140 幼気なレオナード殿下を惑わす悪女?
私の名前が付いていたから、私が作ったと思ったの?
なんだもう……焦って損したわ!
さすがの王太子レオナードも、まだ子供の頃はさすがにこういう子供らしい素直な発想をしてしまうのね。
なんだかちょっと、ほっこりしたわ。
焦った分、余計にね。
そういうことなら。
「
「そうなんですか?」
「はい」
嘘じゃないわ。
お父様が、私が作った変更機構にマリエットローズ式と命名して特許登録してしまって、私は後からそれを聞かされたんだもの。
「じゃあ、ゼンボルグ嬢が作ったわけじゃないんですね」
レオナード殿下が、あからさまにがっかりしたように、肩を落としてしまう。
だから『はい』とも『いいえ』とも答えずに、ただ微笑む。
「誰も私が作ったとは思っていないと思いますよ?」
「でも、僕はもしかしたらと思って」
「普通、子供が魔道具を作るなんて無理ですよね」
「やっぱりそうかぁ……残念だなぁ」
私が口にするのは、飽くまでも一般論について。
私が魔道具を作れるか作れないかについては、一切言及していない。
嘘は吐いていないけど、肝心なことも口にしていない、と言うやつね。
それをどう解釈するかは、レオナード殿下次第。
これがあの王太子レオナードだったらこんなベタな手法は通用しなくて、誤魔化した点を突っ込まれて確信を持たれてしまったかも知れないけど。
今はまだ、七歳のレオナード君なわけだから、そこまで気付くのは無理だろう。
だからセーフ。
だけど、レオナード殿下はすっかりがっかりしてしまっている。
……ちょっとだけ、可哀想かしら?
ここでこの話は終わらせて、全く別の話題に切り替えた方が安全だと思うけど……。
「もし私が魔道具を作れたとしたら、殿下はどうされていました?」
私に何を期待していたのかが気になる。
国王陛下や王妃殿下から、何かしらの指示があったようには思えないし。
もしそうなら、もう少し何か、先王殿下と王太后殿下がそれらしい態度を示したと思うから。
だって、ゼンボルグ公爵令嬢の私と、あまり親しくさせたくなさそうな態度しか見られないものね。
「もしゼンボルグ嬢が魔道具を作れるなら、魔道具について色々お話を聞いてみたかったんです」
「殿下は魔道具の開発にご興味があるのですか?」
「開発に興味と言うか……ゼンボルグ公爵領製はこれまでにない珍しくてすごい魔道具ばかりでしょう? だから、話を聞いてみたいと思ったんです」
なるほど、にわかに興味が出た、と言うだけなのね。
そういうことなら。
「私、少しだけでよければ、魔道具についてお話し出来ますよ」
「そうなんですか!?」
「はい。オーバン先生に、色々教えて戴いたんです。魔道具の歴史とか、魔道具の構造とか」
魔道具の作り方とか、ね。
「すごい! それは是非聞かせて欲しいです!」
あの王太子レオナードも、子供の頃はこんなに無邪気に瞳を輝かせていたのね。
なんだか可愛いわ。
「はい、いいですよ。と言いたいところですが……話が長くなりますし、今はパーティーの最中ですから」
「あ……そうでしたね。残念です」
さすがに、オルレアーナ王国とヴァンブルグ帝国の親善を深めるパーティーで、私がオルレアーナ王国代表のレオナード殿下を独占して、魔道具談義をするわけにはいかないものね。
それにお母様の手前、魔道具の話でだけど少しは気を引けて印象に残れたでしょうし、目的は十分に達したと言えるはず。
じゃあそろそろ、この話はおしまいに――
「だったら今度王宮に招待します!」
「――ええっ!?」
なんでそんな話に!?
「それならたくさん時間が取れて、ゆっくり話を聞かせて貰えますよね」
「え、ええ、そうですけど……ですがお立場上、さすがに不味いのでは……?」
「どうしてですか?」
「どうしてって……」
だっていきなり王宮にご招待だなんて!
しかも数多のご令嬢を差し置いて、ゼンボルグ公爵令嬢のこの私を!
見られている!
周りからすごい目で見られているわ!
これ、どうすればいいの!?
チラリとお父様とお母様を見る。
お父様は、私達の会話に介入したそうな先王殿下と王太后殿下と話を続けて抑えて、お母様がチラリと私に目を向けると、目だけで頷く。
ご招待を受けなさい、と言うことね。
「……ありがとうございます。謹んでご招待をお受けしますわ」
「やった! ありがとうゼンボルグ嬢!」
レオナード殿下、大喜びね。
そんなに魔道具の話が聞きたかったのかしら。
お母様がよくやったと、口元に笑みを浮かべている。
先王殿下と王太后殿下はさすがにちょっと渋い顔だ。
それから少し他愛ない話を続けて、ご挨拶は終了。
御前を辞して、レオナード殿下達に会話を聞かれない距離まで離れる。
「よくやったわ。さすがわたしの娘ね。殿下の興味を惹いて、見事に懐へ潜り込むところまで持って行けたわね」
お母様がしゃがんで目線を合わせると、満面の笑みで私を抱き締めてくれる。
お母様は喜んでくれているけど、それは勘違いなのごめんなさい。
最初から関心を持たれていて、魔道具と言う共通の話題もあったから、少しだけ話題を広げてすぐにおしまいにするつもりだったのよ。
だって私、ゼンボルグ公爵令嬢よ?
それがまさか、あそこまで食いつくだなんて。
「確かにいい手応えだが、さすがに性急に事を進めすぎてはいないか?」
「何を言っているのリシャール。ただ立ち話をしただけでは弱いわ。マリーをより深く印象づけるため、何よりマリーが殿下のご気性をよく知るために、一度くらいはじっくりと話をする機会を設けるべきだわ」
なんだか今になって、
もちろん、そんなつもりは欠片もなかったのだけど。
「マリー、だからといってね、これで殿下に決める必要はないし、決めなさいとも言わないわ。殿下がマリーを選ぶかどうかではなくて、マリーが選ぶ立場なの。だから、ただマリーが好きになれそうな男の子かどうか、それを見極めるつもりで、王宮へ遊びに行く程度の気楽な気持ちで行って構わないわ」
お母様が私の頭を優しく撫でてくれる。
やっぱり、さっきの話題はあそこで止めておけば良かったかしら……。
敵地に乗り込む、と言うわけではないけど、ゼンボルグ公爵家を快く思っていない人達の本拠地に乗り込むのは、さすがに少し気が重いわ。
「ふふ、さあ次は皇子殿下の番ね。どちらがマリーに相応しい男の子かしら。楽しみね、マリー」
そうだわ、それもあったんだった。
もう帰ったら駄目かしら……?
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