134 反撃への対策
◆
賢雅会の特許利権貴族達のやり口は頭に来るし、恨み言もいっぱい言いたいけど、感情的になって愚痴を零しているだけでは、状況は何も変わらない。
だって、貴族相手の商売で、作れません売れませんなんて信用ガタ落ちよ。
とにかく、なんとか手を打たないと。
「それで、対策は?」
お父様の腹立たしさを抑え込んだ問いかけに、エドモンさんが難しい顔をする。
「交渉は続けていますが、どの商会も『魔石の価格が下がったから産出量を調整したら、逆に品不足になってしまった。ブルーローズ商会に回せるほど在庫はない』と口を揃えて言うだけで、現時点での買い付けは難しそうです」
「本当に産出量を調整しているのかしら?」
お母様の疑問ももっともだ。
これまでだってジリジリと市場価格が下がっていたにも拘わらず、産出量を変えず市場に流していたのに。
その分、魔道具の外側の色やデザインを変えながら自分達で流行を作って、ある程度の販売数を維持していたみたいだけど。
それでも魔道具の販売数より魔石の産出量が多くて価格が下がっていたのは、新作モデルと型落ちの違いが見た目だけで性能が同じだから、思うほど販売数が伸びていないせいでしょうね。
「調べても、産出量を調整したとの話は出てきません。
私もそう思う。
でも、魔石利権は特許利権と並ぶ大事な収入源。
だから、このやり方は諸刃の剣のはず。
「市場に出ている魔石のうち、
お父様の確認に、さすがその数字が頭に入っていたみたいで、エドモンさんはすぐに答えてくれた。
「およそ二割ほどになります。参考までに、およそ六割から七割程が王国軍や各地の領軍が、残りおよそ一割から二割が賢雅会の貴族が自分達の魔道具に使っています」
「うちで使う量はそれほどになっていたのか」
「どの軍でも使う量が極端に減っていることも大きいかと」
今は大きな戦争をしなくなって、訓練くらいでしか使わないものね。
それにしても、賢雅会の特許利権貴族達全てを合わせても、ゼンボルグ公爵家一つに負けているんだから、今、うちの商品がどれだけ売れているか分かると言うものよね。
そもそも、ブルーローズ商会が買うようになった分は、ドライヤーなど既存になかった魔道具を見れば分かるとおり、これまでの販売数に大きく上乗せする形になっている。
つまり、市場規模それ自体は大きく拡大しているの。
もちろん、うちが魔道具を売り出したことで、多少は特許利権貴族達の魔道具の販売数は落ちているでしょうね。
特に送風機や保冷箱などは、風前の灯火になってしまったみたいだけど……。
でも、役所などの利権絡みのところには手を出していないのよ。
変更機構を組み込むのに向かない魔道具や、変更機構を組み込んだ自分達の魔道具の販売もあるのだし、うちへの魔石の売り上げを考えれば、最終的には決して大きな損失にはなっていないはず。
もしかしたら、
だから、私達に魔石を売るのを止めてしまえば、大きく売り上げを失うことになる。
じゃあ私達に魔道具を作らせなければ、それで販売数が落ちた自分達の魔道具がまた売れるようになるかと言えば、決してそうはならないでしょうね。
それなのに、私達には魔石を売らないと決めた。
つまり、そこまでしてでも私達の邪魔をしたかったのね。
こちらは極論、特許使用料さえ払ってくれれば収入が途絶えることはない。
だから、そういう意味では最悪と言うほどの事態ではないけど……。
「このまま好きにさせておくわけにはいかないな」
「そうね。これで手を引いては、ゼンボルグ公爵家が舐められてしまうわ」
お父様もお母様も、貴族の
私も、このまま引き下がるなんて面白くないわ。
だからエドモンさんに尋ねる。
「この事態は、これまで敵対する賢雅会の貴族達からしか魔石を購入してこなかった、私達のリスク管理が甘かったことも一因だと思います。リスクヘッジのために、他にも購入先を探すべきでした。今後のためにも、どこか他に購入の宛てはありますか?」
「真っ先に思い付くのはヴァンブルグ帝国です」
エドモンさんも当然考えていたみたいで、すぐに答えてくれる。
ただし、ちょっと苦い顔でだけど。
「ですが輸送費を考えるとかなり割高になると思います。そして価格も、かなり足下を見られるかと」
「そうだな。さらに便宜を図る見返りにと、どのような要求をされるか分かったものではない」
「弱味を見せるわけにはいかないわね」
お父様もお母様もその選択肢は受け入れがたいと言う顔で頷いた。
「しかも、魔石の輸送は海運でいくしかないが、私掠船に襲われたり、臨検で奪われたりする可能性も高い」
「当然してくるわね。とてもリスクは高いわ」
賢雅会の貴族達が裏で糸を引いている私掠船や海賊船、そしてブルーローズ商会の船を狙い撃ちした臨検と言うことね。
「もっとも、いよいよとなれば、その選択を取らざるを得ないが……」
ゼンボルグ公爵領は陸路でも海路でも交易路の終点だから、どうしても取れる選択肢が限られてしまう。
本当に厄介なことをしてくれたものだわ。
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