187 職業訓練学校とは 1
2023/06/13
06/08に 182 貧民街での炊き出し を投稿した後、
06/09に 184 町歩きもお仕事です を投稿してしまい、
06/12に 187 職業訓練学校とは 1 を投稿するまで、183を飛ばしていることに気付きませんでした。
なので、06/13は 183 貧民達へのお仕事 を位置を調整して投稿しますのでそちらをお読み下さい。
大変申し訳ありませんでした。
06/14は 188 職業訓練学校とは 2 を投稿します。
――――――――――
「では遠慮なく。職業訓練学校と言うのは、最近巷で噂になっている、職人を育てる学校のことですか? それも、一般の平民はおろか、貧民でさえ入れると言う」
その目は、
さすが顔役。
色々と情報を集めているみたいね。
だから、どちらに対する答えとしても、私は頷いて見せた。
「はい。平民でも貧民でも、地位や身分に関係なく門戸を開きます。本人の学ぶ意思や意欲があれば、分け隔てはしません」
私がそう言っても、ジスランさんは半信半疑みたいね。
こればかりは、信頼して貰えるまで真摯な態度で向き合うしかない。
「そして正確に言うなら、職人になるための初歩的な技術や知識を身に着け、就職活動を行うための学校です。つまり、職人の卵の育成学校ですね」
「職人の卵、ですか?」
「はい。そもそも現在の徒弟制では――」
技術を学ぶためには、職人に弟子入りして、そこで『目で見て盗む』しかない。
才能があるなら、その方法でも問題はないだろう。
もし才能がなくても、長く続ければある程度の技術は身に着けられると思う。
でも、才能のなさに途中で投げ出したり、修行のきつさに逃げ出したり、師弟で性格の相性が悪かったりと、弟子を辞めてしまう者達も少なくないと聞く。
そうなれば、職人にとっても弟子を育てるために費やしたお金と時間と労力が無駄になり、工房や店の経営を圧迫するわけだ。
これでは、弟子になるにも弟子を取るにも、双方のリスクが大きくて二の足を踏むことになる。
「――そこで、怪我や老齢などで一線を退いた職人達を常勤の講師として雇い、初歩的な技術や知識を学ばせるのです」
どんな仕事で、どんな作業をするのか。
どんな知識を身につけ、どんな道具を揃え、どれだけ扱えないといけないのか。
才能があるのか、ないのか。
向いているのか、いないのか。
それを
「また、協賛の組合に所属する現役の職人を非常勤講師として招き、最先端の技術や流行、その職人の店や工房の空気にも触れられるようにします」
「それで職人達が納得を? 技術と知識は財産です。弟子でもない者達に教えたいとは思わないのでは?」
「はい。だから初歩的な技術や知識に留めることにしました」
本当は、独立してやっていける職人になるまで育てる学校にしたかったけど……。
ジスランさんが言う通り、職人の技術と知識は財産だ。
現行の徒弟制度が土台にあるから、今すぐ日本の職業訓練学校みたいなシステムは受け入れがたいみたい。
「その上で、非常勤の職人達が自身の目で直接確かめ、見込みがある生徒を弟子や店員として勧誘、雇用してもいいとしました」
「……弟子や店員にする前に、人柄や実力を確認出来ると言うわけですか」
「はい。自分が弟子に取って最初から面倒を見なくても、常勤の講師が生徒に基礎を教えているので、即戦力を手に入れられるわけです」
そもそも、一人前になるのに十年、二十年と掛かるのは、『目で見て盗め』で雑用をさせているだけの期間が長いから。
だから最初から丁寧に教えれば、その期間を大幅に短縮出来て当たり前。
結果、弟子として見込める生徒が、短期間で大勢育つことになる。
「加えて、常勤の講師の紹介も含めて、生徒の就職活動を支援します」
そうすれば、師弟双方のリスクが大きく減ることになる。
つまり、師弟のマッチングの場を提供する意図もあるわけね。
それに生徒達が全員ド素人ばかりとは限らない。
実家が工房だった。
親が職人だった。
だけど様々な理由で家を継げなかった、職人になれなかった。
そんな経験者や埋もれた才能が業界に復帰する場にもなる。
「まとめると、弟子を取ってゼロから育てる手間暇や金銭の軽減。弟子が辞めてそれらが無駄になるリスクの軽減。そして即戦力の確保。これが職人側のメリットになります」
講師として秘伝を教えろと言うわけではないから、そっちのデメリットはない。
それに非常勤講師として授業をしてくれれば謝礼が支払われるから、基礎的な技術と知識を教えるだけで、バイト感覚で副収入を得られる。
「それと、あまり大きな声では言えませんが、仕事がなくて経営が苦しいときに、その収入は多少の足しにはなるはずです」
そういう救済の意味もある。
もっとも、頭が固い職人には向かない方法かも知れないけど。
「また、高齢の職人であれば、自分の技術を全て伝え残したいと欲したとき、基礎が出来ている弟子とすぐに出会えるのは、自身の残り時間を考えると大きなメリットになるのではないでしょうか?」
「それは確かに……」
「それに後継者問題を抱えていた場合、人柄を見込んで取った弟子を養子にしたり、婿入りさせたりすることも視野に入れられます」
「なるほど……言い方は悪いですが、そういう目的の弟子を物色し、手っ取り早く出会える。それはなかなか貴重な場になりますね」
「もちろん、これは強制ではないので、ゼロから弟子を育てたい職人には、そうして貰って構いません」
協賛の組合と言っても、そこに登録している工房の親方や店主の中には、これらのシステムに難色を示したり、反対したりする人達もいた。
そういう人達には、これまで通りのやり方でやって貰えばいい。
そこを曲げてまで賛同と協力をしてくれとは言わないわ。
「そして、指導する職人達の都合に合わせて一週間の時間割を組むので、生徒は受けたい授業を自由に選択、例えば鍛冶と木工を学ぶなど、複数の技術と知識を本人のやる気次第で学べるようにします」
そこは前世の日本の大学っぽい感じかしら。
これなら、自分に何が出来るか分からない人も、気軽に挑戦出来るはずよ。
試しに受けたら意外な才能に気付いた、と言うことがあるかも知れないわ。
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