第二部 備えるは海洋貿易を見据えた内政と貴族政治
125 パーティーへの招待
予定通り、更新再開します。
引き続き応援よろしくお願いいたします。
125話から始まる四十話程度のざっくり文庫本一冊程度を、毎日投稿する予定です。
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◆
――これは、魔道具の推進器の実験が終わった後の、試作の大型船である練習船、
「お姉ちゃん、今日も一日、お勉強とお仕事頑張ったよ~」
「うぁ、あぁ、だぁ♪」
夕食後、ベビーベッドで寝ているエルヴェに話しかけながら、ぷにぷにほっぺをつついて顔の前に指を伸ばす。
するとエルヴェがそのちっちゃなお手々で私の指を握って楽しそうに笑った。
「あぁ~エルちゃん可愛い! 癒される!」
これだけでもう、一日の疲れも吹っ飛ぶわ。
それで、明日も頑張ろうって気力が湧いてくる。
エルヴェの明るい未来のためにも、不断の努力で前進あるのみよね!
「マリー、そろそろ」
程なく、おねむになったのか、エルヴェは愛らしい寝顔を見せてくれる。
ずっと眺めていられるけど……。
そのまま明日の朝になってしまっても困るものね。
だから後ろ髪を引かれつつも、お母様に促されて、二人でお母様の寝室を出てリビングへと戻った。
「マリーはすっかりエルに夢中だね。私のことは忘れられてしまったかな?」
「そんなことないですよ。パパだって大好き♪」
わざとらしく寂しそうな顔をするお父様の所へ駆け寄って、お膝に座って頬にキスをする。
「それは良かった。私もマリーのことが大好きだよ」
お父様も、お返しに頬にキスしてくれる。
照れる。
でも嬉しい。
そんないつもの家族の交流の後、唐突にお父様が切り出してきた。
「マリー、王都へ行って、パーティーに参加してみないか?」
「え?」
本当に唐突な話題で、思わずキョトンとして聞き返してしまう。
「私、これまでパーティーに参加したことないですよ?」
「ああ、そうだね」
私はこれまでその手の公の行事にまともに参加したことがない。
だって、お父様とお母様から出るように言われたことがなかったから。
言われても、興味があるかどうか聞かれて、ないって答えたら、それで話が済んでいたのよ。
それは多分、私があれこれしているせいでしょうね。
我ながら、ちょっと特殊すぎて、なかなか人前には出せないと思うし。
私も公爵令嬢として恥ずかしくないレベルで髪と肌を磨いて着飾るのは大変だし、パーティーにも特に興味がなかったから、それで別に良かったの。
それが王都でのパーティーだなんて、今回はこれまでとはちょっと違うみたい。
「どんなパーティーなんですか?」
「先日、ヴァンブルグ帝国の在オルレアーナ大使、ミュンヘルン侯爵から招待状が届いてね。皇太子殿下と皇子殿下が外遊で王都オルレアスを訪れた際に大使館で開かれる、両国の親善パーティーだ」
「え?」
「そのパーティーに、マリーも是非と先方からお誘いがあったんだよ」
「ええっ!?」
それって、両国にとってとても重要なパーティーよね!?
「そんなパーティーになんで私が!?」
「なんでだと思う?」
お父様が話の内容にしては穏やかに、私に尋ねてくる。
これは、まずは自分で考えなさいと言うことよね。
つまりこのパーティーには、単にゼンボルグ公爵家を親子で招待したと言う好意やお付き合いだけではない、政治的な意味があると言うこと。
そうすると、真っ先に考えられるのは……。
「ブルーローズ商会と魔道具の取引をしたいと言うことでしょうか」
今、オルレアーナ王国中で、ランプとドライヤーを中心に、私の魔道具が魔道具業界に激震を起こしている。
その話は、隣国のヴァンブルグ帝国貴族の耳にも入っているみたい。
だって主な国の大使館員から、正確にはそのご夫人やご令嬢達から、特にドライヤーについての問い合わせが殺到していると聞いているから。
ただし残念ながら、各国で特許の取り扱いに違いがあるから、現状、輸出はもちろん、外国人への販売も禁止されている。
逆に、他国も外国への販売を禁止しているから、お互い様だけど。
そこで、ヴァンブルグ帝国はなんらかの形で話を付けて、正式に魔道具の交易を始めたいのかも知れない。
「それもあるだろうね。ただ、その答えだけを採点するなら五十点だ」
「う……五十点ですか」
「ヴァンブルグ帝国はマリーが魔道具を開発しているとは知らない。それがたとえマリエットローズ式と呼ばれていても、私が勝手にそう名付けたと思われているからね。だからブルーローズ商会と取引したいのなら、招待するのは名目上の商会長である私だけで十分だ」
「あ、そうですね……」
自分が魔道具を開発しているから、ついそう考えちゃったけど、相手は知らないんだから、わざわざ私を招待する意味がない。
だとすると、なんだろう……。
「あ……! ワッケ子爵が内通しているのを暴いて、陰謀の邪魔をしたから!? それで相手がどんな奴か、この機会に拝んでおこうと!」
「それはないね。その答えだけを採点するなら零点、いやマイナス百点だ」
「マ……マイナス百点」
「ワッケ子爵内通の件は、私が慎重に、ゼンボルグ公爵家と分からないように、王家の耳に入るように手を回したからね。王家は元よりヴァンブルグ帝国が、ゼンボルグ公爵家が邪魔をしたなどと知る由もないんだよ。ましてや、マリーが気付いたと言うことを知っているわけがない」
「言われてみれば……」
「マリー、相手が知らない秘密を自分から暴露するのは良くないね」
少しだけ厳しい顔と声音で注意されてしまう。
「はい……」
これってあれよね、犯人しか知らない情報を口にしてしまって犯人だと特定されてしまう、と言う奴よね。
貴族令嬢としては致命的なミスだわ。
これからは気を付けないと。
「じゃあ………………何故でしょう?」
さっぱり思い付かなくて、白旗を揚げる。
途端に、お父様が苦笑してしまった。
お母様まで。
「マリーには、やっぱりまだそういうお話は早いみたいね」
「お母様? そういうお話って?」
私の質問に、お父様がこれまでと打って変わって難しい顔になった。
「皇子殿下とマリーを婚約させるための顔合わせだよ」
「私が婚約!?」
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