18 魔道具製作のお勉強 2

「魔道具は、ぶっちゃけて言ってしまえば、構造と外観は用途に合わせて千差万別になる。使いやすさと必要な機能さえ備えておれば、誰が作ろうが構わん。儂もガワは職人に外注に出して作らせておったからな。もちろん、本当に用途に合った構造と外観になるかはセンスが必要になるが」


 オーバン先生が、サンプルとして用意した魔道具のランプの取っ手を摘まんでブラブラさせる。


 オーバン先生の言う通り、外観なんてデザインの領域だから、趣味趣向によって変わってくるだろうし、インテリアに合わせるとなると、一点物の製作を依頼する貴族だっているかも知れない。

 必要なのは、オンオフのボタンと、周囲をちゃんと明るく照らせるかどうかだけだ。


「魔石は、ケースバイケースじゃな。どのようなデザインでカットするかは、魔道具の用途による。このランプのように量産品で広く世に売り出そうとしておる物であれば、魔石を嵌め込むくぼみと魔石のデザインは、規格として統一されておるべきじゃ。しかし、軍の兵器、個人の一点物で他者に使われたくない物、などは、一般の規格とは異なるデザインでカットしておく必要がある」


 万が一、軍の武装の魔道具が盗まれて、そこらの魔道具の魔石を外して使うなんてことをされたら大変だもんね。

 そういう意味では、私が作ろうとしている帆船に乗せる魔道具は全部、特別なカットにすべきね。


「つまり、魔道具を作るに当たり、最も魔道具師に知識とセンスを求められるパーツは魔法陣と言うことになる。この魔法陣が正しく描かれておらんと、目的の機能を持たせることが出来ないばかりか、魔道具の暴走や、魔石の爆発事故に繋がる可能性がある」


 一際怖い顔をして、脅すように身を乗り出してくるオーバン先生に、思わず生唾を飲み込む。

 事故の危険性は言われるまでもなく分かっているわ。

 それより、オーバン先生の顔の方が怖い。


「うむ。魔道具の暴走と魔石の爆発事故の恐ろしさを理解してくれたようで何より」


 いえいえ、オーバン先生の顔の方が怖かったです。

 普通の四歳児だったら泣いているから。


「では、その魔法陣の構成じゃが、これは四つに分けられる」


 一つ目が、魔石から魔法陣にエネルギーを供給するための回路の役目を果たす供給文様と呼ばれる文様。


 二つ目が、魔法陣本体で魔石のエネルギーを循環させる二重の魔法円、および、魔法陣の中をエリアごとに分ける直線で描かれた六芒星や八芒星。


 三つ目が、六芒星や八芒星で区切られたエリアに記されている、魔石のエネルギーを物理現象に変換する回路の役目を果たす魔法文字の命令文。

 この魔法文字は、太古から存在する神秘の文字と言われている。


 四つ目が、複数の命令文で発生した複数の物理現象を一つに統合して必要な機能を持たせるための、六芒星や八芒星で区切られたエリア同士を結びつける接続文様と呼ばれる文様。


「魔道具師には独特のセンスが必要じゃ。知識があるのは大前提。魔法陣を描くには、やはりセンスがなければ話にならん。六芒星や八芒星で区切られた、どのエリアにどの命令文を記述し、どう接続文様で結びつけるのか。シンプルでスッキリと分かりやすく、機能的に配置する必要があるからじゃ」


 オーバン先生がランプを分解して、魔法陣を取り出し見せてくれた。


 魔道具は高価で貴重品だから、これまで分解させて貰えなかったのよね。

 だから、中身の魔法陣を手に取って見るのは初めて。


 このランプの魔法陣は、六芒星や八芒星じゃなく、シンプルに三角形一つだけで区切られていた。


 一つのエリアには、魔石を光らせる命令文。

 一つのエリアには、どんな方向に明かりを向けるかの命令文。

 一つのエリアには、どんな色の明かりにするかの命令文。


 その三つのエリアが全て、三本の接続文様で繋がっている。

 明かりを灯すだけの魔道具だから、魔法陣はこれだけシンプルなのね。


「このセンスがない奴は、接続文様が無関係のエリアを跨いで、そのエリアの命令文と統合させないための接続文様をさらに描くことになり、ゴチャゴチャと分かりにくく、暴走や爆発事故の最たる原因になる。よって、既存の命令文や魔法文字の意味を頭に叩き込むと同時に、この記述と配置のセンスも同時に鍛えていくからそのつもりでおるように」


 またしても怖い顔で脅すように身を乗り出してくるオーバン先生に、思わず仰け反ってしまう。


「は、はい、おーばんせんせい」

「うむ」


 このいちいち怖い顔で脅してくることがなければ、いい先生なんだけど……。

 こうして私は本格的に魔道具を作るための勉強に入ることになった。


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