135 陰謀の裏を読む
2023/04/20
皇太孫の使い方を間違っていたので、以下の話で皇太孫を皇子に修正しました。
78 マリエットローズの婚約者の条件
113 マリエットローズの幸せを考える
125 パーティーへの招待
126 マリエットローズのお見合いの可能性
127 陰謀かただのお見合いか、それとも悪女プレイか
話の内容に変更はありません。
――――――――――
どうすべきか頭を悩ませて、ふと気付く。
「お父様、裏でヴァンブルグ帝国が糸を引いている可能性はありませんか?」
その可能性は、当然お父様もお母様も考えていたみたい。
「パーティーに参加するために王都へとやってきたこのタイミングでのことだからな。マリーもいいところに目を付けられるようになったようだ」
そう、お父様が頭を撫でてくれる。
照れる。
でも嬉しい。
お父様は少し考えた後、私にレクチャーするように言葉を続ける。
「ただ、その可能性はゼロではないが……かなり低いだろう。しかしそう判断を下すには情報が足りていないから、可能性を排除してはならないが」
かなり低い、排除してはならない、と言いつつ、その可能性は全くないって思っていそう。
お母様も、お父様と一緒に頭を撫でてくれる。
「仮にそうだとしたら、あからさますぎるものね」
「あからさますぎ、ですか?」
「ええ。このタイミングでだなんて、自分達を疑ってくれと言っているようなものでしょう?」
言われてみれば。
私でも気付いたくらいだものね。
「仮に賢雅会へ疑いの目を向けさせて、自分達が魔石を融通することで恩を売るつもりだったとしても、このタイミングではどうしてもわたし達は警戒せざるを得ないわ」
「そうだな。あわよくば私達を取り込もうとしているのに、その私達をこんな方法で妨害して自分達が優位に立とうとしていては、まとまる話もまとまらなくなる」
「力のない領地や小国相手なら、たとえ見抜かれても力の差で押し切れるでしょうけど、衰えたと言えど、わたし達はさすがにそこまで弱くないわ」
確かに、力も立場も弱いとそんなあからさまな手でも抗えなくて、従うしかなくなってしまう。
そんな手に負けないためにも、やっぱりゼンボルグ公爵領を豊かにしないと。
「だからもし事が露見すれば、取り込むどころか対立は必至よ。わざわざこんな分かりやすく、リスクが高い真似をするかしら?」
もしヴァンブルグ帝国の仕業だと露見したら、今後私達がヴァンブルグ帝国を信用することは二度となくなる。
マッチポンプにしても、お母様の言う通り、ちょっとお粗末かも。
「それ以前に、ヴァンブルグ帝国が手を結ぶとしたら私達を選ぶだろう。そして賢雅会の力を削る。その方が手間がない」
「うちの方が手間がない、ですか?」
「そうだ。ゼンボルグ公爵家と手を結べば、ゼンボルグ公爵派の貴族の全てがゼンボルグ公爵家の指示に従い動く」
それはつまり、かつてのゼンボルグ王国が動くと言うことよね。
「しかし賢雅会は所詮、利権による結びつきでしかない」
「もし賢雅会を取り込んで動かすのなら、その対価がとても面倒よ。最悪、個別に交渉して利害を調整する必要があるわ」
「それは……とても面倒臭そうでしたくないです」
だって、絶対に揉めるのが目に見えいているもの。
「……ここまでの話から考えると、もっと他にやりようがあるって感じますね」
「その通りだ。だからヴァンブルグ帝国が裏にいる可能性はかなり低いと言える」
疑うにしても、ただ疑うだけじゃ駄目。
相手の労力や、メリット、デメリットも考えないといけないのね。
それを考えると、確かに可能性はかなり低そう。
「もっとも、どこにでも浅慮で度し難い者はいるものだからな……」
「そうなのよね……」
急にお父様とお母様が、うんざりと言うか、げんなりと言うか、遠い目をする。
