217 お茶会が終わってそれぞれの
その後のやり取りなど、簡単に話し合って決めて、そうして今度こそ本当に解散になった。
「マリエットローズ様のおかげですわ。本当にありがとうございます」
クリスティーヌ様は何度も何度もお礼を言ってくれて、夢心地で帰って行った。
それから、別室でジョベール先生と会っていたミシュリーヌ様も。
「今度は遠乗りと模擬戦しようね!」
お爺様のジョベール先生といっぱいお話をして満足したのか、とても元気いっぱいに帰って行った。
みんな帰ってしまって、なんだかお屋敷がしんと静まり返ってしまったかのよう。
リビングに戻ったら、お母様の隣にべったりくっついて座る。
「あらあら、寂しくなっちゃったかしら?」
「はい、少しだけ……」
お母様が私の頭を撫でて、肩を抱き寄せてくれる。
「とっても楽しかったです」
この世界で出来た、初めてのお友達。
本当に楽しかった。
心が身体の年相応に戻れたみたいに。
「エルちゃん、お姉ちゃんね、お茶会頑張ったよ。すごく楽しかった」
お母様が膝の上に座らせているエルヴェのぷにぷにほっぺをつつく。
「あ~なぁ、んよぉ♪」
何を言っているか分からないけど、楽しげな笑顔だ。
「エルちゃんにも後でお話、いっぱい聞かせてあげるね」
「あぷぅ、んま~ぁ♪」
いっぱいいっぱい、本当にいっぱい、聞かせてあげたいことがあるから。
お母様がしっかりと私を抱き寄せながら嬉しそうに微笑んで、でも、少しだけ申し訳なさそうになる。
「もっと早くからこうしておけば良かったわね」
お母様が気に病むのも分かる。
でも、それは結果論だ。
「パパとママが私を守ろうとしてくれていたこと、ちゃんと分かっていますから」
気にしていませんって、お母様に抱き付いて頬擦りする。
お母様も、私の額に、頬に、いっぱいキスしてくれた。
大丈夫。
お互いにちゃんと想い合っているんだから。
「お茶会はまだ一回目。これから何度も開催して、ご招待されて、もっとたくさんお友達を作ってみせます」
「そうね。これからいっぱいお友達を作りましょうね」
◆◆
「はぁ~……」
帰りの馬車の中。
書類ケースを抱き締めたまま、何度も溜息が漏れてしまう。
マリエットローズ様……素敵な方だった。
天使のように可愛らしく、わたくしなどよりずっと賢く、気品があって、礼法が洗練されていて、とても大人びていて。
あんなにも斬新で美味しいお菓子を作れて。
そして何より、わたくしの絵を……わたくしの『好き』を分かって褒めてくれた。
誰よりも、お父様とお母様よりも、分かって褒めてくれた。
それが何よりも嬉しい。
しかも、憧れのデザイナーに会うことこそ叶わなかったけど、アドバイスを貰えるかも知れないだなんて。
それもこれも、全てはマリエットローズ様の
それなのに。
「お母様の嘘吐き」
「なっ……!? 突然何を言い出すのクリス!?」
「だって、お母様が言っていたことと全然違ったじゃない。マリエットローズ様は知的で、気品に溢れていて、とても素晴らしい方だったわ」
「それは……」
お母様の顔が途端に渋い顔になる。
お母様がいい加減なことを言っていたせいで、わたくし、マリエットローズ様を誤解してしまうところだったわ。
もし誤解したままだったら、マリエットローズ様とお友達になれていなかったかも知れない。
そんなの、絶対に嫌だわ。
「お母様、帰ったらお父様にもしっかり、マリエットローズ様の素敵なところを教えてあげて誤解を解かないと」
「それは……」
「それから小麦ですわ。マリエットローズ様が
「っ……そう、ね……」
お母様ったら、何が気に入らないのか知らないけど、これは絶対にして貰わないと。
「はぁ……すっかり取り込まれてしまって……これもあの子の思う壺……なのでしょうね……本当に末恐ろしいわ」
「お母様? 何か言いました?」
「……いえ、なんでもないわ」
変なお母様。
それより、帰ったら早速マリエットローズ様にお手紙を出しましょう。
