193 お茶会を開こう
エマは――違う。
お姉ちゃんみたいで、どれだけ親しくて仲良しでも、私は主家の娘で、エマはそのお付きメイドだ。
気持ちはともかく、対等なお友達にはなれない。
アラベルは――やっぱり違う。
貴族学院や勉強の話題が合うし、剣術や馬術の話もするし、勤務時間以外でも仲良しだけど、やっぱり主家の娘と護衛の騎士だ。
二人とも話していて楽しいし、ついお姉ちゃんやお友達みたいな感覚で接してたから、改めて友達を作ろうなんて発想、全然出てこなかったわ。
じゃあ他に友達と呼べそうな人は……。
オーバン先生とは師匠と弟子の関係に加えて、魔道具開発では気兼ねなく意見を戦わせて仲良しだし、ある意味で年の離れた友達っぽいところもあるけど……。
さすがにお友達と呼ぶのは難しいわよね。
開発チームのみんなも同じ。
レオナード殿下もハインリヒ殿下も、お友達と呼べる程の関係じゃない。
ジャン達も同じく、違うと思う。
ジョルジュ君も手紙のやり取りはしているけど、顔を合わせるのは仕事絡みの時だけ、それもシャット伯爵のついでみたいなものだから、それでお友達とは断言しにくい。
ロラも、今のところはまだ、微妙にお友達とは言い切れないわよね。
ロラ以外のお店の店主とか、炊き出しに来る貧民街の子供達とかも。
他に誰か……。
「……」
……私、本当にお友達がいないわ!?
「私が子供らしいことを何一つさせてやらなかったから……」
「あなただけの責任ではないわ、わたしだって……」
ああ、私がお友達の名前を挙げられなくて黙り込んでしまったから、余計にお父様とお母様が落ち込んでしまった!
でも、私にも言い分があるのよ?
今のお仕事は、私やみんなの生死に直結している。
特に前世の記憶を取り戻して間もなくは、情報を集めて知識を付けるのに必死で、心のゆとりもなかった。
しかも前世では、仕事仕事の毎日で。
友達と会って遊ぶ機会なんて滅多になくて、もはや友達と遊ぶのは非日常の特別なイベントと化していた気がする。
そもそも、中身が三十代半ばのいい大人が七歳くらいの女児とお友達になりたいって、事案じゃない?
そんな発想が出てくることの方が問題でしょう?
だから
でも……お父様もお母様も、そんな私の事情は知らないのだから、やっぱり心配するわよね。
気付いたら娘には友達の一人もいなくて、大人に交じって仕事仕事って……考えるまでもなく、健全な七歳児と言えないもの。
「しかもよく考えれば、政治的にもかなり不味い状況、ですよね……」
だって仮にも派閥の
良い悪いじゃない。
好き嫌いの問題でもない。
グループに所属していない、ぼっちの女子って、否応なく悪目立ちする。
それって色々と、それもかなり厄介な事になるのよ。
「ましてや、私は派閥に所属するご令嬢達をまとめる役目を負わないといけないのに。お友達がいなくて誰も私を信用しないし頼らない、それでまとめられませんじゃ、お話にならないですよね……」
「ああマリー……その通りなのだけど、まだそんなことまで考えなくてもいいのよ」
「すぐにそのような発想をさせてしまうのは、やはり私が……」
ああ、またお母様とお父様が悲しそうな顔に……!
私が口を開くたびにそんな顔をさせてしまったら、迂闊なことは口に出来ないじゃない!
お父様が私の頭に手を置いて、懺悔するように優しく撫でてくる。
「マリーは幼い頃からとても賢い子だった。今のように、政治的な思惑を理解出来るし、学院の高等部を卒業したアラベルと対等以上に話せたからね。今更、同年代の子供達と集まって、お茶会の練習をする必要もないだろうと、つい軽く考えてしまっていた私の責任だ」
「お茶会の練習ですか?」
詳しく聞けば、早い子は四歳くらいから、遅くとも六歳くらいから、同年代の子供達と集まって、お茶会の練習、つまりはプチ社交界を体験しながら、貴族の流儀を覚えて成長していくらしい。
でも、じゃあ四歳の頃の私が、他の四歳の子供と交じって一緒にお茶会をしたとして……。
うん、想像するまでもなく、普通に苦痛よね。
むしろ、保護者枠での参加でしょう、それ。
四歳の私って、お父様のお仕事を手伝いながら、貴族学院高等部の筆記試験で卒業資格を取得するために勉強漬けで、魔道具の勉強も始めた頃よ。
絶対浮きまくりだわ。
「マリーにはあれもこれもとお仕事をさせてしまって……お友達を作る機会を奪っていた上に、お友達を作るよりお仕事の方が大事だなんて、そんなことを当たり前のように考えるような生活をさせてしまっていたことに、親として反省せずにはいられないわ」
私、知らず知らずのうちに、こんなにもお父様とお母様に心配をかけてしまっていたのね……お父様とお母様の責任じゃないのに。
反省しないと。
そして反省したら、私がすべきことは一つ。
「あの……やります、お茶会! 私、お茶会を開いてお友達を作ってみせます!」
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