世の中には本当に、信じられないような馬鹿な真似をする人っているのよね……。
二人とも、その手の人達に悩まされたことがあるのかも。
だから『可能性はゼロではない』わけね。
「それに賢雅会の貴族達も、ヴァンブルグ帝国を警戒している。自分達の市場を奪われ、食い荒らされかねないと」
「その点、わたし達は一応の配慮はしているわ」
うん、利権絡みの所に手を出さない、みたいにね。
「だから、いくら私達が目障りだとしても、賢雅会がヴァンブルグ帝国と裏で通じて手を結ぶとは考えにくい」
そっちの可能性からも考える必要があるのね。
「むしろ私達にヴァンブルグ帝国を疑わせ、ヴァンブルグ帝国からの魔石の輸入を妨害することも同時に狙っている、そう考えた方がしっくりくる」
「そうね。わざわざこのタイミングだものね」
なるほど……そういう可能性もあるのね。
だから賢雅会の特許利権貴族達は売り上げが大きく落ちても、このタイミングで魔石を売らない方法を選んだ、そして選べたのね。
裏を読み始めるときりがないけど、裏を読まなくてはしてやられてしまう。
してやられないためには、ちゃんと学んで対処出来るだけの知識が必要だわ。
そして、どこまで読んだかで取る対策も変わってくる。
「勉強になります」
しみじみ頷くと、お父様とお母様が、微笑みながらまた私の頭を撫でてくれる。
貴族って、本当に大変だわ。
ただ、ここまでの話は、どれだけ確度が高くても飽くまでも予想の域を出ない。
「一応、それって確かめられないんですか?」
ヴァンブルグ帝国は白で、やっぱり賢雅会が黒だってことを。
得られるなら、確信を得たいわ。
「それを確かめるために探りを入れるにしても……時期が悪いわね」
「ああ。パーティー開催直前に裏で動けば、あらぬ誤解を与えかねない」
お父様もお母様も、ものすごく難しそうな顔になる。
「誰にどんな誤解を与えてしまうんですか?」
「ヴァンブルグ帝国側には、皇太子殿下、皇子殿下を害する意図があるのではないかと疑われる可能性がある。そしてオルレアーナ王家には、ヴァンブルグ帝国と裏で手を結ぶために動いているのではないかと、疑心暗鬼を生じさせる可能性がある」
「それは……ものすごく面倒なことになりそうですね」
本当に、時期的に下手な真似は出来ないのね。
それも計算の上で仕掛けてきたのだとしたら、賢雅会の特許利権貴族達って本当に陰険だわ。
普段から、こんな陰謀ばっかり考えているのかしら。
「お父様、私に何か出来ることはありませんか?」
ブルーローズ商会は私の商会で、魔道具開発も私の仕事なんだから、一番に私が動かないと。
だけど情けないことに、今の私に何が出来るのか考えもつかない。
「ありがとう、マリー。しかし今すべきは、相手の商会と根気よく交渉を続けながら、他の輸入先を探すこと。そして賢雅会の貴族達の動向を探り、今回の件を止めさせるための情報を掴むことだ。その場にマリーを同席させて、万が一でもマリーの才能を知られるわけにはいかない」
「そうよ。気持ちは嬉しいけど、今、マリーは動くべきではないわ。マリーがすべきなのは、また魔石を買えるようになった時に素敵な魔道具を開発することよ。だからそのためのアイデアを温めておいてね」
「マリアの言う通りだ。だからそんな顔をするな。大丈夫、なんとかするから私達に任せておきなさい」
「……はい」
お父様とお母様にそう諭されしまっては、私も勝手には動けない。
だって、二人とも私の身を案じてくれているんだもの。
自分で自分の身を守れない子供でいることが、なんだかすごく歯がゆいわ。
これは、呑気に王都観光している場合じゃなくなってしまったわね。
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