4 海と大地のオルレアーナ
目が覚めた。
窓から差し込むのは茜色の日差し。
やっぱり天蓋付きベッド。
やっぱりぷにぷにお手々。
どうやら私は本当に、乙女ゲーム『海と大地のオルレアーナ』の世界の、悪役令嬢マリエットローズ・ジエンドに転生してしまったらしい。
「まじゅいれしょ……こりぇ……」
思わず呟きが漏れてしまったくらい、不味い。
ここ数年……転生前の最後の数年は、仕事が忙しくて趣味の乙女ゲームもお菓子作りもほとんどやっている暇がなかったから、記憶が少々おぼろげだけど……。
ともかく『海と大地のオルレアーナ』の記憶を
『海と大地のオルレアーナ』はヒロインと攻略対象のイケメン達が出会い、恋をする、対象年齢がちょっと上の女性向けの恋愛ゲームだ。
略して『とのアナ』。
ゲームの舞台はタイトルにもある、オルレアーナ王国。
その王都オルレアスにある国立オルレアス貴族学院だ。
問題なのは『とのアナ』が、ふわふわ、あまあまで夢いっぱいの恋愛模様を描く王道の乙女ゲームじゃなくて、政治色や陰謀劇の要素が強い大人向けの、その珍しさから話題になった乙女ゲームだってこと。
例えるなら、甘~いスイートミルクチョコみたいな展開や恋愛じゃなくて、苦み走ったビターチョコみたいな展開や恋愛が売りになっている。
ヒロインのノエルと、悪役令嬢マリエットローズとの関係も、普通の乙女ゲームとはかなり違った。
ノエルが平民で、その才能を見出されて男爵家の養女になり、男爵令嬢として貴族学院に入学して、王太子およびその側近の貴族の子息達イケメンと恋をするのは王道なんだけど……。
実はノエルはヒロインなのに、悪役令嬢マリエットローズの手先なのよ。
ノエルを養女にしたアテンド男爵は、悪役令嬢マリエットローズの父親であるゼンボルグ公爵の派閥の貴族で、ゼンボルグ公爵、アテンド男爵、その他の派閥の貴族達は、オルレアーナ王国を乗っ取る陰謀を
しかも、マリエットローズは王太子の婚約者どころか候補ですらなかった。
だからマリエットローズを王太子の婚約者にして、ゆくゆくは王妃になることで、オルレアーナ王国を乗っ取ろうとするの。
そのために、マリエットローズ達はノエルを利用すると言う流れなのよ。
じゃあどうノエルを利用するのかと言えば、攻略対象の王太子や、その側近のイケメン達の前でノエルを苛めることで、攻略対象達の同情を引いて、ノエルを攻略対象達に取り入らせると言うわけ。
そうして懐に潜り込んだノエルは、攻略対象達の弱味を握ったり、攻略対象達の実家である王家や重鎮の貴族家の動きを掴んだりして、それをマリエットローズにコッソリと報告する役目を負っていたの。
マリエットローズとゼンボルグ公爵はその情報を使って、王族や重鎮の貴族達を陥れて力を奪い、逆に力を付けることで、王太子の婚約者の座をもぎ取ろうとするわけね。
もちろんノエルは、罪悪感からその役目を拒みたい。
だけど逆らえない。
だって、病気の母親の薬代をアテンド男爵に出して貰っていたから。
しかもマリエットローズから母親に監視がつけられていることを臭わされていて、成果を出せないと、母親がどうなるか分からないと脅されていたから。
つまり、人質にされていたと言うわけね。
日を追うごとに増していく罪悪感に、やがて鬱ぎ込んでいくノエル。
そんなノエルを励まして、相談に乗ろうとする攻略対象達。
ノエルもまた、実家の状況が悪くなっていく一方の攻略対象達を、罪悪感から励まし、相談に乗ってあげるようになる。
そうして次第にノエルと攻略対象は心惹かれ合い、愛し合うようになっていくの。
やがて愛する人を騙して陥れている罪悪感に耐えられなくなったノエルは、攻略対象に全てを告白してしまう。
そんなノエルを許した攻略対象は、ノエルと共にノエルの母親を助け出し、マリエットローズとゼンボルグ公爵の陰謀を暴き、オルレアーナ王国を救う。
そして二人は結ばれてハッピーエンド。
と言うストーリーになっている。
「まじゅしゅぎる……どうしゅれば……」
そう、これの何が不味いって、ネット小説でよく見る王道の解決方法が全然通用しないのよ!
『ヒロインのノエルを苛めずに仲良くなればいいよね』
『王太子の婚約者にならなければいいよね』
『貴族学院に入学せず攻略対象達に会わなければいいよね』
と言うのが王道だけど、『とのアナ』のシチュエーションだと、どれも無意味だわ。
だって、陰謀を企んでいるのはお父さん達……ゼンボルグ公爵、アテンド男爵、その他派閥の貴族達なんだから!
私がどんな形でノエルや攻略対象達と関わろうと関わらずにいようとも、それどころか、たとえ私が協力しなくても、きっとそれとは無関係にお父さん達が陰謀を進めてしまう。
そして、断罪で処刑!
このままだと、私を愛してくれているお父さん、お母さん、そしてエマも……みんな処刑されてしまう!
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