121 出港!
船長さんに案内されて、私達はタラップを上がって船に乗り込む。
船上では、船員達が迷うことなくキビキビと動いて、出港準備を進めていた。
建造中とは違って、帆がヤードの上のジャック・ステイにくくりつけられているし、操作するたくさんのロープと索具、魔道具のウィンチがあって、マストを支えるロープや縄梯子で視界はいっぱいだ。
さらに各所に浮き輪と救命ボートが備え付けられていて、万が一の時もバッチリね。
「お嬢様、こちらをどうぞ」
若い船員さんが近づいてきて、私にライフジャケットを手渡してくれる。
万が一があったら大変だものね。
「ん……? あら、あなたは確か……ジャン達のリーダーさん?」
「覚えててくれたんですか? ありがとうございます!」
なんだかすごく嬉しそうにお辞儀をしてくれる。
開校式で会った時と違って、貧民街出身らしい粗野な感じが抜けて、ちょっとだけ紳士的な振る舞いが出来るようになったみたいね。
他にも、お父様達にライフジャケットを配っている若い船員さん達はみんな、見覚えがあった。
「そう、言葉通り、努力されたんですね」
「はい、お嬢様がくれたお言葉通り、チャンスをものにするために!」
「チャンスをくれたお嬢様に、がっかりされたくありませんでしたから」
「あの時のお嬢様の言葉がなかったら、そんなこと考えもしないで、卒業したら雇われるもんだと勘違いしたまま、適当にやってたかも知れないです」
「はい。今の俺達はなかったと思います」
言葉から、真面目に努力して勉強してきたのが伝わってくる。
元からジャン達みたいな小さい子達の面倒を見ていたんだから、根は真面目でいい子達ばかりだったんだもの、努力が報われて本当によかったわ。
「みんな、おめでとう」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
うんうん、気持ちのいい人達ばかりね。
「ところで……」
周囲を見回した私に、リーダーさんが苦笑する。
「さすがにジャン達はまだ小さいんで、正式な船員としては無理で」
「ああ、そう言えばそうね」
すでに私がこれだけ働いているからつい忘れがちになってしまうけど、ジャン達はまだ七歳や五歳くらいだから、さすがに正式な船員としては雇えないんだったわ。
「でも、いつか必ず雇って貰って、お嬢様を驚かせるんだって、今もみんなで頑張っていますよ」
「そう、それは再会が楽しみだわ」
ちょっと懐かしい再会もあって、出港準備は着々と進んで行く。
そして。
「
船長さんの張り上げたお決まりの台詞が響き渡る。
そこから矢継ぎ早に指示が下されて、各所で復唱されていき、船上はにわかに騒がしさを増した。
船員の一人にウィンチのレバーが倒されると、ウィンチ自体は静かなままだけど、錨を繋ぐ太くて大きな鎖がギャリギャリと金属質の音を立てながら巻き上げられていく。
さらに船員達が縄梯子を伝ってマストを登ると、安全ベルト着用の上でフットロープを伝って素早く移動して、ジャック・ステイにくくりつけられている帆を縛っているロープを解いて、次々と帆を降ろしていった。
「サイドスラスター起動、
「アイアイサー! サイドスラスター起動、バウスラスター、スターンスラスター、共に面舵微速!」
「サイドスラスター起動、バウスラスター、スターンスラスター、共に面舵微速、ヨーソロー!」
操舵手が推進器の制御装置の起動スイッチを入れて、前後両方のスロットルレバーを、ニュートラルから右側へ一段階動かした。
すると、これも静かなままだけど、船体の前後にある船底を左右に貫通した穴から弱い水流が左側へ噴き出して、ゆっくりと横に滑るように船体が浮き桟橋から離れていく。
「バウスラスターを面舵半速、スターンスラスターを取舵半速」
「アイアイサー! バウスラスターを面舵半速、スターンスラスターを取舵半速!」
「バウスラスターを面舵半速、スターンスラスターを取舵半速、ヨーソロー!」
そうして浮き桟橋から十分に離れたら、今度はスロットルレバーを前を右側へもう一段階、後ろを左側へ二段階入れた。
それに合わせて、船体が時計回りにゆっくり回転していく。
途中でカウンターを入れるように、今度はスロットルレバーを逆に入れると、船体が回転する速度が落ちていって、
「すごい……船がこんな動きをするなんて!」
「これがマリエットローズ様が開発された魔道具……マリエットローズ式ウォータージェット推進器の性能か……!」
ジョルジュ君、大興奮。
シャット伯爵も常識外れの操船と船の動きに、愕然としているわね。
「マリーから直接話を聞いて分かってはいたが……実際に見ると驚きに声が出ないな」
「ええ……とっても不思議。でも楽しいわ」
「だぅ、あぅ~♪」
みんな驚いているわね。
エマもアラベルも、すごいって呆然と呟いている。
かく言う私も体験するのは初めてだから、テンションは鰻登りよ!
「船長さん! 出港の合図は私、私に言わせて下さい!」
思わず手を挙げて、ピョンピョン跳ねながら無茶を言ってしまったわ。
「おお、それでは是非、マリエットローズ様にお願い致しましょう」
船長さん、いい人ね!
お父様を見上げれば、仕方ないなって顔で苦笑している。
お父様の許可も出たことだし、いくわよ!
コホンと咳払いして喉の調子を確かめてから右手を高く大きく挙げ、勢いよく前へと振り下ろした。
「ショートクリッパー型魔道帆船、練習船一番船、
復唱と帆の操作の命令が伝達されて、各所のウィンチが操作されて帆が向きを変えると、遂に練習船が、未来への架け橋号がゆっくりと前へ進み出した。
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