183 貧民達へのお仕事
2023/06/13
06/08に 182 貧民街での炊き出し を投稿した後、
06/09に 184 町歩きもお仕事です を投稿してしまい、
06/12に 187 職業訓練学校とは 1 を投稿するまで、183を飛ばしていることに気付きませんでした。
なので、06/13は 183 貧民達へのお仕事 を位置を調整して投稿しますのでそちらをお読み下さい。
大変申し訳ありませんでした。
06/14は 188 職業訓練学校とは 2 を投稿します。
――――――――――
炊き出しに集まった貧民達が食べ終わったら、次はお仕事の時間だ。
「みんな集まって。今日もお仕事始めるわよ」
箒とちりとり、モップとバケツ、ゴミ袋と荷車。
それらを前に声を張り上げる。
私が炊き出しに参加するのはすでに数回目。
そのたびにこうして掃除用具を用意しているから、みんなも慣れた物。
めいめい、好きな掃除用具を取っていく。
「さて、それじゃあ貧民街のお掃除を始めましょう!」
「「「おう!」」」
まだ人数は少ないし、ノリも悪いけど、子供達を中心に何人かが手にしたモップやちりとりを突き上げて答えてくれる。
「今日はこっちの区画ね」
アラベルが広げてくれた地図を見て確認して、護衛の騎士達に守られながら、先導して貧民街の掃除予定区画へと歩いて行く。
「それじゃあお掃除始め!」
到着したら掛け声をかけて、自分から率先して箒でゴミを掃き取っていく。
相方のちりとりはアラベルだ。
護衛の騎士達の半分は掃除に参加してくれて、半分は私の護衛で周囲に目を光らせている。
私に続いて、ノリがいい子供達が掃き掃除を手伝ってくれて、賃金が出るからと大人がバケツに井戸から水を汲んできて拭き掃除をしてくれる。
他にもゴミを拾ってゴミ袋へ入れたり、集めたゴミをまとめたりと、役人やボランティアの人達の指示や協力で、掃除を進めていく。
この貧民街の掃除、もちろん、誰からも手放しで歓迎されているわけじゃない。
胡散臭そうに遠目から見ている貧民達もいるし、炊き出しは貰って食べるけど、掃除に参加しない人達も多い。
貴族のお嬢様の気まぐれ、
多分、そう思われているんだと思う。
でもいいの、今はそれでも。
薄汚く澱んだ空気の貧民街が、一部とは言え、少しずつ綺麗になっていく。
清潔感が増して、住みやすい地区へと変わっていく。
それが大事なのよ。
町の警邏の兵士達には、貧民街での犯罪件数について、日々調査して記録を取るように指示を出しているわ。
まだ統計としてまとめられていないけど、掃除をした区画での犯罪件数は確実に下がっているはずよ。
だって前世ではそういう心理学の実験があって、実際に結果が出ているんだから。
アラベルを筆頭に、護衛の騎士達は、こんな貧民街の掃除をするために騎士になったんじゃない、って内心は不満タラタラでしょうけど。
今しばらくは我慢して付き合って欲しい。
実際に犯罪件数が下がったことが実証されれば、きっと分かってくれるはず。
お礼は、特別手当と、私の感謝の言葉とスマイルしかないけどね。
道だけじゃなく、建物も外観だけだけど綺麗にして、予定していた区画の掃除が終わったら、本日のお仕事はおしまい。
「皆さん、今日もお掃除ご苦労様でした。やっぱり住むなら綺麗な町の方が気持ちいいですよね。次の炊き出しの時もお掃除をしますので、是非また参加して下さい」
にっこり極上のスマイルをサービス。
でもスマイルではお腹は膨れないから、ちゃんと役人達から仕事の報酬として十分な賃金を渡す。
集めたゴミをゴミ捨て場まで運んでくれる人には、その分の報酬も上乗せして。
もちろん、役人達は、その賃金をちょろまかしたり、上前をはねたり、そういう不正をすることはない。
ちゃんとこの仕事の意図を説明して、理解を示してくれた真面目な人達を厳選して参加して貰っているからね。
「姫様ありがとう! またね!」
「あいあとぉ! またねぇ!」
「うん、またね」
元気いっぱいに去って行く子供達を見送って、貧民達が解散したら本日のお仕事は終了だ。
「アラベル、それから護衛の騎士、役人、ボランティアの皆さん、今日もありがとうございました。大変かと思いますが、もうしばらく私にお付き合い下さい。遠からず、結果をお見せできると思いますから」
貧民街への炊き出しは、うちの領地では週に一度行われている。
余所の領地では普通は週に一度、領地によっては二週に一度や月に一度と言う所もあるみたいだから、まともに慈善活動が行われている方ね。
おかげで、私の顔と名前は段々覚えられていっていると思う。
ちなみに、やっていることは炊き出しとその後の清掃作業だけじゃない。
衝立と石鹸を持ち込んで、井戸で髪や身体を綺麗に洗って貰ったり。
町で古着を買い取ってきて配ったり。
貧民街の道や建物だけじゃなく、本人達の清潔感アップにも務めたの。
その上で、ちょっとずるいけど、ボランティアの人達が背後関係から私のお願いを断れないのを承知の上で、どんな雑用でもいいから、貧民達に仕事を頼むようお願いしたり、ね。
残念ながら貧民街と言う場所柄、普通の人達が近づくことはないから、今、貧民街で何が起きているのか一般の人達にはほとんど知られていない。
だけど、炊き出しに参加している私達、ボランティアの人達には、日を追うごとに清潔感を増していく町並に、適正な賃金さえ支払えばちゃんと真面目に働く人達の姿が目に映っている。
貧民達も、好きでこんな場所でうらぶれているわけじゃないんだもの。
こんな生活を抜け出したいと常々思っている人達だって、少なからずいる。
炊き出しには大勢集まるし、掃除にはそれより少ない人数しか集まらないけど、それでも掃除に参加してくれる人達は、少しずつでも確実に増えてきていた。
さらに、ボランティアの人達が斡旋してくれる仕事には、いつも取り合いになるほど人が集まっている。
労働し、賃金を得る。
そのことを知らなかった子供達はそれを知り、落ちぶれた大人達はそれを思い出す。
貧民街近くの通りの露店や屋台で、彼らが得た賃金を使って買い物をするのを、ツアーコンダクターよろしく、案内、指導、監督、そして露店や屋台への挨拶回りもしたわ。
生活の糧を得る方法は、盗みや強盗などの犯罪や、残飯漁りや物乞いしかないわけじゃない。
そのことを少しでも意識してくれたら。
そう思うわ。
そしてその意識が、私の顔と名前と共に徐々に広がってきている。
炊き出しに集まる貧民達の多くにそれらが広まったら、計画は次の段階へ移行よ。
それまでは、地道にこの活動を続けるのみだわ。
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