56 初めての魔道具 3
「パパ、ママ、お一つずつどうぞ。好きなのを選んで下さい」
「まあ、貰っていいの?」
「もちろんです。パパとママにプレゼントしたくて作りました」
「まあ、嬉しいわマリー!」
お母様が感極まったように、頬に額にと、キスの雨を降らせてきた。
お母様は嬉しかったり感動したりした時、すぐにキスで愛情表現をしてくる。
落ち込んで元気を出したい時、慰めてくれる時、挨拶代わりやご褒美にも。
とにかくキス魔だ。
嬉しくて照れ臭くて、私も愛情のお返しにお母様の頬にキスをする。
「ありがとうマリー、遠慮なく戴くよ」
「はい、是非使って下さいね」
お父様も頬にキスしてくれたから、私もお返しのキスをした。
前世の記憶を取り戻したばかりの頃は照れ臭くて慣れないし、自分からするのは恥ずかしくてなかなか出来なかったけど。
お父様とお母様のおかげで、今ではすっかり慣れてきたわ。
お父様もお母様も、最初に手に取ったランプを選ぶ。
二人とも手にしたランプを眺めて、すごく嬉しそう。
どちらもお父様とお母様の好きな色を選んで、さらにそれぞれの自室のインテリアに合うようにデザインしたからね。
残る一つは、私の分。
これも私好みで、私の部屋のインテリアに合うようにデザインしておいたわ。
せっかくだから、後で、オーバン先生、エマ、セバスチャン、アラベルにも作ってプレゼントしてあげよう。
喜んでくれるといいな。
「お嬢様、わたくし、大変に感動致しました。お嬢様がこれほどの偉業を成し遂げるところを目の当たりに出来て、胸が打ち震えております」
セバスチャンも深く腰を折って、私に敬意を表してくれた。
「ありがとうセバスチャン。嬉しいわ」
素直にお礼を言うと、孫娘を慈しむように微笑んでくれる。
照れる。
でも嬉しい!
「そこで、お嬢様にお一つご提案があるのですが」
「提案?」
「こちらのランプ、お嫌でなければ、売りに出されてみてはいかがですか?」
「私のランプを?」
いくら画期的な技術と機能を盛り込んだとはいえ、六歳の子供が作った魔道具を?
そんな驚きが前面に出てしまう。
「そうだな、それがいいだろう」
続いてお父様が頷いて、お母様もうんうんと何度も頷いて同意する。
「そうですな。これだけの発明。ここだけで終わらせてしまうのはあまりにも惜しい」
オーバン先生まで。
「お嬢様が開発なさった魔道具を取り扱う商会を新たに設立して、この技術とランプをそれぞれ特許登録し、大々的に売り出すのです」
「そうだな。これほどの技術だ。使いたい者など山ほど出てくるだろう。ここだけで終わらせ、万が一この技術が外部に漏れて、どこかの貴族に奪われでもしたら面白くない」
ああ、なるほど、そういう危険もあるんだ。
確かにこれから私が作りたい魔道具は今回の機構を使いたいから、そうする方がいいかも知れない。
「では、そうしましょう。それでまずは国王陛下に一つ献上し、ゼンボルグ公爵領を優先しながら、王国全土に大々的に売りに出しましょう。それも品薄を強調しながら」
悪戯っぽく微笑みながら言うと、お父様も満足そうに頷く。
「ああ、さすがマリー、よく分かっているな。それがいい」
魔道具はまず王国中央および、古参の貴族達の領地から売り出される。
ゼンボルグ公爵領にまですぐ回ってくることはない。
それでも手に入られるのは、せいぜいお父様か、中央と太いパイプと財力がある貴族の何人か程度だろう。
中央や古参の貴族達の需要を満たし、ブームが落ち着いて売れ行きが落ちてきてから、ようやくゼンボルグ公爵領へ品が回ってくるわけだ。
これは魔道具に限らない話だけど。
だから、ゼンボルグ公爵領に届くのは、いつも数年遅れ。
流行遅れや型落ち品がほとんどになる。
でも、こっちはそれでもようやく手に入るからありがたがってしまい、結果、田舎者呼ばわりが常態化してしまう悪循環になっているのよ。
そう、だから今度は、ゼンボルグ公爵領が最先端技術の発信地になる。
王国中央は……まあ仕方ないとしても、ゼンボルグ公爵領と反対側の領地には、同じ憂き目に遭って貰いましょうか。
「はっはっは。愉快、実に愉快」
突然オーバン先生が大笑いする。
「いや、失礼。この年になって、まだこんな愉快な気持ちになれるとは。マリエットローズ君との出会いは、儂にとってとても刺激的じゃ。まだまだ負けてはおれんと、血が滾ってくるわい」
「バロー卿、これからもマリーをよろしくお願いします」
「是非、マリーを導いてあげて下さい」
「もちろんですとも閣下、奥方様。と言っても、すでに儂が学ぶことの方が多そうですがな。はっはっは」
それから、商会設立のための手順や確認を行った。
話し合いの結果、当面は、私の身の安全や商品の信頼性を守るため、表向きはお父様が代表で設立したことにして、私の名前は伏せることに。
だって六歳の女の子が代表で、その子が作った商品を取り扱っているなんて、そんな冗談みたいな商会から普通、買わないわよね。
私だって、躊躇して買わない。
そして、オーバン先生が作った魔道具および、私と共同開発した魔道具もその商会で販売する。
ただ、商会幹部にだけは、事実上私が代表で、私が開発した魔道具を主体で売り出す商会だって言うことは全て説明し、納得しておいて貰う。
いずれ私が大きくなって社会的に信用が得られる年齢になってから、お父様から私に譲り渡される時に、移譲がスムーズに進むようにって配慮ね。
と言うわけで……私の仕事がまた増えました。
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