180 久しぶりの我が家
◆
「ただいま!」
お父様、お母様に続いて、馬車から降りる。
そして、玄関前にずらりと並んで出迎えてくれた使用人達に元気に挨拶した。
「「「「「お帰りなさいませ、旦那様、奥様、お嬢様」」」」」
使用人達も綺麗に揃った動きで頭を下げて、私達の無事の帰宅を喜んでくれる。
懐かしい顔触れに、徐々に帰宅した実感が湧いてきた。
改めて、大きな屋敷を見上げてみる。
およそ五カ月ぶりの領都の我が家だ。
こんなにも家を離れていたのはマリエットローズとして生まれて初めてだから、子供の体感時間も
たった五カ月で何がどう変わるわけがないけど、記憶の中の屋敷の姿そのままなのが、なんだか嬉しい。
そんな感慨に耽っていると、使用人達の中から、屋敷の留守を預かっていた執事のセバスチャンが前へ進み出てきた。
「無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます」
「ええ、ただいまセバスチャン」
「私達が留守の間、屋敷をよく守ってくれた」
「はい。皆様もお変わりないようで。特にお嬢様は王都で様々な体験をされたとか」
うっ……。
様々な体験と一括りにされたけど、賢雅会とのあれこれや、ヴァンブルグ帝国の皇族に別室へ呼び出されたり、王宮に招待されてレオナード殿下と話したり、果ては贈物を貰ったりと、普通なら経験しないような経験をしたんだものね。
賢雅会とのあれこれは一応決着が付いたけど。
レオナード殿下とのこれ以上の交流は王家が許さないだろうし、ハインリヒ殿下はそもそもヴァンブルグ帝国側に外遊の予定があって交流の暇もなかったから……取りあえず今はまだ保留で。
問題の先送りとも言うけど。
「しかし元気なお顔をまたこうして見ることが出来て、わたくしは安心しました」
きっとそれだけ心配をかけてしまっていたのね。
「えへへ……でも、大丈夫だったよ。心配してくれてありがとう、セバスチャン」
だから、元気な笑顔を見せるのが一番。
おかげでセバスチャンも安心したように微笑んでくれた。
続いて前に進み出て出迎えてくれたのは……。
「エルちゃん!」
フルールに抱かれたエルヴェだ。
二人の側に駆け寄って、エルヴェの顔を覗き込む。
「エルちゃんただいま! お姉ちゃんだよ、会いたかった! 見ない間に少し大きくなったね! エルちゃん、お姉ちゃんのこと、ちゃんと覚えているかな? 忘れちゃってない?」
「んあぅ、だぅ♪」
何を言っているか分からないけど、笑ってくれて良かった!
ちゃんと覚えててくれたのかな?
もし本当に忘れられていたら悲しいから、絶対に忘れられないように、これからも毎日顔を見せないとね。
「フルールもただいま。エルちゃんどうだった?」
「お帰りなさいませお嬢様。ええ、もちろんいい子にしていましたよ」
「フルール、留守の間ありがとう」
「お帰りなさいませ奥様。特に大きな問題もなく、元気に過ごされていましたよ」
「それは良かったわ」
お母様もエルヴェの顔を覗いて、優しく微笑む。
「皆様、長旅でお疲れでしょう。どうぞ中へ」
懐かしくてつい話し込んでしまったけど、せっかく帰ってきたのに玄関先で立ち話もあれよね。
セバスチャンに促されて、荷物は使用人達に任せ、私達は屋敷へと入る。
エマにはご苦労様だけど、お風呂で長旅の汗と汚れと疲れを落として。
普段着のドレスに着替えて。
その間に他のメイド達が部屋に荷物を運び込んで荷ほどきしてくれて。
スッキリさっぱり綺麗になって落ち着いてから、リビングに集まった。
みんながリビングに揃ったところで、セバスチャンとフルールから留守の間の詳しい話を聞く。
エルヴェが多少熱を出したこと以外は、特に大きな問題はなし。
赤ちゃんや子供って、何かあるとすぐ熱を出すからね。
大きな病気じゃなかったら、そのくらい平常運転みたいなものだから。
お仕事その他の報告や確認は明日以降に回して、今日は久しぶりにみんなでエルヴェを構い倒し、王都や道中での出来事をお土産話として話して聞かせた。
それから二日間は旅の疲れを取るため、お勉強とお仕事は完全にお休みにして、のんびりと過ごす。
王都で過ごしたのは、年明けの一月まで。
二月に入ったら早々に社交を切り上げて、まだ移動するには早く寒い時期でも構わずに領地へ戻って来たの。
おかげで、思った以上に疲れが溜まっていたみたい。
そもそも、王都だと私、観光するくらいしかやることがなかったのよね。
後は、国立図書館に通うとか。
魔道具の開発も本格的には出来なかったし、退屈を持て余し気味だったから、早く帰って来られたのは良かったわ。
と言うわけで。
帰ってきて三日目。
お勉強もだけど、本格的にお仕事開始よ。
離れのお屋敷、通称『マリーの仕事部屋』へ移動して、会議室に開発チームのみんなを集める。
帰宅の挨拶はすでに済ませているから、前置きはなし。
「それでマリエットローズ君、何やらまた新しい魔道具を思い付いたらしいの」
「はい、オーバン先生。これです」
テーブルの上に、王都で書き溜めた魔道具の仕様書の数々を並べる。
「ほほう?」
「色々ありますな」
「さすがお嬢様」
私が不在の期間、みんなもそれぞれ思い思いに研究開発をしていたみたい。
それはそれで続けて貰うとして。
今日からはそれと平行して、これらの魔道具を作って貰うわ。
「何々……回転式洗顔器、それから振動式洗顔器……?」
オーバン先生が、顔を洗うのにわざわざ魔道具が必要なのかって、すごく不思議そう、いえ、納得いかなそうな顔ね。
「こっちは……スチーム美顔器?」
クロードさんまで変な顔をしているわ。
「こっちは馬車用か」
「床下暖房、座席用暖房、天井用空調機?」
「これは……魔道具じゃないけど、馬車用のサスペンション?」
「これはまた随分と盛りだくさんだ」
「王都へ行っても、その発想力に
みんな数に驚いたり、中身に呆れたりしている。
でも、それと同じだけ、やる気に満ちた顔だ。
「と言うわけで、みんな忙しくなりますよ。頑張って開発していきましょう!」
「「「「「はい!」」」」」
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