194 お茶会の政治的な思惑
「そうか、お茶会を開く気になってくれたか!」
「良かったわ、お友達が欲しくないわけではなかったのね!」
途端に、お父様とお母様の顔がぱあっと輝く。
「あまりにも興味が薄そうで心配していたが、これで一安心だ。それでは、すぐにどの家のどの令嬢を招待するか厳選しなくてはな」
「フルール、セバスチャンに伯爵家以上の派閥の家の調査報告を大至急まとめて持ってくるよう、急いで伝えてきて頂戴」
「はい奥様」
フルールが一大事とばかりに一礼して、大急ぎでリビングを出て行く。
「ええっ!? そんな大げさな話なんですか?」
「もちろんだよマリー」
「マリーの初めてのお茶会なのだから、必ず成功させないといけないもの」
フンスと鼻息荒く、お父様とお母様の気合いの入りようがすごい。
そこまで責任を感じられたら、なんだかすごく申し訳ないわ。
単に念頭になかった私の自業自得でしかないんだから。
「そこまでしなくても、気が合いそうな子を適当に選んで貰えるだけで十分ですよ?」
「そうだね。マリーはそのくらい気楽に構えているくらいで丁度いい」
「そうね。難しい話は全部わたし達に任せておいて」
難しい話……。
お父様とお母様の口ぶりからすると、何か難しい政治的な話があるようね。
「その難しいお話ってなんですか?」
お母様が、しまった口を滑らせたと、気まずそうな顔をする。
私がじっと見つめると、お父様とお母様は顔を見合わせて、仕方ないとばかりに頷いた。
「マリーに説明すると、変に気を回してしまうかも知れないから黙っていたかったが」
「そうね。マリーには政治的なしがらみを考えず、純粋にお友達を作る場にして欲しかったのだけど……」
「聞いてしまった以上、気になります」
「そうよね……」
二人は表情を改めると説明してくれる。
「王家とヴァンブルグ帝国皇家を筆頭に、一部の古参の貴族家には、マリーがどれほど賢く優れているのかを知られてしまった。対して、
「デビュー前とはいえ、マリーが表舞台に立った以上、それでは派閥の貴族達に対してバランスが取れないわ」
それは確かに、派閥の貴族達に不満に思われるかも。
中央には教えて、自分達には教えないのかって。
「だから派閥へのお披露目も兼ねて、何かしら手を打つ必要があったわけだ」
「マリーがお茶会を開いてくれるのなら、丁度いい機会よね」
なるほど、そういうことだったのね。
「とはいえ、もちろん初めて主催するお茶会に大勢のご令嬢を招待してもマリーが大変だろうから、少ない人数となるが」
「でもお茶会は何度開いても構わないし、これを切っ掛けに招待を受けて、そこでさらに知り合いのご令嬢を増やしていく手もあるわ」
「つまりその過程で、保護者に私のお披露目をしていく、と言うわけですね?」
「その通りだ」
これは、単にお友達を作るだけのお茶会のつもりが、ちょっと大変なことになりそうね……。
「だからマリーには黙っておきたかったんだ」
私の顔を見て、お父様が困ったように微笑む。
「そうね。つい浮かれて、わたしが口を滑らせてしまったから……」
「お父様もお母様も、そんな顔をしないで下さい。むしろ教えて貰えて良かったです」
一応は同年代とはいえ、子供相手のお茶会で、単にお友達を作りましょうとそれだけを考えて子供達に振り回されるより、そういう指針があった方が、分かりやすくて動きやすいわ。
「マリーならそう言うと思ったわ」
だから余計に秘密にしておきたかったの。
そんな顔をされてしまう。
でも、私は知れて良かったわ。
だって中身は純粋な七歳児じゃないのだから。
「ただマリーは、先程も言った通り、気楽に構えていてくれて構わない」
「ええ、お膳立ては全部やっておくわ」
改めて気合いを入れてすごく真剣な顔になると、セバスチャンが持ってくる報告書を待たずに、どの家のどのご令嬢がいいか、すぐさま話し合いを始めてしまった。
セバスチャンに頼みに行ったフルールが戻ってくると、フルールまでその話し合いに加わってしまう。
みんなすごい張り切りようだわ。
「お嬢様に初めてお友達が出来るかも知れないのですから、当然です」
お父様とお母様とフルールのあまりの張り切り具合につい引いてしまった私に、エマがやたら生真面目な顔で頷く。
「お嬢様は事情が事情だけに仕方がない面もありましたが、やはり同年代の友人は必要だと思います。わたしに何が出来るか分かりませんが、フォローしますのでご安心を」
アラベルまで、妙な決意を漲らせているし。
みんな、大げさじゃないかしら?
……大げさじゃないわね。
七歳児が仕事仕事で友達の一人もいないなんて、異常だもの。
これは私も気合いを入れてちゃんとお友達を作らないと。
ここまでしてくれるみんなをがっかりさせたくないわ。
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