175 交流の結果報告

 馬車に揺られながらだと、重要な話を落ち着いて出来ない。

 だから帰り道では、屋敷の廊下に何が飾ってあったとか、うちの宮殿や屋敷と比較してどうだったかとか、紅茶が香り高くて美味しかったとか、そういう他愛のない話をして、お父様やお母様の解説などを聞きつつ過ごした。


 貴族街の屋敷へ帰ると、まず部屋へ戻って化粧を落とし、普段着のドレスに着替えてしまう。

 そうして、リラックス出来る態勢になってから、リビングに集まって報告だ。


「それで、レオナード殿下とはどうだった?」

「どんなお話をしたのかしら?」


 お茶を飲んで一服すると、早速お父様が確認するように、お母様が興味津々で聞いてくる。

 前置きのような話は馬車の中で散々したものね。


「第一王子殿下とのお話の前に、お父様とお母様と別れて案内されている途中のことなのですが、あちらの騎士達が――」


 報告すべきことが多過ぎるから、時系列に従って、順に話していく。


「そうか。たかが騎士風情が思い上がっているようだな」


 お父様は騎士が思い上がっていると言ったけど、事実はゼンボルグ公爵家が舐められていると言うこと。

 それはつまり、上がそういう態度だから、下がそれに倣ってしまうと言うことだ。


 私は今日初めて王宮へ上がって、それも王族が暮らす屋敷にちょっとお邪魔しただけでしかない。

 だけど、それでもゼンボルグ公爵家とゼンボルグ公爵領への扱いの酷さ、あなどって下に見る風潮を、直に肌で感じた。

 現実のゼンボルグ公爵領を知らないまま、そして知ろうともせず、世界の果てだ貧乏だ田舎だと言うレッテルを貼って、そのイメージだけでそう振る舞っていると。


「そして、第一王子殿下が待っていた応接室には、先王殿下も待ち構えていました」

「なんだと!? まさかそこまでやるとは……」

「まあ……!」


 これはさすがにお父様とお母様も驚くわよね。

 私同様、二人とも顔に『してやられた』『大人げない』と書いてあるわ。


「何か酷いことは言われなかった?」

「マリーなら大丈夫だと思うが、おかしな言質を取られてはいないだろうね?」

「はい、多分大丈夫だと思います。まずは雑談から入って――」


 雑談の内容を簡単に説明して、それから魔道具の話に入ったこと、そしてレオナード殿下がヴァンブルグ帝国貴族の子供達に田舎扱いされたのを思い出して落ち込んだこと、共感したら先王殿下から横槍が入ったこと、それらを説明していく。


「それで、先王殿下の見下してくる態度に、つい思わず言い返して口論になってしまって……」

「先王殿下と口論を……」

「まあ、どんなことを?」


 さすがのお父様もギョッとしてしまったわね。

 お母様は、むしろ楽しそうに目を輝かせているけど。


 かくかくしかじかと、一通りの流れを説明する。


「先王殿下を論破したのか……」

「すごいわマリー! さすがわたしの娘ね!」


 お父様、唖然。

 お母様、大喜び。


 ついでに、侍従の無礼な横槍と、それを叱りつけて、レオナード殿下を諭したこと、先王殿下にチクリとやったことなども全部説明してしまう。


「そこまでのことになっていたとは……いや、ヴァンブルグ帝国大使館でのパーティーで賢雅会の貴族達をやり込めたマリーだ、そのくらいのことはしてみせるか……」

「でもよくやったわマリー。そこで引いては、一層侮られ、舐められてしまうもの。たとえ子供であっても、ゼンボルグ公爵家は誇り高く無礼は許さないのだと示したことは、とても大きいわ」


 お母様が抱き締めて、いっぱいキスの雨を降らせてくる。


 照れる。

 でも嬉しい。


「それに第一王子殿下に、ゼンボルグ公爵領への扱いについて考えさせる一石を投じたとは。そこまでしていたことに驚いたよ」

「ええ、本当にマリーは最高ね♪」


 またまたいっぱいキスの雨が降ってきた。


 お母様ったら、本当にもう。

 私も大好きよ♪


「ただ、このことで、第一王子殿下はともかく、王家の心証は非常に悪くなったと思います。第一王子殿下との婚約は王家が絶対に許さないかと……ごめんなさい」

「ふむ……いや、マリーが謝ることではないよ」

「そうよ。一番大切なのはマリーが幸せになることなのだから。仮に殿下がマリーを大切にしてくれたとしても、王家がマリーを見下して辛く当たると言うのなら、無理に王家と婚姻を結ぶ必要はないわ」

「……いいんですか?」

「ええ、もちろんよ」

「悩ませてしまったようで済まなかった。程度はともかく、マリーの対応は間違っていない。それで腹を立てるようなら、王家などその程度。考慮に値しない」


 お母様が優しく抱き締めてくれて、お父様も優しく頭を撫でてくれる。


「はい、ありがとうございます」


 良かった、二人をがっかりさせずに済んで。


 それにこれは、少なくとも陰謀が変な形で発動することは免れたと言うことよね?

 肩の荷が半分下りて、ほっとしたわ。


「あ……でも」

「どうしたマリー?」

「話の流れで、第一王子殿下をゼンボルグ公爵領に誘ってしまったんですけど……実際に目で見て貰った方が分かりやすいと思って」

「なるほど、それは重要なことだ。しかし……」

「殿下が応じてくれても、王家は許可を出さないでしょうね」


 やっぱりそうなるわよね。

 せっかくのチャンスなのに。


「それでもマリーが誘った以上、何もしないわけにはいくまい。第一王子殿下宛にマリーの名で招待状を出しておこう。ただし、マリー」

「はい、許可は降りないものと思っておきます」

「ああ、残念だろうが、そう思っておいてくれ」


 本当に残念だけど。

 レオナード殿下がゼンボルグ公爵領の本当の姿を知ってくれたら、ゼンボルグ公爵領への扱いがもっと大きく変わるチャンスだったのにね。


 ともかく、これで王都での私のやるべきことはおしまい。

 後はのんびり、領地に帰るまでの日々を過ごしましょうか。


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