87 売り上げ報告、ランプはいっぱい売れています
「では始めに、ブルーローズ商会の魔道具販売状況から報告します」
エマがポールさんから資料を受け取って、私の前に置いてくれた。
そこに書かれていた数字をざっと眺めただけで、テンションが上がっちゃう。
だって、ムフーってドヤ顔したくなるくらいの数字が並んでいるんだもの。
そんな私に気付いてか気付かずか、ポールさんも自慢げに説明してくれる。
「現在、主力商品はマリエットローズ式ランプのシリーズで、堅調に売り上げを伸ばしています。下請けの職人達も、ようやくマリエットローズ様の斬新なデザインに慣れてきたようで、仕上げまでが早くなり、生産量も増えてきました」
「それは朗報ね」
ランプはそれこそ一部屋に一つ以上使われるから、大量生産が必要だもの。
しかも真っ先に売り出した商品でしょう?
その販売数がブルーローズ商会の評価を左右して、今後の商売に大きく影響すると言っても過言じゃないから、これはとてもいい傾向ね。
「特に、既存のデザインを踏襲したアンティークシリーズは本体を外注に出せるため量産が容易なことと、貴族様方の私室や寝室などの個性に合わせたデザインが必要のない、役所や兵の詰め所、その寮などで汎用的に使えるデザインです。そのため、単価は他のシリーズと比べると安価ですが、一度の発注数も多くなるため、ゼンボルグ公爵領内だけではなく、王都の一部の役所、王都周辺の中央貴族の領地での販売数が伸びています」
「しかし、賢雅会の特許利権貴族達の息が掛かっている役所や、本人達の領地、そして関係が深い貴族や派閥の貴族の領地では、やはりと言いますか、
そこで、エドモンさんの補足が入った。
役所関係は特に派閥や縄張り意識が強いから、切り崩しは難しいでしょうね。
「そこは無理しなくても大丈夫です。既得権益を過度に侵害して、特許利権貴族達を追い詰めすぎるのも良くないので」
エドモンさん達ブルーローズ商会のメンバーはともかく、他領から来て貰った魔道具師や職人達は、特許利権貴族達に嫌がらせをされて、少なくない恨み辛みがある。
それについては、私もお父様も思うところがあるわ。
でも、だからと言って無闇矢鱈に喧嘩を売ればいいと言う話でもない。
だって
それにもし本気で追い詰めるのなら、徹底的に叩き潰せるだけの準備を済ませて、タイミングを見極めないとね。
「中央の役所関係はほどほどに、貴族達、特に領地貴族達に広く広めることに重点を置いて販売すればいいと思います」
そうすれば、その領地貴族達の領地の役所など、いずれ食い込めるようになるだろうから。
「分かりました。ではそのように」
私が言うまでもなく心得ているとばかりに、エドモンさんとマチアスさんが頷いた。
ポールさんも頷いて、報告を続ける。
「その領地貴族達に関しては、下級貴族達を中心にモダンシリーズが売れています」
アンティークシリーズが既存のランプの無骨や実用一辺倒で地味なテイストほぼそのままだとしたら、モダンシリーズはそれをよりインテリア向けに可愛くお洒落にデザインし直したランプね。
「アンティークシリーズよりお値段は少し高めですが、『ちょっと洒落た贅沢』感覚で執務室や私室、応接室や客室に置くことがステータスとなっているようです。特に下級貴族は数が多いですし、さすがに役所関係を押さえた場合とは比べ物になりませんが、マリエットローズ式ランプの貴族社会への普及には効果的な購買層で、順調な売り上げを出しています」
「既存のランプも、購買層に合わせて無難なデザインやお洒落なデザインなどないわけではありませんが、マリエットローズ様の洗練されたデザインのそれと比べますと、やはり華やかさに欠けています。おかげで、下級貴族のモダンシリーズへの食いつきはいいですね」
これは、エドモンさんも手応えを感じているみたいね。
既存のランプの職人達も、最先端のデザインをしてきたんでしょうけど……。
数百年も時代を先取りされたら、どうしようもないわよね。
「対して、上級貴族達には斬新なデザインのイノベーションシリーズが広まっています。基本的にオーダーメイドですから単価が高く、販売数は他のシリーズに大きく劣りますが、売り上げは決して劣るものではありません」
イノベーションシリーズと聞くと大げさだけど、つまりは前世の現代風スタンドライトのデザインを取り入れたランプね。
私が最初に完成させて、お父様とお母様、それとエマやアラベル達にプレゼントしたランプが、後からイノベーションシリーズと呼ばれるようになったの。
「そのどれもが、注文を受けてからマリエットローズ様にデザインして戴かないといけませんからな。デザインにも製作にも時間が掛かり、どうしてもお渡しするまでお待ち戴くことになります。ですが、やはりデザインが革新的なことが大きいでしょう。それが希少価値として、一層購買意欲を高めて人気を集めております」
マチアスさんの口ぶりからすると、きっとそういう風に話を誘導したんでしょうね。
さすが、長年海千山千の貴族を相手に商売をして来ただけあるわ。
そのマチアスさんの説明に、ポールさんが補足を加える。
「王家や公爵家などのご夫人、ご令嬢のそれを見て、その方にあやかって自分も同じ物が欲しいと言う注文も多くあります。その場合、若干サイズを小さくしたり、デザインを多少シンプルにしたりとワンランク落とし、その方達への配慮が必要ですが、すでに一度使ったデザインを流用出来ますので、利幅は非常に大きいです」
きっとそのご夫人やご令嬢達がお茶会などで自慢して、参加した取り巻きのご夫人やご令嬢達が『○○様と同じのが欲しくて同じデザインのを買ったんです』って、ご機嫌取りも兼ねて注文しているんでしょうね。
「道理で、私のところに販売数ほど新規デザインの依頼が来ていないわけだわ」
これは私も助かるわね。
実は一番困るのが、『○○様に負けない斬新なデザインを』って具体的なイメージもなく、対抗意識だけで注文されることなのよ。
そもそも私はデザイナーじゃないんだから、デザインの引き出しにも限りがあるわけだし。
そろそろ私の代わりにデザインが出来る人材が欲しいわね。
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