104 造船無双 マストと帆の種類と数
「そんじゃ、いよいよ乗船といこうか」
もっとすごい物を見せてやるから付いてこいとばかりに意気揚々と先導する棟梁に付いて、みんなで
「わぁ~!」
船の上は、全長四十メートル、全幅五メートルと言う数字から受けるイメージと比べて、遥かに広く大きかった。
すでにマストこそ立ててあるけど、帆はないし、帆を操るためのロープもウィンチもないし、その他の
だから、余計に広々と感じるんだろう。
「陸の上の船に乗るのは初めてだが、こうして眺めると、かなりの高さがあるな」
お父様も船縁から下を見て感心している。
高くて当然。
三階から四階の高さから眺めているも同然だもの。
「どうだ見事なもんだろう?」
改めて、棟梁がドヤ顔だ。
「はい、ワクワクします!」
「がっはっはっは! そうかそうか」
棟梁、ご機嫌だ。
「すごいなぁ~」
ジョルジュ君も、何度か視察に来ていたみたいだけどこうして船上へ上がるのは初めてだったのか、男の子らしくワクワクした顔で周りを見回している。
帆船に一緒に乗った時より、もっと帆船に興味が出たみたいだからね。
ちなみに、私が楽しそうだからか、手を繋いでいるエマは私に釣られてニコニコで、アラベルは私の後ろで、またしても中腰でやや構え気味になりながらハラハラしている。
大丈夫よ、建造中の船の上で走り回ったりなんてしないから。
ちゃんとエマと手を繋いだまま、ゆっくり上甲板を見て回る。
上甲板は船の一番上の甲板で、建物に例えるなら地上一階の床に当たる。
船内は地下階と言うわけね。
だから上甲板は船の構造上、しっかりとした作りになっていないと駄目だ。
当然、私達が乗り込んでもビクともしない。
そもそも、重量がある三本ものマストをしっかり支えているんだから、柔な作りだったら、上甲板をメキメキ割りながら倒れちゃうものね。
「マストがすごく高くて、大きくて、三本も。それに木じゃなくて、鉄?」
「ビックリだろう、坊ちゃん」
マストをペタペタ触るジョルジュ君に、棟梁が楽しげに解説する。
「厚さ数センチの鉄板で作った筒状のマストだ。びっちり中身が詰まった木材で作るよりかなり軽くて、しかも丈夫ときたもんだ。こんなモン、一体誰が考えたんだか。って思ってたが、まさかまだちっこいお嬢ちゃんだったとはな」
改めて、みんなが感心した顔で私を注目してきて、ちょっと気恥ずかしいわね。
「しかも、単に鉄のマストが三本あるってだけじゃねぇ」
棟梁はマストをゴンゴンと拳で叩いて見上げる。
「この三本のマスト一本一本に横帆を三枚ずつ。そしてそれぞれのマストの間に、縦帆を二枚ずつ。さらに
「そんなにたくさん!?」
「ああ。そんだけの帆がありゃ、
三本のマストは、前から順にフォアマスト、メインマスト、ミズンマストと呼ぶ。
棟梁が解説した他に、ミズンマストの後ろにもう一枚、大きな縦帆を張るわ。
だから横帆が三・三・三で、九枚。
縦帆が二・二・二・一で、七枚。
合わせて十六枚ね。
でも本番の船は、横帆が五・六・五で、十六枚。
さらに横帆の左右外側に補助の
縦帆が三・三・三・一で、十枚。
合わせて三十六枚になる予定よ。
現在主力のコグ船が、マスト一本で横帆が一枚なのと比べれば、確かに一体何枚張るんだって言いたくなる気持ちも分かるわ。
でも、船が大型になって重量が増すと、どうしても船足が遅くなってしまうから、帆の数がたくさん必要になるのよ。
ちなみに、船首から前に真っ直ぐ、水平より上向きに伸びているバウスプリットは、船が大型になるほど多く帆を張れるように長くなるみたい。
加えて、船が高速になるほど大きな波を被って壊されないように、より上向きに設置されていたそうよ。
だからこの船のバウスプリットは、他のどの船よりも長く上向きになっている。
しかも大きな波が正面からバウスプリットに当たった時、波を左右に分ける効果もあったらしいわ。
波がまともに上甲板に乗り上げて、もし大量に船倉へと流れ込んだら、積み荷が浸水して駄目になってしまう。それを防ぐ役目もあったのね。
「それだけ帆を張れば、どれだけ速くなるんだろう? 早く見てみたいな」
「坊ちゃんもそう思うか? オレも早くこの船を走らせたいぜ」
棟梁はまたしてもマストをゴンゴンと叩くと『がははは!』と上機嫌に笑う。
それは私も同じ気持ちよ。
想像すればするほど、期待が高まっていくわ。
早く完成しないかしら。
「あれ? そう言えば横帆と縦帆、両方同時に使うなんて聞いたことないや」
おっとジョルジュ君、いいところに気付いたわね。
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