82 新しい日課

 あけましておめでとうございます。

 予定通り、更新再開します。

 引き続き応援よろしくお願いいたします。


 第八十二話から始まる四十話程度のざっくり文庫本一冊程度を、毎日投稿する予定です。


 それから、色々調べていくうちに数え間違いと新事実が判明したので、


  30 船と港の視察 本番 3    横帆の枚数を十五枚 → 十六枚

  37 閑話:ポセーニアの聖女    舵輪 → 舵櫂


 以上の修正を入れています。

 話の内容に変更はありません。

 ただ37は後日投稿する帆船の仕様に関するエピソードで、舵輪のままだと矛盾するので、ご注意をお願いします。


――――――――――




 お勉強にお仕事にと、相変わらず私は忙しい。

 一つ仕事が終わるとすぐ次の仕事が出てくるし、もうこれ以上教えることはないと講師に言われてその勉強が終わったら、その時間には次に知っておきたい勉強を新たに入れている。

 ヒロインのノエルがアテンド男爵の養女にされるまで、もう四年もないし、陰謀が企まれて動き出すまで、多分三年かそこらしか時間が残されていないと思うから。


 我ながら、六歳児の忙しさじゃないわよね。

 でも、そんな私の日々の疲れを癒して一日の活力を与えてくれる、とっても素敵な新しい日課が出来た。


「おはようございます、パパ、ママ」

「ああ、おはようマリー」

「おはようマリー。今日も可愛いわ」

「えへへ、ママも今日も綺麗です」


 食堂へ顔を出して、いつもの朝の挨拶を済ませると、その新しい日課のためにお母様の側へ一直線に向かった。


「おはよう、お姉ちゃんだよ」


 そして、お母様の大きくなったお腹を優しく撫でて、お腹の赤ちゃんに声をかける。


 そう、これが私の新しい日課だ。


 日に日に大きくなっていくお母様のお腹。

 前世では二人兄妹だったから、小さい頃は弟か妹が欲しかったのよね。

 それがこんな形で適うなんて。

 こんなに嬉しいことはないわ。


「マリーは弟と妹、どっちがいいんだい?」


 お父様、それは愚問というものよ。


「どっちでも! だってパパとママが私を愛してくれたみたいに、私も全力で愛してあげるから!」

「ははは、そうかそうか」

「ふふふ、マリーったら」

「弟だったら、立派な跡継ぎになれるように、お勉強から領地経営の仕方から、いっぱい教えてあげるの! 妹だったら、世界一のお姫様になれるように、礼儀作法に所作にダンスに、お勉強だって、いっぱい教えてあげるわ! 私に負けないくらいに!」


 フンスと胸を張る。


「そ、そうか……マリーに負けないくらいにか」

「ほ、ほどほどにね、マリー?」

「そうですな。ほどほどがよろしいかと」

「ほどほどにしておくべきですね」

「お嬢様、本当にほどほどにしておきましょう?」

「ちょっと、なんでセバスチャンとフルールとエマまで!?」


 もう、失礼しちゃうわね、まるで私を問題児みたいに。

 まあ……ちょっとやり過ぎている自覚はあるから否定は出来ないけど。


 ともかく、弟か妹か、さすがに生まれてくるまで分からないけど、元気で生まれてきてくれるなら、本当にどっちだって構わない。


「早く会いたいな。生まれてきたら、お姉ちゃんといっぱい遊ぼうね」


 だから、こうして撫でて声をかけると、毎日気持ちを新たに出来る。


 もしゲーム通りに破滅を迎えたら、その時、弟か妹は多分八歳か九歳だ。

 その歳になっていたら、処刑はもう逃れられないかも知れない。


 そんなの、冗談じゃないわ!


 お姉ちゃんとして、そんな未来は当然、断固拒否!

 つまり、これまで以上に負けられない戦いになったと言うわけね!


 もちろん、お母様の親友で侍女のフルールとそのお腹の子のためにも、断固計画を完遂する所存よ。


「マリーお姉ちゃんがいっぱい遊んでくれるそうよ。楽しみね」


 お母様も愛おしそうにお腹を撫でて、お腹の赤ちゃんに声をかけた。

 そんなお母様と私を、お父様が愛おしそうに見つめている。


 こんな温かで幸せな毎日を、血と悲しみで染めてなるもんですか!


「お嬢様、朝食の支度が整いましたよ」

「うん、ありがとうエマ」


 朝の日課をしている間に、どうやら全員分の朝食の準備が整ったみたい。

 私が席に着いたらみんなで食前のお祈りをして、それから朝食が始まる。


 今日もいっぱいお勉強と習い事とお仕事があるから、新たにした決意に合わせて、ついつい食べるペースが早くなっちゃうわ。

 もちろん、公爵令嬢として恥ずかしくないよう、きっちりマナーを守りながら、優雅にだけどね。


 でないとお母様に叱られて、お仕事禁止令を言い渡されちゃうから。

 それに、ちゃんと味わって食べないと、作ってくれたシェフに申し訳ないもの。


「ご馳走様でした。今日も美味しかった」


 ポンポンになったお腹を撫でて、食後のお茶を飲んで一服してから椅子を降りる。


「エマ」

「はい。本日は、午前中にヴァンブルグ帝国語、ヴァンブルグ帝国の歴史、ヴァンブルグ帝国のマナーについての授業があります。その後は礼法の授業で、午前は終了です。昼食後、午後はいよいよお嬢様お待ちかねの、馬術の稽古、続けて剣術の稽古となっています」

「馬術! 剣術!」


 食堂の出入り口に向かっていた足が思わず止まって、お父様を振り返る。


「実は指導役は早くに決めていて、是非任せて欲しいと快諾も貰えていたんだが、向こうの都合もあってなかなかすぐにとはいかなくてね。一昨日ようやくこちらに到着したところだ」

「ありがとうパパ! 大好き!」


 お父様の所に駆け戻って、抱き付いて頬にキスをする。


 これでやっと、馬術と剣術の訓練が始められるわ。


 それで両方ともある程度形になったら、次は、槍術、弓術、拳銃の射撃、軍略と指揮のお勉強よ。

 国立オルレアス貴族学院初等部に入学する年齢になる前に、実技でも高等部卒業資格を取得しておきたいもの。

 貴族学院に入学しないと言うオプションや、授業に出なくてもお仕事が出来る時間を一コマでも多く作り出せるように。

 だから、どれも効率的に学んでいかないとね。


 早速頭をお勉強モードに切り替えて、前へと踏み出す。

 さあ、今日も一日頑張るわよ!


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