今日とても楽しかったことを、そして、言葉では伝えられなかったたくさんの気持ちを込めて。
◆◆
「ねえママ、いつマリーを
「ちょっとは落ち着きなさいミミ」
席から立ち上がったアタシを、ママが押さえ付けるように座らせた。
そのすぐ後、ガタンと馬車が揺れる。
危ない危ない、座ってて良かった。
「これからマリエットローズ様は忙しくなるでしょうから、当分の間、お招きするのは無理よ。もちろん、またご招待戴くのもずっと先でしょうね」
「えぇ~~!」
「仕方ないでしょう。マリエットローズ様とお茶会をしたい方々は、いっぱいいらっしゃるのよ」
「う~ん……そっかぁ」
マリーは天使みたいにすっごく可愛かったもんね。
みんな、マリーと会いたいよね。
しかもあんなに美味しいお菓子が食べられるんだから、みんなマリーとお茶会したいよね。
「ちぇ……」
「そんなにマリエットローズ様とお友達になれて良かった?」
「うん♪」
もっとマリーと一緒に遊びたいし、お喋りしたい。
みんながマリーとお茶会したくなるのも分かるけど、アタシの方がもっともっとマリーと仲良くなりたいんだから。
「あ……」
最後のお見送りの時、マリーの後ろに立ってた格好いい護衛の女騎士……。
「アタシ、騎士になろうかな……」
「……え? 突然どうしたのミミ!?」
そうしたら、もっとずっとマリーと一緒にいて、一緒に遊べそうじゃない?
◆◆
「母さま」
馬車に揺られながら、隣に座る母さまに身を擦り寄せる。
「あら、どうしたのソフィ。甘えちゃって」
「今日、すごく楽しかった……こんなに楽しいお茶会、本当に初めてだった」
「そう……良かったわね」
すごく優しい顔をして、母さまが頭を撫でてくれる。
「うち、マリエットローズ様、好き……」
「そう……ええ、そうね」
だってマリエットローズ様は、一度もうちを馬鹿にしなかった。
田舎者とも、牛臭いとも……手足が太いとも、太ってるとも、背が高いとも、ソバカスが可愛くないとも、そんなこと、一言も言わなかった。
マリエットローズ様が向けてくれた笑顔を思い出すと、胸がドキドキする。
とても優しくて、温かくて、安心出来る、素敵な笑顔だった。
「うち、いっぱいお話し出来たよ」
「そうね、母さまもビックリするくらい、お話し出来たわね」
いつもなら、悪口を言われて、俯いて、小さくなって……。
ほとんど何も喋れないまま、周りが何を喋っているのか耳にも入れたくなくて聞きもしないまま、早く終わってって、そればかり願っているのに。
それなのに今日は、自分でも気付かないうちに顔を上げていた。
自分のことを喋っていた。
みんなのお喋りを聞いていた。
お話に加わろうと、自分から声を出していた。
その上まさか、みんなで一緒にケーキを作って食べるだなんて。
そんなの初めてだった。
「ああ……楽しかったなぁ」
苦手だったはずのクリスティーヌ様やミシュリーヌ様とまで一緒に、あんなにお話が出来るだなんて、思ってもみなかった。
「ねえ母さま、帰ったらクッキーとケーキ作りたい……マリエットローズ様が作ったみたいな……ううん、負けないくらい美味しい、ゼンボルグ公爵領の名産って言って貰えるくらいの、クッキーとケーキを」
「!? ええ……ええ、そうね、腕によりをかけて作りましょう」
母さまがうちを強く抱き寄せて、頭を撫でてくれた。
なんだかすごくそうしたくなって、母さまに頬擦りする。
いつかマリエットローズ様に食べて欲しいな。
そして、美味しいって、驚かせてあげたい。
うちがいっぱい驚いたみたいに。
「マリエットローズ様、喜んでくれるかな……?」
「ええ、絶対に喜んでくれるわ」
「うん」
喜んでくれるといいなぁ。
ううん、絶対喜んで貰うんだ。
うちに向けてくれた、マリエットローズ様のあの笑顔をまた見たいから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます