54 初めての魔道具 1



 私は六歳になった。



「やった……出来たぁーーー!!」


 私はランプを掲げて、はしたないくらい大歓声を上げてしまった。


「うむ。よくやったマリエットローズ君。実に素晴らしい!」


 お褒めの言葉を貰えて、ランプを抱き締めながらオーバン先生を振り返る。


「ありがとうございました! オーバン先生のおかげです!」

「なんの、儂はちょっとアドバイスをしたに過ぎん。全てはマリエットローズ君の類い希なる発想と、それを実現するための理論構築、そして研究の賜物だ。君はたった六歳にして、この儂を、いや世界中の魔道具師を越えた。これは魔道具の歴史を変える快挙だ。大いに誇るがいい」

「ありがとうございます!」


 オーバン先生にここまで手放しでべた褒めされるなんて、ビックリするのと同時に、すっごく照れ臭いけど、すっごく誇らしい。


 そう、遂に私は、私自身が設計し開発した魔道具を完成させた。


 一見すればどこにでも……はないけど、すでに売り出されている既存のランプと変わりないように見える。

 だけど、私の前世の知識の粋を集めた、そして既存にない機能を詰め込んだ、全く新しいランプだ。


「あの、オーバン先生」

「うむ。閣下と奥方様に見て戴くと良かろう」

「はい! エマ、お願い!」

「はい、お嬢様」


 控えてたエマにワゴンを運んで来て貰うと、それぞれ色やデザインが違う三つのランプを置くと、布を被せて隠した。


「こんなに素敵なランプ、旦那様も奥様も、きっと驚かれ、大変喜ばれると思いますよ。楽しみですね」

「うん!」

「どれ、儂も行くかな。閣下と奥方様の驚く顔を是非拝見したい」


 ニヤリと悪戯っぽく笑うオーバン先生に思わず苦笑が漏れてしまう。

 相変わらずなお人だ。


 エマに先触れを出して貰って、お父様とお母様にリビングに集まって貰うよう伝言を頼む。

 それから、エマにワゴンを押して貰って、意気揚々、リビングへと向かった。


 リビングに着くと、すでにお父様とお母様が待っていてくれた。

 二人に紅茶を淹れているセバスチャンも一緒だ。


「やあマリー、遂に魔道具を完成させたそうだね」

「まだ六歳なのにすごいわ。さすがわたし達の娘は天才ね」


 お父様は興味津々で、お母様はもうにっこにこだ。


「はい、私が初めて一から設計し完成させた魔道具です! パパ、ママ、ご覧下さい」


 真っ平らな胸を張って、自信満々、エマを振り返る。


「エマ、お願い」

「はい、お嬢様」


 エマがワゴンを二人の側まで運んで、ランプが倒れないよう、そっと覆った布を取り去る。


「ほほう」

「まあ!」


 お父様が軽く目を見張って、お母様が頬を紅潮させる。

 既存の魔道具のランプと同じだけど、同じじゃない。


「変わったデザインだが、これはなかなか」

「ええ、とっても可愛らしいわ!」


 そう、まずデザインだ。


 既存のランプは、古めかしい、いかにも中世のデザインだ。

 それは魔道具のランプも変わらない。

 この時代では流行の最先端のデザインなんだろうけど、私にしてみれば、古めかしくアンティークなデザインでしかない。

 そこで、デザインから見直してみた。


 アンティークな雰囲気はそのままにモダンな感じに仕上げて、単なるランプと言うよりもスタンドライトって呼ぶ方が雰囲気に合っている、インテリアとしてお洒落な一品に仕上げたわけだ。

 ちょっと時代を先取りしすぎたかな、受け入れられるかなと不安もあったけど、二人の反応を見れば杞憂だったみたいで安心した。


「手に取って確かめてみて下さい」


 お父様とお母様がそれぞれ一つずつ手に取る。

 それも、私が狙っていた通りのそれを。


「ボタンでオンオフするのは変わらないね。魔石が光るのも同じだ。ただ、魔法陣が逆向きに設置してあるな。それも、くぼみではなくて、穴を空けて嵌め込んでいるね?」

「はい、そこがこのランプのミソです」


 既存の魔道具のランプの構造は、魔法陣を上向きにして、その中央のくぼみに魔石を置いて、スイッチのオンオフで、魔石を下げて接触させ、持ち上げて離す。

 魔石のエネルギーがなくなれば、その魔石を交換すれば再使用可能になる。

 交換は、ガラス張りのカバーをかぱっと外すだけなんで、お手軽な構造だ。


 その基本的な構造は変わらないけど、私が製作したランプは魔法陣を逆向きに設置して、魔法陣の中央に魔石が落ちない程度の穴を空けて、そこに嵌め込む形式を採用した。


「それに、ボタンが多いわね。オンオフの他に、三つもあるわ」

「はい、そこが私のオリジナルです」

「押してみてもいいかしら?」

「はい、押して確かめて下さい」

「じゃあ押すわね、えい。まあ!?」


 お母様の驚きの声に、思わずしてやったりと笑みがこぼれた。


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