139 レオナード殿下とご挨拶

 他の貴族が挨拶を終えて側を離れるタイミングを見計らって、お父様とお母様と一緒にレオナード殿下へと近づいていく。


 すると私達に気付いたレオナード殿下が、何故か輝くような笑顔になった。


 そんなレオナード殿下の反応に、後ろに控えている前国王夫妻も私達に気付いて、わずかに渋い顔を見せて、すぐにその表情を消す。

 同じく、周囲のご令嬢やご夫人達が、私に嫉妬混じりや訝しそうな、突き刺さる視線を向けてきた。


 正直、勘弁して欲しいわ。


「第一王子殿下、先王殿下、王太后殿下、ご機嫌麗しく。お久しぶりです」

「お久しぶりでございます、第一王子殿下、先王殿下、王太后殿下」


 お父様とお母様が、一際気品に溢れる仕草と笑顔で丁寧に挨拶する。

 だから私もそれに倣って、精一杯、なけなしの気品を総動員して、笑顔でカーテシーをした。


「初めてお目にかかります、第一王子殿下、先王殿下、王太后殿下。ゼンボルグ公爵家令嬢、マリエットローズ・ジエンドです」


 先王殿下と王太后殿下が、そんな私に目を見張る。

 ゼンボルグ公爵家の私に、何か思うところがある、と言うのが丸分かりね。


 でも、レオナード殿下には特にそんな様子は見られない。


「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。レオナード・ラ・ド・オルレアーナです」


 むしろ親しみを感じさせる、しっかりと丁寧な挨拶を返してくれた。


 改めて声を聞くと、声変わり前の幼く高い声で、ゲームで聞いた声とは随分と印象が違う。

 でも、きっと将来、あのイケボになるんでしょうね。

 ちょっと楽しみだわ。


「ゼンボルグ嬢とは一度、お話をしてみたかったんです」

「まあ、そうだったのですか?」


 私と話を?

 初対面なのに何かしら。


「ところで先王殿下」


 先王殿下が私に目を向けて口を開きかけたところで、すかさずお母様が先王殿下に話しかけた。

 まるで、私とレオナード殿下との会話を邪魔されまいとするみたいに。


 これは……お母様なりのフォローなのよね?

 そして、しっかりやりなさいとの叱咤激励でもあると。


 お父様もお母様に促されて、先王殿下と王太后殿下との大人の会話に加わることに。

 結果、子供の私とレオナード殿下は、大人達に邪魔されずに会話できる状況が整えられた。


 レオナード殿下はそんな大人達の攻防に気付いているのかいないのか、積極的に私に話しかけてくる。


「今、ゼンボルグ公爵領では、魔道具の開発が盛んだそうですね」

「はい、その通りです。よくご存じですね」

「もちろん。母上……王妃殿下が毎日喜んで使っているので。僕の部屋にもランプに空調機、それから冷蔵庫があって、毎日使っていますよ」

「まあ、そうだったのですか。ありがとうございます」


 愛用してくれていると言うのなら、幼くても立派なお客様だ。

 それも王族なら宣伝効果も高い。

 営業スマイルは無料だから、惜しみなくサービスで大放出しておこう。


「っ……」

「どうかされましたか殿下?」

「う、ううん……じゃなくて、いえ、なんでもありません」

「そうですか?」


 なんでもないってことはなさそうだけど……。

 でも、小さな男の子の反応にいちいち突っ込んで聞くのも野暮かしらね。

 男の子って、どうにもよく分からないところにプライドがあったり、見栄を張ったりするから。


「コホン。それで僕は、前々からゼンボルグ嬢に聞いてみたいことがあったんです」

「私に聞いてみたいこと、ですか?」


 こてんと首を傾げる。


「は、はい。ゼンボルグ嬢は、もしかして魔道具が作れたりしますか?」

「――!?」


 ドキリと心臓が跳ねる。


 こんな質問をされたのは初めてだ。

 だって、誰も彼もが、子供の私が魔道具を作れるわけがないって考えて、全部オーバン先生が開発した物で、その特許をゼンボルグ公爵家が買い取っているだけだと思っているから。


 それがどうして私が開発したと言う話に!?


 どこかで漏れた!?

 それとも直感!?


 レオナード殿下の目はキラキラと輝いていて、何かを訝しんだり、私を怪しんだりして、探りを入れてきているようには見えないけど……。


 お父様とお母様は、先王殿下と王太后殿下と話を続けながら、声音にも表情にも出さないまま、意識をこちらに向けている。


 先王殿下と王太后殿下は、レオナード殿下が切り出したその話題に、なんら関心を払っていないみたいだけど。

 きっと先王殿下と王太后殿下も、他の大人達と同じように、私が魔道具を作れるなんて欠片も思っていないんだろう。


 つまり、レオナード殿下だけがそう考えた、と言うこと。

 これは、さすが乙女ゲームのメイン攻略対象ヒーローと言えばいいのかしら。


「どうしてそう思われたのですか?」


 質問に質問を返してしまうけど、意図や、そう考えるに至った経緯が分からないから、不用意なことは口に出来ない。

 だから、失礼を承知でそう聞き返した。


「だって、ゼンボルグ公爵領製の魔道具は、どれもマリエットローズ式と呼ばれているんでしょう?」

「……」

「……?」

「……」


 え、もしかしてそれだけ?


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