11 美味しく楽しい健康的な食卓のために 2
「「えっ!?」」
二人とも驚いて私を振り返る。
「マリー、何故そんなことを?」
「そうよ。ちゃんと美味しいお肉を食べないと、貴族として本物の味が分からなくなってしまうわ」
戸惑いながらたしなめてくる二人に、私はこてんと首を傾げた。
「おとうさまとおかあさまがきのうたべたおにくもおなじですよ?」
二人の顔が凍り付く。
自分の前に並べられたお肉を見て、セバスチャンを振り返った。
「お嬢様の
「……マリー、何故そんなことを?」
同じ台詞でもう一度聞いてくるお父様に、今度は反対側にこてんと首を傾げた。
「すぱいすのあじしかしないなら、しょくざいのしつとあじなんて、なんでもいいのでは?」
言葉に詰まるお父様と、なんと言っていいか分からないでいるお母様に、私は心底疑問に思っているって顔を作った。
「これがきぞくのびしょくですか?」
二人とも目を伏せて黙り込んでしまう。
生意気……だったかも知れない。
たかが四歳の娘が、親にこんな真似をするなんて。
でも、二人には気付いて欲しかった。
とんでもなく無駄な散財をしているってことを。
田舎者と、貧しいと馬鹿にされて、悔しいから流行りの美食に乗って、結果散財して貧しさから抜け出せなくなっているってことを。
でも……。
じわっと涙が滲んできて、お父様の足にしがみつく。
お父様は、そんな私を抱き上げて抱き締めてくれた。
「おとうさま、ごめんなさい……こんなことして……」
涙声になってしまって、ポロポロこぼれ落ちる涙が止められない。
私は悪い子だ。
もっといい方法があったかも知れないのに。
でも、お父様とお母様が意固地になってしがみついている行き過ぎた貴族のプライドを、どうしても一度へし折る必要があるって思ったから。
そうでないと、きっといつまでも私の言葉に耳を傾けてくれないと思ったから。
早くしないと、手遅れになってしまうと思ったから。
「こんなからくて、にがくて、しょっぱいのばっかりたべてたら、おとうさまもおかあさまも、いつかびょうきになっちゃう……おとうさまとおかあさまがしんじゃったら、わたし……わたしぃ…………うわああぁぁぁ~~~~~ん!!」
なんかもう自分で言っていてこみ上げてくる感情が制御できなくて、大泣きしてしまう。
「そうか……私達のことを、こんなにも心配してくれていたんだな……それなのに、ちゃんと話を聞かなくて済まなかった」
大泣きしながら、お父様にギュッと強く抱き付いて、首をブンブン横に振る。
「ごめんなさいマリー……娘にこんな心配をかけるだなんて……親として失格ね」
私はもっと強く首をブンブン横に振る。
背中から私を抱き締めてくれたお母様を振り返って、お母様に抱き付く。
「ままぁ、ぱぱぁ、だいすきぃ!」
私はいつまでも泣きながら、しがみついて、大好きを繰り返した。
……本当に、悪い子でごめんなさい。
泣き疲れて、そのまま寝ちゃって、目が覚めたら翌朝だった。
いい年して子供全開で大泣きしちゃって、ちょっと気恥ずかしい思いをしながら食堂へ行く。
「おはようマリー」
「おはよう。今日もマリーは可愛いな」
食堂へ入るとお母様が真っ先に気付いて微笑んでくれて、お父様もいつも通り笑いかけてくれた。
昨日あんなことをしたのに、二人は何も変わらない。
それが嬉しくて、満面の笑みで二人のところに走って行って抱き付く。
「ぱぱ、まま、おはようございます!」
二人が抱き締めてくれる腕も、いつも通りですごく安心した。
すっきりした気分で席に着いて、やがて運ばれてきた朝食に目を丸くする。
お父様とお母様の分も私と同じ、適量の味付がされた、スパイスにまみれにまみれた料理じゃなかった。
思わず二人を振り返った私に、お父様がちょっと恥ずかしげに微笑みながら教えてくれる。
「言われてみれば、スパイスブームが始まってから体調が優れない貴族が増えたように思う。特に高齢の貴族は持病を悪化させた者達が多かったはずだ」
「病気になってマリーを心配させるわけにはいかないものね」
分かってくれたんだ……!
「ぱぱ、まま、だいすきっ!」
私は、本当に家族に恵まれたと思う。
後日、お父様は派閥の貴族達にも通達を出して、無理にスパイスブームに乗らないように話をしてくれた。
派閥以外の貴族達が客人としてやってくるときは、見栄やプライドもあるし、仕方ないと思う。
私だってそのくらいの融通は利く。
でも、普段からそんな真似をする必要なんてない。
随分後になって聞いた話だけど、あまり裕福じゃない騎士爵家や男爵家は、その通達はすごく助かったそうだ。
ともかく、これだけの浮いたお金を投資に回せば、領地は必ず活性化する。
後は、何にどれだけ投資するかよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます