214 お茶会の閉会

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、どれだけ名残惜しくても終わりの時間はやってくる。


「皆様、改めて本日は、私の初めてのお茶会へ参加して下さりありがとうございました。クリスティーヌ様、ミシュリーヌ様、ソフィア様と仲良くなれて、とても楽しい時間を過ごせて嬉しかったです」


 自然と笑顔が零れてしまった私に、クリスティーヌ様が満足げにドヤ顔でうんうんと頷いて、ソフィア様が照れ臭そうにはにかんで、ミシュリーヌ様が満面の笑みになる。


 みんなも楽しんでくれたみたいで良かった。


 そんな私達を見て、お母様がよくやりましたって顔で頷いてくれる。


 ブランローク伯爵夫人とシャルラー伯爵夫人も、賞賛の眼差しを向けてくれていた。


 リチィレーン侯爵夫人だけ、とても、それはもうとても複雑そうな表情を隠しているようで隠しきれていなくて、表情や眼差しに漏れてしまっているけど。

 でも、それぞれの家に対して十分なアピールが出来たから、そっちの意味でも大成功だったと思う。


「本日のお礼を兼ねて、心ばかりの品ですが、どうぞお持ち帰り下さい」


 フルールとエマが、お土産の品をお母様方のお付き侍女へと手渡す。

 中身は、今日出したクッキー各種、そしてクッキーと生クリームとショートケーキのレシピだ。


 絞り口、絞り袋、その他料理器具については、あると便利だけどないなら何かで代用も出来るから、別途お買い求め下さい、と言うことで。


 本当は保冷箱かクーラーボックスにでも入れて、今日参加されていないご家族のためにショートケーキもホールごとお土産に渡したかったけど、さすがに日持ちが、ね。

 しかも馬車に揺られながら持って帰るから、絶対悲惨なことになってしまうわ。


「終わっちゃうの寂しい~」

「うちも……」

「そうですわね」


 ミシュリーヌ様がテーブルに突っ伏して、ソフィア様が俯いて、クリスティーヌ様が寂しげに微笑む。


 みんなそう思ってくれて、私も嬉しくて、ちょっぴり涙腺が緩んじゃいそう。


「またお茶会しましょう? 手作りお菓子も持ち寄って。約束ですよ?」

「うん!」

「はい……♪」

「ええ、約束ですわ」


 うん、約束。


 お友達との次の約束がこんなにも楽しみになるなんて、一体いつぶりかしら。


 あれだけ緊張して気合いを入れて臨んだお茶会だったのにね。

 いつの間にか緊張なんて忘れて、楽しかったことしか覚えていないわ。


 そうして締めの挨拶を済ませて、お見送りのために玄関ホールへ。


 お見送りする順は、爵位と序列が高い順になる。

 だから最初はクリスティーヌ様とリチィレーン侯爵夫人だ。


 お別れのご挨拶を……と思ったら、クリスティーヌ様が一度俯いて、顔を上げたと思ったらやけに真剣な顔をしていた。


「あ、あのマリエットローズ様、大変不躾で申し訳ないのですがお願いがありまして」

「お願いですか?」

「はい、公爵様にお目通りを願えないでしょうか?」

「お父様に?」

「クリス一体何を?」


 驚いているリチィレーン侯爵夫人の様子から、リチィレーン侯爵夫人、そして多分リチィレーン侯爵も想定していなかった申し出よね。


「お父様にどのようなご用件でしょうか?」

「その……見て戴きたい物がありますの」


 見て戴きたい物?


 クリスティーヌ様がチラッと自身の後ろを振り向く。

 そこには、書類ケースを抱えているお付き侍女が。


 その見て戴きたい物と言うのは、あの書類ケースの中身かしら?

 そう言えば来た時も……。


 お母様を振り返ると、私の好きにしなさいと頷いてくれる。


「分かりました。エマ」


 お父様の執務室まで行ってエマに確認して貰う。

 待つことしばし。


「お待たせしました。旦那様がお会いになるそうです」


 クリスティーヌ様がほっと表情を緩めて、嬉しそうに微笑む。

 それと同時に、今度はソワソワしだした。


 よっぽどお父様に見て欲しいのね。

 リチィレーン侯爵夫人はちょっと複雑そうだけど。


「良かったですね、クリスティーヌ様」

「はい、ありがとうございますわ」


 それにしても、クリスティーヌ様はお父様に何を見せたいのかしら?


 おっといけない、考えるのは後回し。

 今はお見送りが優先よね。


 続けてお見送りするのは、ミシュリーヌ様とブランローク伯爵夫人だ。

 と言っても、お見送りする前に、二人にはちょっとしたサプライズがある。


「ミシュリーヌ様、ブランローク伯爵夫人、お帰りになる前に、もしお時間がよろしければ、ジョベール先生とお会いして行かれませんか?」

「えっ、じぃじと!?」

「まあ、よろしいのですか?」

「ええ、もちろんです」

「やった! じぃじと会える♪」

「ありがとうございます、マリエットローズ様」


 ジョベール先生にはすでに話を通してあるから、メイドの一人に二人をジョベール先生が待つ応接室へと案内して貰う。


 ミシュリーヌ様は今にもスキップをしそうなくらい舞い上がっているわね。

 なんなら訓練場を使う許可も出してあるから、是非再会を楽しんで欲しい。


 そして最後にお見送りするのは、ソフィア様とシャルラー伯爵夫人だ。


「今日は、とても楽しくて……こ、こんなに楽しかったお茶会は、初めてです」

「はい、私も、初めてのお茶会に参加してくれたのがソフィア様で良かったです」


 照れ臭そうにはにかむ顔がとても可愛くて、なんだかこっちまで照れてしまうわ。


「あ、あの……また」

「ええ、またお会いしましょう」


 コミュ障で、俯いて目を逸らして、話しかけないでオーラがすごかったソフィア様が、言葉短くだけど『また』会いたいと言ってくれた。

 そこに込められた思いを考えれば、それはきっと最高の友情の証よね。


 私達は手を振って別れを惜しみながら、見送り、そして帰って行く。


 うん、またお茶会を開いて、是非ご招待しないと。

 もちろん、新作のスイーツも用意してね。


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