126 マリエットローズのお見合いの可能性
思わず大きな声を出してしまった私に、お父様が難しい顔のまま少し困ったように眉を下げて、お母様も困ったように頬に手を当てる。
「やっぱりマリーにはまだ早いみたいね」
そんな『娘がまだまだお子様で、どうしたものかしら?』みたいな空気を醸し出されても……。
だって私、まだ七歳よ?
いや、貴族なら、それも公爵家なら、早めに決めておかないといけないのかも知れないけど……。
でも、それ以前に、七歳と言えば前世ならようやく小学一年生。
それなのに、家のため、将来のため、条件に合う男の子に目を付けて結婚を考えろなんて、無茶が過ぎると思う。
しかも、お相手だって同い年くらいでしょう?
そんな子供相手に、中身が三十代半ばだった私が本気で婚活して『将来この男の子と結婚します!』なんて宣言をしたら、事案もいいところじゃない!
ショタ好きのお姉様だったら、アリな選択なのかも知れないけど。
残念ながら私は、年下の男の子を可愛いとは思っても、そういう対象として見るほどショタ好きと言うわけじゃないから。
「この話、マリーはどう思う?」
この場合の『どう』と言うのは、婚約します、しません、と言う答えのこと……ではなさそうね。
何故ヴァンブルグ帝国がこの話を私に持ちかけてきたのか、それを考えなさい、と言うことだと思う。
だとしたら……。
これまで学んだ知識と貴族のやり口についての知識を総動員して考える。
すると、なんとなくだけど見えてきた。
「……ワッケ子爵を内通させて寝返らせる陰謀が失敗したから……今度はゼンボルグ公爵家と婚姻政策で堂々と関係を強化して、戦争……まではいかなくても……いえ、将来的には不可侵条約を破棄しての侵略戦争も見据えて、政治的、経済的、軍事的にオルレアーナ王家を挟撃して、オルレアーナ王国を弱体化させるため……?」
「さすがマリー、正解だ」
うわぁ……。
さすが王族と貴族の政治……ドロドロね。
正解したけど全然嬉しくない、と言うよりも、ドン引きよ。
そんな陰謀のために七歳児を巻き込まないでよね!
「マリー」
お父様が、これまでの穏やかな顔とも、難しい顔とも違う、父親じゃない真面目な公爵としての顔になった。
だから私も表情を改めて居住まいを正す。
ただ、未だに私はお父様のお膝の上だけど。
「マリーがこの手の陰謀めいた話を好まないことは知っている。しかし、私は決して悪い話だとは思っていない」
「え……?」
「もちろん、メリットもデメリットもある。我がゼンボルグ公爵家の立場を考えれば、様々な方面に影響が大きな話だ。しかし、個人の好き嫌いを考えなければ、選択肢の一つとしてありだと思っている」
それは、ゼンボルグ公爵として、ゼンボルグ公爵家の……いえ、ゼンボルグ公爵領全ての未来を考えれば、決して悪い話ではない、と言うことなのね。
「ゼンボルグ公爵領への、王家や古参の貴族達のこれまでの振る舞いを考えれば、その
「……でも、それだと、オルレアーナ王家がヴァンブルグ帝国
「もちろん、その可能性もある」
でも、そうじゃない可能性もある。
それに、お父様の代で関係を仕切り直し出来るだけ、そうさせない立ち回りが出来ると言うことでもあるのね。
「でも、多分オルレアーナ王家もその陰謀に気付いていますよね? パーティーの参加を許さないのでは?」
「そこはすでに調査と根回し済みだ。招待状が来たのはしばらく前でね。その辺りの状況を整え終わるまで、マリーには話をしなかったんだ」
王家に邪魔をされて、参加の話が流れる可能性があったから。
でもその可能性を排除したと言うことは、つまりお父様は、そのパーティーに私を参加させて婚約を……ううん、お父様の口ぶりからすると、まだそこまでは考えていないみたい。
だとすると……?
「別に今回のパーティーに参加したからと言って、無理に婚約を決める必要はない。正式に打診があったわけではないからね。逆にこちらがその気になっても、断られる可能性だってある。しかし、我がゼンボルグ公爵家としては、王家や古参の貴族達に対するいい揺さぶりになると思っている」
「揺さぶり、ですか?」
「そうだ。今回の件で、我がゼンボルグ公爵領に対する態度を改めるならよし。一層締め付けてくると言うのであれば、本気で前向きに考えるだけだ」
なるほど……加減を間違えなければ、悪くない手なのかも。
お父様が本気でヴァンブルグ帝国と手を結ぼうと考えているとは思えないけど、上手く揺さぶりをかけられれば、状況改善の一助になるものね。
「それにね、マリー」
お父様が少しだけ悪戯っぽい……ううん、悪い笑みを浮かべる。
「そのパーティーには王家も、つまりレオナード殿下も参加される。選択肢はヴァンブルグ帝国の皇子殿下だけじゃない。レオナード殿下と天秤にかけられると言うことだ」
「――!?」
それって……陰謀発動と言うこと!?
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