになっていることに期待だ。
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