57 魔道具の歴史と特許

 この世界の魔道具の歴史は古い。


 魔法陣に使われている命令文の魔法文字、それを発音して魔法として使っていた民族が、魔石を利用して作っていたのが魔道具だ。

 およそ数百年とも言われる昔のことになる。


 その当時、その民族達は、光を灯す、火を付ける、水を出す、などの生活を便利にする道具として利用していた。


 それに目を付けたのが時の権力者だ。

 その魔道具を兵器として利用することを思い付き、その民族を取り込み従わせようと画策した。


 だけど、それは拒否されてしまう。

 その民族達は、魔法という超常的な力が、便利で生活を向上させる反面、容易に人を傷つける危険な力だと理解していたから。


 そうして戦争になる。


 その民族は侵略に対抗するための武器として、魔道具兵器を開発した。

 奇しくも、時の権力者が望んだ物を発明し、時の権力者はそれに自分達が苦しめられるという憂き目に遭ったわけだ。


 だけど、結局はその民族は滅ぼされてしまった。


 わずかな生き残りは奴隷として扱われ、魔道具を作る技術を時の権力者に伝えることになってしまう。

 そして、時の権力者は多くの国々を征服し、一大帝国を築き上げた。


 その帝国も、結局は内乱で滅んでしまったけど。


 その内乱で反乱軍が勝利したのは、やはり魔道具兵器のおかげだったと言われている。


 そんな歴史があるから、後に誕生したオルレアーナ王国は、魔石の使い方を兵器のみに制限し、同時に魔道具兵器の保有数を管理するようになった。

 当時の国王が魔石を一般の魔道具に使わせなかったのは、当時はまだ魔石の産出量が少なかったこともあるけど、反乱勢力に一般の魔道具の魔石を不正所持する魔道具兵器へと転用させないため。

 そして魔石を全て魔道具兵器のために使い、侵略を繰り返したかったからだと言われている。


 オルレアーナ王国がゼンボルグ王国を侵略したのも、口減らしや穀倉地帯狙いだけじゃなく、ゼンボルグ王国で魔石が産出されるから、ゼンボルグ王国が大量に魔道具兵器を保有してオルレアーナ王国を脅かすことを恐れた、と言う理由もあった。


 そうして手に入れた魔石を使い、オルレアーナ王国はさらなる侵略を繰り返し、ヨーラシア大陸の西側――およそ前世の西欧各国を合わせたヨーロッパの半分――を支配下に置いた。


 だけどそこで侵略戦争は行き詰った。

 大国、ヴァンブルグ帝国と国境が接してしまったからだ。


 オルレアーナ王国とヴァンブルグ帝国が戦火を交えたら、どれほどの甚大な被害が出るか分からない。

 お互いの国力を考えるに、果てしなく戦争が続くと思われた。

 だから両国はお互いの領土を不可侵とする条約を締結し、混迷の大戦は回避された。


 ただ、ここで一つ問題が発生する。


 魔石は使い捨てだ。

 内包するエネルギーを使い切ったら、ただの石ころと変わらない。

 だから、戦争を続ける限り需要はなくならず、魔石鉱山を保有する貴族はその利権で莫大な富を築いていた。


 ところが、戦争をする相手がいなくなってしまっては、魔石を消費しなくなるのだから魔石が売れなくなってしまう。

 そんな事態を、魔石利権を持つ貴族達がよしとするわけがない。


 そうして魔石利権を持つ貴族達が王国に働きかけたことで、ようやく魔石を一般の魔道具として使用する許可が下りることになったわけだ。


 魔石利権を持つ貴族達は、そこでさらに考えた。

 一般の魔道具のエネルギー消費は兵器と比べて小さいため、少々一般の魔道具が普及したところで、以前ほどの利益は得られない。

 だから、一般の魔道具、およびそれに使われている技術についての知的財産を守る、と言う名目で、特許と言う仕組みを考案した。

 そして、真っ先に特許を取得していったわけだ。


 こうして、現在出回っている一般の魔道具の特許の大半が、その魔石利権貴族達の物となっている。


 しかもこの特許、仕組みがとても嫌らしい。


 特許申請されたその技術や魔道具そのものを模倣して売り出す場合は特許使用料を支払い、勝手に模倣してはいけない。

 特許権を侵害した者には罰金か刑罰を科せられる。

 ここまでは前世の世界とほぼ同じ。


 だけど、その特許権の保護期間は、お金で買えるようになっている。

 つまり、一年でいくら、と。


 魔石利権で莫大な富を築いている貴族達は、必要になれば、いくらでもお金を払って保護期間を延長できる。

 そう、そうやって特許使用料と言う利権まで手に入れたわけだ。


 しかも、お金を持たない者達が開発した魔道具や技術の特許権は、すぐに保護期間が切れてしまう。

 そうして特許権が失われた魔道具や技術は、誰も再び特許申請出来ないようにはなっているけど、その魔道具も技術も模倣した物をいくらでも作って稼げるようになる。


 結局、財力を持つ者達が、ほとんど全ての利権を独占してしまっているわけだ。


 さらに嫌らしい仕組みなのが、特許権を侵害した者に対する罰則も、お金で買えるようになっていること。


 特許申請する際に、同時にどのくらいの罰を与えるか、お金を払えばいくらでも重くすることが出来るようになっているんだから、なんの冗談だって話よ。


 結果、大したお金を持たない平民の特許権を侵害したところで、大した罰則にはならない。

 だけど、財力を持つ貴族の特許権を侵害すると、同じ罪なのに罰則が格段に重たくなる、と言うわけ。


 そうやって、魔石利権に加えて特許利権を持った貴族達は、現在、莫大な富を築き続けている。


 そこに私が風穴を空けるわけだ。


 多分、大きなトラブルになると思う。

 世界の果ての田舎者が、自分達の利権を侵害するなんて許さん、って。


 だから、国王陛下に献上して、私達の味方に……は無理でも、それら特許利権貴族達を抑えるくらいの役目を果たして貰う必要がある。


 そういうわけで私は、お父様とお母様から色々と話を聞いて、セバスチャンにも色々調べて貰って、国王陛下、王妃殿下、王太子レオナードの趣味や好み、欲しい物、現状抱えている問題などの情報収集をして、それに見合った魔道具のラインナップを考えて開発リストに加えることにした。


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